第二十三話 女の子のお友達ができましたの。

 ごきげんよう。ララーシュカですわ。

 あれから、久孝ひさたかさまの夢は見ていませんの。

 でも、時々、思い出しては、彼のことを思い出しますの。


 よく考えてみれば、わたしくの他に、直登なおとさまも、こちらにきていますものね。

 久孝さまのお気持ちを考えると、胸の辺りが痛くなったり、涙が出ますの。


 久孝さまには、しあわせになっていただきたいわね。

 わたりさまもだけれど。


 そうそう、デュオン兄さまが、ヴィオリード殿下に話してくださったの。そうしたら、殿下が許可してくださったのよ。

 来月――七月になるけれど、一緒に、聖なる森に行くことになりましたの。

 楽しみだわ。


 今月――六月十六日はね、侯爵令嬢の、お披露目パーティーがあるの。五歳になるのよ。

 お友達になれるかしら?


 その子の名前は、ミリアム・ターニア。

 侯爵令嬢よ。


 ミリアムさまのお母さまはね、わたくしのお母さまとお友達なの。それで、ミリアムさまのお姉さま――ソフィアさまは、キリア兄さまと同い年で、お友達なのよ。

 ミリアムさまのご両親と、お姉さまはね、わたくしのお披露目パーティーに、きてくださったみたいなの。


 あの日、侯爵家の方々と、お話をした記憶はあるのよ。だけどね、細かいことは覚えてないの。

 お母さまや、お兄さま方が、いろいろ教えてくださっているし、ケイトも、ちゃんと覚えて、失礼のないようにって言うからね、ちゃんと、お勉強してから行くわよ。


 とはいっても、写真があるわけではないし、同じ髪の色や瞳の色の方が、たくさんいらっしゃるので、覚えるの、難しいのですけどね。


 日本にいたころなんて、ほとんどみなさま、黒髪でしたから、同じ制服を着ていると、だれがだれだか、わからないこともありましたの。

 毎日お会いして、お話するような方なら、覚えるのですけどね。それ以外は、覚えられませんでしたのよ。


 前世のことは、もういいわね。

 考えるのをやめましょう。

 前世より、今が大事ですわ。わたくしは今、生きてるの。


 ミリアムさまはね、橙色の髪と瞳の明るくて、やさしい子なんですって。

 いいわね。やさしい子。

 わたくし、やさしいお友達がほしいですわっ!


 そう思って、楽しい未来のことを想っていたら、わたくし、夢を見ましたの。

 前世の夢を。

 それで、思い出したのよ。

 乙女ゲームのキャラだって。


 デュオン兄さまに確認してみましたら、やはり、あのゲームのキャラクターだそうですの。

 名前のあるキャラよ。

 ミリアムさまはね、乙女ゲームのヒロインの、お友達なの。二人でお茶会したりもするのよ。すてきねっ!


 現実でも、お友達になれるかしら?



 ドキドキ、ワクワクしていたら、あっという間に、侯爵家に行く日になりましたのよ。

 今日は、って、今日もですね。お父さまはお仕事が忙しいの。相手は侯爵家で、公爵家よりも身分が低いですから、断ることができるのよ。


 キリア兄さまも、学業を優先されたの。

 キリア兄さまって真面目ね。嫡子だからかしら?

 わたくしにはよくわかりませんが、いろいろと背負うものがあるのでしょうね。


 というわけで、わたくしとお母さまとデュオン兄さま、お母さまの専属侍女、わたくしの専属侍女のケイトと共に、馬車に乗りましたの。

 馬車の大きな窓からは、晴れた空や、黄色やオレンジのアジサイが見えましたのよ。たくさんの、精霊さんたちも。


 そして。

 やってきました! 侯爵家!

 馬車から降りたわたくしたちは、侯爵家の使用人の案内で、屋敷に入りましたの。


 専属侍女たちは別の場所で待機なので、別れたあと、大きな扉から、広間に入りました。

 楽器の音。人々の声。たくさんの視線。

 すごいですわね。緊張しますわ。


 あらっ?

 ここにも、精霊さんたちがいますわねっ!

