【グードウェルド王国】

[ララーシュカ・五歳]

第十九話 王妃さま主催のお茶会に参加しましたの。

 ごきげんようっ! ララーシュカですわっ!

 あっという間に、五月三十日になりましたの。


 王妃さま主催の、お茶会ですのよっ! お茶会っ! 王妃さまとは、一度お会いすることができましたが、それでもやっぱり、緊張しますわねっ!

 胸がドキドキ、ドッキドキですわっ!


 今朝は、早起きをして、準備をしてから、馬車に乗って、出かけましたの。

 お母さまと一緒にね。

 あっ、わたくしとお母さまの専属侍女もいるわよ。


 今日、ご招待されているのは、女性だけなんですって。簡単に言えば、女子会ね。

 昨年の六月から、今月までにお披露目をした令嬢と、その母親が集まるみたいなの。

 ということは、お友達を作るチャンスねっ!


 このイベントはね、とても美しかったから、覚えていますのよ。

 女子会なのに、なぜか、第二王子が現れるのよね。で、ご令嬢方が『キャー!』って、黄色い声を上げちゃって、悪役令嬢に、『はしたない』と言われるの。


 第二王子はほほ笑んだまま、悪役令嬢に近づいて、言葉は忘れましたが、ごあいさつをされたあと、大人っぽいドレスを見て、お褒めになるです。殿下は、彼女の手を取り、キスをするのよ。手の甲にね。


 そのあと殿下は、他のご令嬢方にも、笑顔で話しかけるの。その様子を、ツンッとした表情で見つめる悪役令嬢。そんな感じだったと思いますの。


 そんなことを考えながら、馬車の外を眺めていたら、あっという間に、お城に着きましたの。


 馬車から降りると、お城の方が、ロイヤルローズガーデンまで、案内をしてくださいました。

 王妃さまお気に入りのバラの花がたくさんあると、お母さまからお聞きしているので、楽しみですわ。


 バラの香りに包まれながら、お茶会なんて、ロマンチックね。


 そんなことを思いながら、お庭を歩いていたら、精霊さんたちが集まってきましたの。

 うふふふふ。

 癒されますわね。


 まあ!

 バラの花が見えましたわっ!

 晴れた空の下、赤、白、青、ピンク、クリーム色、黄色、水色、紫色などの、美しいバラの花が咲いていますの。


 バラの花を、楽しそうに眺める、華やかなご夫人方、そして、可愛らしいご令嬢方。そのうしろに、侍女らしき女性たち。


 白いテーブルと椅子がたくさんあって、執事やメイドが働いているわ。

 東屋や噴水も、見えますわね。


 あらっ、みなさま、こちらに気づいたみたい。


 足をとめたお母さまが、「みなさま、ごきげんよう」って、にこやかにほほ笑むと、みなさま、「ごきげんよう」と返しましたの。

 ふむ。


 わたくしも、お母さまをマネして、「みなさま、ごきげんよう」と言ってみましたのよ。ちゃんと返ってきたので、安心しましたの。


 ふう。ドキドキですわね。

 なんでしょう? この緊張感。


 王妃さま、まだなのに。というか、メリッサさまも、まだなのね。どうしたのかしら?

 欠席、ということは、ないと思うの。

 ここ、お城ですし、会いたい相手のお母さまと会えるチャンスですもの。そう簡単に、王妃さまと会えないですものね。


 なんて思っていたら、お母さまがお友達に近づいて話しかけたので、わたくしも移動しましたの。

 そうしたら、お母さまのお友達が、わたくしを褒めてくださいましたわっ!


 今日はね、水色の、清楚な感じの、ドレスですのよ。金色の長い髪をまとめるリボンは、菜の花色で、ネイルは、淡いピンク色ですの。

 ハートの形のペンダントも、してるのよっ!


 すこししてから、ワイン色の大人っぽいドレス姿のメリッサさまが、お母さまとご一緒に、いらっしゃいましたの。侍女も二人連れています。


 メリッサさまは、今日もグルグル、いえ、縦ロールよ。

 真っ赤な髪、金色の瞳、まるで炎の女神ね。

 可憐な耳には、深紅のイヤリング。胸元には、黒い石のペンダント。ワイン色のドレスには、黒い花のコサージュ。小さな爪には、紅いネイル。

 美しいわね。


 ――あっ! 目が合いました!

 わたくしが、ニッコリ笑った次の瞬間。


 メリッサさまのお母さまが、「みなさま、ごきげんよう」って、声をかけてくださったので、わたくしたちは、「ごきげんよう」と返しましたの。

 そのあと、メリッサさまが、「みなさま、ごきげんよう」って、声をかけてくださったので、わたくしたちは、「ごきげんよう」と返しましたのよ。


 メリッサさまのお母さま、今日も、目がこわいですわね。

 王妃さまは、まだかしら?


 そう思ってたら、王妃さまだわっ!

 今日のドレスもすてきねっ!

 わたくしたちは王妃さまに、カッテシーをしましたの。


 そのあと、お茶会が始まって、しばらくしてから、ヴィオリード殿下がいらっしゃったの。

 黒髪と、赤紫の瞳。王子さまって感じの服を、今日も着ていらっしゃいます。


 殿下に気づいたご令嬢方が、「キャー!!」と、黄色い声を上げましたのよ。

 わたくしは、座ったままで、頭だけ、下げましたのよ。一人で立ち上がっても、変だと思いましたから。


「あなたたち、はしたないわよ!」


 キッと、ご令嬢方をにらみつけるメリッサさま。瞬時に、静かになりましたわ。お見事です!


 ヴィオリード殿下は、王妃さまとすこしだけ、お話をされたあと、メリッサさまに初めましてのごあいさつをされて、どこかへ行ってしまわれましたの。


 婚約者と初めて会ったのなら、もっと、ロマンチックな流れになると思いましたのに、殿下は無表情でしたの。なにをお考えなのか、さっぱり、わかりませんでしたわ。


 王妃さまも、そのおつもりで、殿下をここに呼んだと思うのですが……。

 えっ? 違うの?

 婚約者、ですよね?


 まあ、わたくしの許婚も、ヴィオリード殿下みたいに、女性とは、あまりしゃべらない、ほとんど無表情な方でしたけど……。


 メリッサさまは、ショックだったのか、手を、ぎゅっと握りしめて、うつむいていらっしゃったのでした。


 そのあと、王妃さまが、何度かやさしく、お声をかけてくださっても、メリッサさまは、元気になりませんでしたの。

 心配だわ。


 王妃さまも、心配そうな表情をされていましたのよ。


 でも、メリッサさまのお母さまは、メリッサさまを気にせずに、お茶会を楽しまれているご様子でした。目は、笑っていませんのに、声は楽しそうなのよ。紅い唇も、楽しそうに見えるのですが、わたくし、こわいんですの。

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