[ララーシュカ・三歳]

第五話 三歳の、お誕生日ですわっ!

 ごきげんよう。ララーシュカですわ。

 今日は、五月五日。わたくし、三歳になりましたのよ。オホホホホ。

 うれしいですわ。しあわせですわ。


 朝から、いろいろな方が、お誕生日おめでとうって、笑顔で、言ってくださったのよ。

 生まれたことをね、お祝いされるということは、ここに存在していることを、喜ばれている気がするの。だから、とってもうれしくて、しあわせですのよ。


 お勉強をしたあと、孤児院の先生三人と、子どもたちと一緒に、森に、ピクニックに行きましたの。


 聖獣の森とは、違う森ですのよ。そこで今日は、ウサギさんと、シカさんを見ましたわ。


 うふふふふ。

 動物って、可愛らしいですわよね。


 つい、動物さんを見つけると、駆け出してしまうのですが、森で走ると、よく転ぶので、先生方に、走ってはダメですよって、注意をされますの。


 実は、自分のケガぐらい、治せるのですが、魔法を使ったとバレると、叱られそうなので、だれにも、言っていないんですのよ。


 わたくしが一人の時に、ちょっとしたケガを、してしまったのです。

 その時に、光属性って、治癒魔法が使えたはずって、思って、こっそりと、試してみたのです。


 だって、ケガを治すぐらいで、魔力暴走するとは、思いませんでしたもの。

 とはいっても、魔法なんて、習っていませんし、治癒魔法の使い方が書いてある本も、図書室に、ありませんでしたから、自己流ですけどね。


 この孤児院の子たち――魔力が強くない子たちも、簡単な魔法は、セレスさまから習うと、子どもたちから聞きましたが、十歳からだそうですの。


 危険だから、図書室に本がないのでしょうね。

 あれば、子どもが勝手に、やるでしょうから。


 なので、魔法の使い方が、わからなかったわたくしは、ケガをしたところを見ながら、治れーって、念じてみたのです。そうしたら、傷口が淡く光って、あっという間に、治りましたの。


 あの時は、自分でやったことなのに、きょとんとしたあと、じわじわと、喜びの感情が、あふれ出してきましたのよ。


 この世界には、魔力を持った、魔獣という存在が、いるらしいのですが、聖獣さまが、生まれる泉があるからなのか、この辺りには、いないそうですの。

 可愛い魔獣もいるらしいので、いつか、見てみたいですわね。


 三歳のお誕生日ですから、ユニコーンさんとも、ひさしぶりに会いたいわね。

 一歳のお誕生日の夜も、二歳のお誕生日の夜も、わたくしに会いに、きてくださったので、きっと、きてくださると思うのですが……。


 今まで、ユニコーンさんに、お誕生日おめでとうとか、そういう言葉を、言われたことは、ないのですけどね。

 たぶん、お誕生日おめでとうと言う、習慣が、ないのではないかと、わたくしは思うのです。


 ユニコーンさんの年齢は、知りませんが、聖獣ですもの。

 人間の常識で考えては、いけないと思いますの。


 ユニコーンさんは、わたくしが歩くようになってからは、あまり、顔を出してはくださらないのよ。

 大きくなったと、思ったのかしらね。


 ユニコーンさんのお気持ちは、わたくしにはよくわかりませんわ。あの方、わたくしが話せるようになってからも、あまり、会話をしてくださらないですしね。


 わたくし、だいぶペラペラ、話せるようになりましたのよ。


 お散歩に出かけると、『おしゃべりが上手ね』とか、『年上の子が多いからだわ!』とか、『女の子だからよ!』とか、いろいろ言われますの。村の人たちに。


 数字や文字も、読めますのよ。知っている数字でしたし、文字が、日本語に見えましたから。言葉は、この大陸の共通語、らしいのですけどね。


 書くことも、できますのよ。

 小さな手で書くせいか、上手とは、思えないのですけれど、周りからは、褒められていますの。


 文字だけでなく、絵も、褒められますのよ。

 絵は、日本にいたころから好きなの。絵画コンクールで、何度も金賞をいただいていたから、自信があるのよ。


 わたくしの言葉なのか、行動なのか、天才だと言ってくださる方々も、いらっしゃるのですが、そんなことはないと思いますの。


 見た目は幼女。頭の中が十三歳、というだけですしね。


 日本では、バカにされていましたのよ。わたりさまに。あと、世話係にも、言葉遣いのことで、注意されていましたの。日本語って、難しいのよ。


 そういえば、ユニコーンさんが、わたくしをここに連れてきたことは、孤児院の先生方や、子どもたち、それから、教会で働いている方々は、知っているのですが、他の村人たちは、知らないんですって。


