第四話 わたくし、精霊の愛し子って、呼ばれていますのよ。
ごきげんよう。ララーシュカですわ。
ここにきたのが、五月五日だったのですが、八月になり、首がすわるようになりましたの!
この孤児院の子どもたちはね、毎月三十日に、お誕生日のお祝いをするみたいなの。それで、わたくしのお誕生日がわからないからって、五月五日が、お誕生日になりましたの。
ぴったり、生まれた日なのですが、伝えられませんでしたわ。だって、わたくし、赤子ですもの。
わたくしのお祝いも、五月三十日に、みなさまが、してくださったのよ。先生方と、子どもたちが作った、とっても大きなケーキをね、わたくしだけ、食べられなくて、とても悲しかったですわ。
シクシク。
その時に、子どもたちの教室に行ったのですが、それから、子どもたちに抱っこされるようになりましたの。
ものすごく、恐ろしいんですのよ。
それでもわたくし、元気にスクスク、成長していますの。
春が終わり、気づけば夏。
日本と違って、梅雨がありませんでしたのよ。時々雨が降っても、梅雨という言葉を聞かなかったの。アジサイは、あるみたいですけどね。
春夏秋冬の歌とか、子どもたちが歌っていましたから、四季は、日本と同じみたいですの。
曜日も、日本と同じですのよ。
今日はね、とっても静かなの。
日本のように、セミの声はしませんが、子どもたちがよく、森の小川や、湖で、水遊びをして、楽しんでいるみたいですの。
今朝も、早くから、みなさまお出かけになっていますのよ。引率する先生方は、大変だなぁって、思いますの。
わたくしと一緒に、お留守番をする先生も、ちゃんといますのよ。赤ちゃん一人残すなんて、ふつう、しませんわよね。
森は、聖獣の森と、それ以外の森があるそうですの。
聖獣の森は、ユニコーンさんの結界があるので、入る前に、ユニコーンさんに話しかけて、お願いをして、許可が出たら、入ることができるみたいですわ。
子どもたちが、教えてくれましたの。
聖獣の森には、貴重な薬草や、キノコや、木の実なんかがあって、神官のセレスさまが、たまに、それを採りに出かけているんですって。
セレスさまは、薬を作ったりもしているから、その匂いがするらしいの。ふしぎな匂いがするなって、わたくし、思っていましたのよ。
孤児院の先生方が、乳母車に、わたくしを乗せて、孤児院の周りを、お散歩してくださるので、その時に、セレスさまにも、お会いしているのです。
最近、とてもお忙しいみたいで、わたくしのお部屋には、いらっしゃらないの。
ユニコーンさんは、ちょこちょこと、覗きにきてくださるのですけどね。
子どもたちがいない、夜に。
足音がしないので、ぬっと、白い馬の顔が見えた時は、ホラーですのよ。もう、慣れましたけどね。
最初は泣いて、大変だったわ。孤児院の、先生方がね。
お部屋が真っ暗でも、ユニコーンさんの姿はなぜか、はっきりと見えますのよ。
ふつうの馬は、夜だったら、あんなにはっきりとは、見えないと思いますの。ユニコーンさんは、聖獣だから、はっきりと見えるのかも、しれませんわね。
彼、いきなりいらっしゃったと思ったら、しばらく、わたくしを見たあと、どこかへ行ってしまうのよ。しゃべらずに。
まあ、わたくし、「あー」とか、「うー」とは、言えるようになりましたが、会話を楽しめない年齢ですしね。
ここの子どもたちが、いつも、一方的に、いろんなことを、教えてくれるので、静かな時間に現れて、無言で見つめられるだけというのは、ちょっぴり、さびしい気持ちになったりするのよ。
ワガママかしらね?
そうそう、乳母車で、お散歩をしていると、知らない方々が、わたくしの顔を覗き込むのです。
光属性を持つ娘がいると、村中のウワサになっているようですの。おまけに、わたくしがいると、精霊さんたちが集まってくるのです。
なので、わたくし、村の人たちに、精霊の愛し子って、呼ばれていますのよ。
わたくしは昔、その言葉を、小説で読んだ記憶がありますが、この世界の本にも、あるのですって。
孤児院の子どもたちが、楽しそうに話していましたの。
あらっ?
ガヤガヤと、声が聞こえますわね。
よしっ! 子どもたちが、わたくしのお部屋にくる前に、寝ますわよっ!
グゥー。
起きてから知ったのですが、子どもたちが帰ったあと、王都から、お客さまがいらっしゃったみたいなの。
子どもたちの話では、神官さまが、三人、いらっしゃったみたいよ。
その方々、セレスさまと、人間の姿になったユニコーンさんとご一緒に、わたくしがいるお部屋に、お入りになって、しばらく出てこなかったんですって。
中で、どんなお話があったのかは、子どもたちは知らないので、想像力豊かに、いろいろなことを、語っていましたのよ。
わたくしが強い魔力を持っているから、神官にするためにここにきたとか、王子さまのお嫁さんにするためにきたとか、なんとか。
この王国の王子さまは、お二人いらっしゃるみたいなの。
お二人共、竜人族の血を、引いているんですってっ!
