第十八話 お城で、お母さまと王妃さまとご一緒に、お茶をしたり、デュオン兄さまと、ヴィオリード殿下とご一緒に、お城を探検しましたの。そして、図書室で絵本を読みましたの。

 ごきげんよう。ララーシュカですわ。


 お披露目パーティーが無事に終わりましたが、お城に行くことになりましたのよ。

 今月末、王妃さま主催のお茶会があるので、次はそれだと思っていましたのに、その前に、お城に行くことになりましたの。


 ドレス、お茶会のために、オーダーメイドで作っていただきましたのに。まあ、それはあとで着ますけど。

 次は、ロイヤルローズガーデンで、バラを見ながらお茶会すると思っていましたのに……。


 って、ショックを感じていたのですけど、王妃さまがね、わたくしに会って、お茶がしたいらしいので、行くのは決定なの。

 個人的なお茶でも、お茶会よね。しかも、王妃さまと、お会いするのよ。


 緊張しかないのですが、これを乗り越えれば、次はきっと、楽勝ですわっ!

 たぶん。


 お母さまが、目をキラキラさせて、とっても楽しそうですしね。

 行くしかないのよ。

 個人的にちょっとだけ、お茶がしたいと、王妃さまがお望みなので、今あるドレスでいいそうですの。


 なので、とっても悩みましたが、淡いピンク色のふんわりとしたドレスにしましたの。ペンダントはね、星の形なの。金色の長い髪をまとめているのは、空色のリボンよ。


 春って感じで、いいわよね。

 ネイルは、バラ色にしたの。


 お母さまと、お母さまの専属侍女、わたくしと、わたくしの専属侍女のケイト、それから、デュオン兄さまも一緒に、馬車に乗りましたの。

 キリア兄さまは学園よ。平日だからね。


 馬車に乗ったら楽しくなって、窓から王都を眺めましたわ。

 しばらくして、お城が見えた時は、テンションがものすごく上がりましたの。

 でも、ケイトがいますし、注意されたら嫌なので、顔には出さないようにしましたのよ。


 お城に到着して、馬車から降りると、お城の方が待っていてくださって、王妃さまがいるお部屋まで、案内をしてくださいました。

 そこは、とても広くて、おしゃれな空間で、「うわー!」と、つい、声を出してしまいましたのよ。


 専属侍女たちは別の場所で待機なので、ケイトの視線を気にしなくてよかったというのも、ありますけどね。

 お母さまはクスクスと笑っていますし、デュオン兄さまも、楽しそうな表情をされているので、問題はないのです。


 お城の執事やメイドは、なにも見てません、聞いてませんよーみたいな顔ですし。

 フカフカなソファーに座って、大きな窓から、美しいお庭を眺めていると、王妃さまが、「ごきげんよう」と楽しそうに言いながら、現れましたの。


 すると、お母さまがゆうがに立ち上がって、カッテシーをされました。同じく立ち上がったデュオン兄さまも、男性がするおじぎをされています。

 それを見て、わたくしは立ち上がり、カッテシーをしましたの。


「楽になさって」


 と、王妃さまが言ってくださって、ソファーをすすめてくださったので、わたくしたちは、お礼を言ってから、ソファーに座りましたの。


 楽しそうな顔で、王妃さまがお座りになって、そのあと、お茶と、お皿に載ったケーキが出てきましたのよ。


「ひさしぶりね。サンドラ」


 青色の髪と、緑色の王妃さまが、そう、おっしゃると、黄色い髪と、赤色の瞳のお母さまが、うれしそうに笑って、「はい。おひさしぶりです。エミリア様」と、言いましたの。


「その子が、ララーシュカね。すごい魔力ね。金色の髪も美しいわ。なんだか、夢を見ているみたい。神々しいわ」


 瞳を細めて、眩しそうに見ないでください。

 わたくしはふつうの幼女ですの。可愛いですけどね。だって、ヒロインですもの。


「ウフフ。エミリア様ったら。前にも話したけど、とっても賢くて、可愛い子なのよ!」


 えっ? 賢い? まあ、幼女としてはそうかもしれませんが、あまり自慢するほど頭がいいわけではないのですよっ。勘違いされると困るわぁ。


「ララーシュカ、ごあいさつを」

「はい。お母さま」


 わたくしは、ドキドキしながら、自己紹介をしましたの。

 もう、ご存知だと、思いますけどね。


「可愛いわー。女の子って、いいわねっ! ワタクシも、可愛い女の子がほしいわー!」


 ほほう。そうなのですねー。

 わたくし、なんて返したらいいのか、わかりませんの。なので、お母さまが王妃さまに話しかけるまで、黙ってニコニコしていましたわ。

 そうしているだけでも、疲れますわね。


 のどが渇きましたわ。

 王妃さまがお茶を楽しまれているので、わたくしも、飲んでもいいかしらね?