 そう、思っていましたら、お母さまが、だれかに話しかけましたの。

 橙色の髪と、緑色の瞳の、男性が、いらっしゃいます。その横に、キリア兄さまと同じぐらいでしょうか。橙色の髪と、緑色の瞳の令嬢が、いらっしゃいます。


 同じ髪と瞳の色ですね。顔も、なんとなく似ています。血のつながっている父と娘ですね。わかりやすいですわ。

 令嬢のドレスは、緑色なの。なんだか、疲れたような顔をしているように見えますわね。

 大丈夫かしら?


 お二人共、見たことがある気がしますわ。

 お母さまが声をかけた男性は、ミリアムさまのお父さまのようですわね。そんなお話をされていますから。

 その流れで、わたくしとデュオン兄さまも、彼とすこしだけ、お話をさせていただきましたのよ。


 ミリアムさまのお父さまが、わたくしのことを褒めてくださいましたの。

 今日はね、ラベンダー色のドレスなのよ。三日月の形のペンダントをしていますの。金色の長い髪をまとめるリボンは藍色で、ネイルはラベンダー色なのよ。

 いつもより、大人っぽい感じに、してみましたの。


 しばらくして、扉が開いたと思ったら、橙色の髪と瞳のご夫人と、同じく、橙色の髪と瞳の小さな――あっ、わたくしも小さいですね。そうでしたわ。


 橙色の髪と瞳の、淡い黄色のドレス姿のご令嬢が、ゆったりとした足取りで、広間に入ってきましたの。淡い黄色のドレスが、とてもよく似合っていますわね。水色のペンダントも、きれいだわっ!


 ピタリ、音楽がとまります。

 大きなざわめき。そして、静寂。

 カツン、カツンと、足音。


 音の方に、視線を向ければ、ミリアムさまのお父さまでしたの。

 ミリアムさまのお父さまは、彼女に近づき、なにやら、小声で、お話をされています。

 ああ、わたくしのお披露目パーティーを、思い出しますわね。

 胸が震えるわ。


 一人、感動していると、ミリアムさまのごあいさつが始まりました。

 可愛らしい声。

 ごあいさつが終わり、公爵家――ええ、わたくしたちから、話しかけましたのよ。

 目が合いましたからね。


 お母さまが、まず、侯爵家の方々とお話されて、そのあとに、デュオン兄さまと、わたくしが、ミリアムさまに、話しかけましたの。


 デュオン兄さまったら、わたくしが伝える前に、ミリアムさまに向かって、「僕の妹、この前、お披露目をしたばかりで、友達がいないんだ。仲良くしてくれるとうれしいな」って、笑顔で言ってしまったのよ。


 わたくし、自分で言わなきゃって思って、ものすごく緊張をしていましたのに。

 プンプン。


 怒りを感じましたが、そんな気持ちを顔には出さずに、できるだけ笑顔を作っていましたら、ミリアムさまが、恥ずかしそうな顔で、わたくしを見つめたあと、「あっ、あのっ、あたくしも……ララーシュカさまの、お友達になりたいですっ!」って、言ってくださったの。


 うふふふふふふ。うれしいわっ! しあわせだわっ!

 今なら、この喜びの感情で、空が飛べそうよっ!

 妖精族の血を引いているのに、羽、ないですけどね。


 でも、気分はバラ色、ふわふわなの。


 わたくしたちの次は、メリッサさまのお母さまでしたの。メリッサさまがいらっしゃらないことに気づいたわたくしは、あることを、思い出しましたのよ。


 ゲームでは、このお披露目パーティーに参加していらっしゃったと。


 たくさんの取り巻きに囲まれて、高笑いをされていたぐらいしか、覚えていませんけどね。

 とても派手というか、インパクトが強かったので、覚えていますのよ。


 まだ、落ち込んでいらっしゃるのでしょうか?

 気になりますわね。


 ふう。お腹が空いたので、サンドイッチでも、食べましょうか。

 のども渇いたわ。


「デュオン兄さま、お腹が空きましたわ。お母さま、お友達と楽しそうにお話をされてますし、ヒマですので、軽食のところに行きたいのですが」

「一緒に行こうか?」

「ありがとうございます」


 わたくしはデュオン兄さまと一緒に、軽食がある場所に向かいましたの。

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