ファンタジーねっ!
あっ、わたくしも、妖精族の血を、引いていたんだったわね。
まあ、それは置いておくことにするわっ。
王子さま方はね、竜人族の血を引いているから、瞳が、紫系らしいの。闇属性を持っていて、髪は黒いんですって。
女の子たちは、王子さまにあこがれているみたいなの。王都に、王子さまを見に行きたいとか、言っていたわ。
行けば会えると、本気で思っている感じがしたの。子どもだものね。
うふふ。
竜人族についても、子どもたちが教えてくれたのよ。
竜人族は、空に浮かぶ島にいるみたい。そこには、ドラゴンさんが、たくさんいるらしいの。でも、島を見た人は、ほとんどいないんですって。
謎の島なのよ。
ファンタジーって、すてきね。
夢が広がるわねっ!
いつかドラゴンさんに、会えるかしら?
ドラゴンさんの背中に、乗せてもらって、空を飛べたら、楽しいでしょうねっ!
想像して、ワクワクするのは、楽しいわっ!
わたくし、こういう、楽しいお話は好きなのよっ!
あと、これは、子どもたちの想像ではないのですが、王都の神官さま方は、転移で、こちらにきたらしいのです。
転移は、強い魔力の持ち主にしか、できないそうなの。しかも、一度行った場所にしか、行くことができないとか。
魔力が強くても、王都の、魔法学園に行ってない子は、危ないから、転移はやっちゃダメだよとか、魔力暴走するとか、なんとか、言っていましたの。
そんなことを、孤児院で習うのか、ふしぎなのですが、大人たちの会話を、たまたま聞いたのかも、しれませんわね。それで、自分よりも年下に、教えたくなったのかも、しれません。
わたくし、まだ、赤ちゃんですのに、話せばわかると、本気で、思っている気がしますの。子どもって、面白いですわね。
まあ、わたくしは、そこらの赤ちゃんよりも、いろいろなことを、理解できていると、思いますけどね。
ここの子どもたちが、王都からいらっしゃった方々のことを、神官さまって呼んでいたので、わたくしも、そう呼ぶことにしましょうか。
セレスさまは、セレスさまですしね。
ユニコーンさんは、どうしましょうか。
ユニコーンさまは、言いにくいので、やめましょう。
♢
時が流れて、十月になりましたの。
昼は、暖かかったりしますけど、朝と夜は、寒いのですわ。
秋の虫の声もしますのよ。それは、九月からですけれど。
最近、木の葉が紅葉しているので、子どもたちが、わたくしのお部屋まで、持ってきてくれるのです。
お散歩の時も、見てるのだけどね。
わたくし、寝返りができるように、なりましたのよ。
ゴーロゴロ。ゴーロゴロって。
そういう、虫の声ではないのよ。
ベッドの上で、ゴロゴロできるようになったの。
たまに、カーペットの上でも、ゴロゴロしているけどね。うふふふ。
たくさん動けるって、しあわせね。
そうやって、楽しんでいたら、歯が生え始めて、離乳食が始まりましたの。
いろいろな味を、口に入れて、味わうことができるって、とてもしあわせなことね。
気づけば秋が終わり、冬がきましたの。
この世界でも、一年は、一二か月のようですわね。
教会と、孤児院の方々と共に、楽しく年を越しましたのよ。年を越す瞬間は、わたくし、眠っていましたけどね。
いいのよ。他の子どもたちも、その時間に寝てる子、多かったみたいだし。
わたくしはね、早起きするつもりは、なかったのよ。赤ちゃんですしね。寝るのが仕事なの。
でも、ちゃんと、日の出前に、目が覚めましたのよ。
たまたまだけどね。外が、ものすごく寒かったのと、子どもたちの声が、うるさかったおかげよ。
最初は、乳母車の中にいたのだけど、いろいろな刺激を感じて、泣き出してしまったの。そうしたらね、すぐに子どもたちや、大人たちが、気づいてくれて、孤児院の先生に、抱っこされたの。
それで、初日の出を拝むことができたのよ。
この、グードウェルド王国には、たくさんの神々がいるそうなの。その中でも、太陽の神は、特別な存在だって、セレスさまが、子どもたちに話していたわ。
みなさま、知ってるーって、言っていましたけどね。
ここの教会は、太陽の神を祀っているそうよ。
教会の敷地内に、セレスさまのお家と、孤児院があるのだけれど、とても古い教会みたいなの。
教会の中には、太陽の神の像があったり、美しいステンドグラスがあるのよ。
初めて見た時は、感動したの。
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