 ちらっと、デュオン兄さまに視線を向けると、目が合いましたの。

 デュオン兄さまは、おだやかにほほ笑みながら、お茶を飲まれました。


 わたくしも、飲みますわよっ!

 ゴクリ。

 これは、ローズティーですわねっ!


 ケーキも食べましょう。モグモグモグ。

 おいしいですわっ!


 王妃さまと、お母さまは、楽しそうに、お話をされています。

 このお二人、魔法学園で、同級生だったそうですのよっ!


 王妃さまは、元公爵令嬢で、お母さまは、元侯爵令嬢だったと、お母さまからお聞きしていますの。

 結婚しても仲良しのお友達がいるって、すてきだわねっ!

 うらやましいわっ!


 結婚は置いておいても、お友達はほしいわね。

 わたくしは前世持ちですし、お友達ができても、妖精族のことは話さないようにと、ケイトに言われましたから、話せないことがあるのですが、それでも、一緒に楽しく過ごすことのできるお友達がほしいって、そう思うのですわ。


 甘くておいしいケーキを、モグモグ、ゴックンしながら、考えごとをしていたら、扉を叩く音がして、だれかが入ってきましたの。


「母上、お呼びですか?」


 あらまっ!

 ええ、まあ、お城ですからね。

 ここで会う可能性も、感じてはいたのですよー。ですが、わたくし、ケーキを食べていたの。

 ナプキンで、口をやさしく、ふきふきしましょう。


 そうしている間に、王妃さまが、「ヴィオリード! 勉強が終わったのね」と、彼に話しかけましたの。

 そう、扉から入っていらっしゃったのは、第二王子のヴィオリード殿下ですのよっ!

 黒髪と、赤紫の瞳。王子さまって感じの服を、今日も着ていらっしゃいますね。とてもよくお似合いですわよっ! さすが、王子さまですわねっ!


 ――あっ!!

 いつの間にか、お母さまがカッテシーを、デュオン兄さまが、男性がするおじぎをされているではありませんかっ!

 なんてことっ!


 わたくしは大あわてで立ち上がってしまい、アワワワと思いながら、カッテシーをしましたの。


「ウフフフ」


 王妃さまの笑い声。


「楽にしてくれ」


 そう、ヴィオリード殿下がおっしゃったので、わたくしは、殿下に視線を向けましたの。

 王妃さまは楽しそうな声で、ヴィオリード殿下に、「彼女がララーシュカよ」って、わたくしのことを紹介してくださいましたの。


「――君が、ララーシュカ嬢か」

「はい。ララーシュカと申しますの。初めまして。ヴィオリード殿下」


 初めましてでは、ないのよ。だけど、聖獣の森で殿下と会ったことは、だれにもバレてない気がするの。殿下も、ひさしぶりとは言わないしね。だから、初対面な感じで、ごあいさつをしてみましたの。


 でも、なんだか、ララーシュカ嬢って呼ばれるのは、違和感がありますわね。


「ララーシュカは城、初めてよね。ヴィオリードとデュオンと一緒に、探検してきたらどうかしら?」


 ――はい?

 王妃さま。探検って、なんですの?

 そんな、子どもみたいなこと……。


 あっ、わたくし、五歳でした。そうでした。

 デュオン兄さまは七歳ですけど、ヴィオリード殿下は、わたくしと同じ、五歳でしたわね。


 ふむ。


「ララーシュカ?」


 あっ! お母さまの声っ!

 忘れていました。王妃さま。


「えっと、あのっ、わたくしっ、探検してきますわっ!」


 王妃さまとお母さまに、そう言って、急いで立ち上がり、ハッとしましたっ!