 セレスさまに、そう言われましたのよ。

 外の人には、言ってはいけないみたいです。


 王都の神官さま方とか、わたくしがここにきた時のことを、知っている方々もいると、その時に、教えていただきましたの。

 上の人には報告をしないと、いけないのでしょうね。


 だから、わたくしに、妖精族の血が流れているのも、王都の神官さま方は、ご存知のようですわ。


 それで、なんと、王族の方々にまで、わたくしのことが伝わっているらしいですの。あらまぁ、どうしましょうって感じなのですが、わたくしには、どうすることもできませんからね。今をのんびりと、楽しみますわ。


 幼女ですもの。


 そうそう、わたくし、孤児院の子どもたちの顔と名前が、一致するようになりましたのよ。

 ここにいる子どもたちは、この村だけではなく、いろいろな土地からきているようですの。


 孤児院がない場所もあるみたいですし、孤児院があっても、小さくて、入れなかった子が、別の土地に行くこともあるようですわ。


 十六歳になって、成人すると、ここを出て行くのです。わたくしがここにきてから、二人、十六歳になって、働くために町に向かわれましたのよ。


 ふう。ヒマですわね。

 わたくしだけ、なぜか、一人部屋ですの。もしかして、魔力暴走を警戒されているのかしら?


 今でも、強い魔力を持つ子どもは、わたくしだけですしね。隔離されているわけでは、ありませんよね?

 もし、そうだったら悲しいので、確認はしませんけれど。


 孤児院の子どもたちには、うらやましがられますのよ。ですが、はっきり言って、さびしいのです。

 でも、ユニコーンさんのことを想うと、わたくしが一人でいる方が、安心してきてくださる気がするの。


 ヒマなので、窓のそばに椅子を置いて、その上に立ち、外を眺めながら、一人で語っていたわたくしですが、ドアを叩く音を聞いて、ニヤリとしましたの。

 だれかしら?


 ピョンッと、ジャンプして、タタタッと走ります。勢いあまって、ドンッと、ドアにぶつかってしまいました。

 その瞬間、ドアからぬっと、ユニコーンさんが現れましたっ!


「――びっ、びっくりしましたわっ!」


 胸が、ドキドキ、ドッキドキです。

 もうっ、ユニコーンさんったら、ドアを開けるのを忘れたのねっ!


「すごい音がしたが」

「あっ、はいっ! お客さまがきたーって思って、走ったら、ドアに、ぶつかってしまいましたのっ!」


 わたくしは、元気いっぱいに、答えましたっ!


「そうか」


 今日もクールな、ユニコーンさんですね。

 そんなユニコーンさんとは違って、ゆっくりと、ドアを開けて、わたくしのお部屋に入ってきてくださったセレスさまが、「大丈夫ですか?」と、やさしく声をかけてくださいました。


「はいっ! 大丈夫ですわよっ! 元気いっぱいですっ! お誕生日ですものっ!」

「そうですね。おめでとうございます」


 今日も、薄い青の神官服姿で、やさしくほほ笑んでくださるセレスさまに、キュンキュンします。今朝も、お祝いのお言葉をいただいたのですけどね。おめでとうという言葉は、何度いただいても、うれしいのですわっ!

 しあわせですわっ!


 キャーって、頭の中が、お祭り気分ですの。

 一人で、さびしかったから、かしらね。まるで、幼子みたい。

 うふふふふ。


 三歳なのですから、はしゃいでも、いいですわよねっ!

 大きなケーキは三十日なので、それまで、毎日が、お祭りですわっ!


 お誕生日のケーキはね、先生方と、子どもたち全員で、作るのよ。その月がお誕生日の子も、一緒にね。


 日本にいたころは、よく、直登なおとさまのお家で、お菓子作りをしていたの。直登さまのお母さまが、お菓子研究家だったから。

 それでね、直登さまも、直登さまのお姉さまも、お菓子作りが好きで、とっても上手だったのよ。


 一緒にお菓子作りをするの、楽しかったなぁって、時々思い出すの。


 普段、あまり笑わない久孝ひさたかさまも、猫宮家にいると、安心するのか、よく笑顔を見せてくださったのよ。あの方も、猫やお菓子が好きですしね。


 わたくし、自分の実家では、居場所がないと感じていたので、あの空間は、とても大切なものでしたの。しあわせな時間でしたわ。


 もう、もどれませんけどね。

 今は、今という時間を、生きましょう。


 わたくしはもう、小蝶こちょうではなくて、ララーシュカなのですわ。

 ララララー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る