 そうだわっ! ゆうがに、行動しないとですわっ!


 どんな時も落ち着いて、行動をするのです。


 美しいじゅうたんですわねー。オホホホホホホ。


「デュオン」


 ヴィオリード殿下の声に反応したデュオン兄さまが、「はい」と、よい子のお返事をして、立ち上がり、スタスタとわたくしを、追い抜きましたの。

 ふぬぬっ!


 ゆうがさを意識しながら、わたくしはデュオン兄さまを、追いかけましたのよっ!


 そうしたら、うしろから、クスクス、クスクス、笑い声が聞こえましたけど、気にせずに、ヴィオリード殿下と、デュオン兄さまに続いて、お部屋を出ましたの。


 お部屋の前には、護衛の方々がいらっしゃって、その方々も一緒に、わたくしたちは、お城の中を探検しましたのよ。


 精霊さんとは出会いましたが、動物も魔獣もいませんでしたの。広い廊下や、大きな扉や、働く大人たちと出会ったぐらいですのよ。


 大きな絵とか、タペストリーとか、高そうな壺に生けられた花とか、美しいものはたくさんありましたから、充分に、楽しむことはできましたけどね。

 ヴィオリード殿下ね、ちっとも、しゃべってくれないの。わたくしにだけ。


 デュオン兄さまには、ちょこちょこ、声をかけるのよ。デュオン兄さまは、やさしい顔で、殿下のお話を聞いていますの。


 殿下、ほとんど無表情なのです。なにをお考えになっているのか、わかりません。

 聖獣の森では、話しかけてくださったのに……。

 さびしいですわ。


 やっと、わたくしに話しかけてくださったのは、ヴィオリード殿下と、デュオン兄さまの足が速くて、追いかけていたわたくしが、転んだあとのことでした。

 よく磨かれたつるつるな廊下で、すってんころりんよ。


 すぐに、護衛の一人が、気づいてくださって、デュオン兄さまと、ヴィオリード殿下が、わたくしの名前を呼んでくださったの。だけどね、殿下が、ララーシュカ嬢って、呼ぶから……嫌だなって、思いましたの。


 名前を呼んでくださるたびに、嫌な気持ちになっていたら、お会いすることが嫌になりますもの。

 だから、ララーシュカって呼んでほしい気持ちを伝えたのよ。


 そうしたら、ララーシュカって、恥ずかしそうな表情で、呼んでくださったの。

 キュンって、しちゃった。


 そのあと、図書室にも行きましたの。

 そうしたら、絵本がたくさんある本棚のところで、気になる本を見つけましたの。


月夜つきよの民?」


 絵本の背表紙を見て、タイトルが気になったわたくしは、ポツリとつぶやいてから、手を伸ばしましたの。


「あっ、それっ、僕も読んだよ。昔」

「俺も」


 ふり向き、デュオン兄さまと、ヴィオリード殿下を見たわたくしは、「どんなお話ですの?」と、お聞きしてみましたの。


 そうしたら、「本の感想なんて、人によって違うんだよ。今、目の前に本があるんだから、自分で読むべきだと思う。短いし」と、デュオン兄さまに言われてしまいましたの。


 そうですわね。

 今ここに本があるのに、他の方に教えてもらおうとするなんて、この本に失礼よね。

 ごめんなさい。


「読みますわ」


 そう告げてから、わたくしは、絵本『月夜の民』を読み始めましたの。

 ポロポロと涙を流しながら、絵本を読み終えたわたくしは、デュオン兄さまを見上げましたの。


「絵は、とても美しいのです。ですが、せつな過ぎますわ。あとがきに、遠い昔に、この大陸にいた月夜の民のことを残したかったと書いてありましたが、本当なのでしょうか?」


「うん、本当だよ。他にも、月夜の民について書かれた本があるけど、読む?」


 真面目な表情のデュオン兄さまをしばらく見つめたあと、わたくしは、首を横にふりましたの。


「無理ですわ。今の、わたくしには……」


 まだ、涙がとまりません。


「そう」


 小さくうなずくデュオン兄さまを見たあと、わたくしは、絵本を本棚にもどしましたの。



 その夜、わたくしは夢を見ました。

 満月の夜に、走る夢です。


 だれかから、逃げている夢でしたの。

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