第二十話 殿下は、メリッサさまとの婚約が、お嫌なのでしょうか?

 お母さまは、王妃さまとお二人で、お茶会のあとのお茶会をされるそうなので、わたくしは先に、屋敷にもどりましたの。専属侍女のケイトと共に、馬車で。


 屋敷に入ると、デュオン兄さまが、ミントグリーンの毛並みの、猫の魔獣――シーフォちゃんを抱っこして、「おかえり」っておっしゃったの。笑顔で。

 そのあとすぐに、シーフォちゃんが、「ニィ」と、うれしそうに鳴きました。


 萌えですわっ!

 黄色い髪と、橙色の瞳の、美少年天使が、レモン色の瞳の、可愛らしい猫ちゃんを、抱っこしているだけでも、萌えですのよっ!

 それなのに、天使と猫ちゃんが、可愛らしくごあいさつをしてくれるなんてっ、ああっ、もうっ、感動で、胸が震えますわっ!!


 この世界に生まれてよかった!!

 この屋敷にくることができて、本当によかったっ!!

 ありがとぉぉぉぉぉぉ!!


 って、叫びたいくらいですわっ!!


 ――ハッ!

 なんてことっ!

 わたくしとしたことがっ!


 天使なデュオン兄さまと、シーフォちゃんのごあいさつを、スルーしてしまうところでしたわっ!

 わたくし、ドSでは、ありませんことよっ!

 好きな子をいじめて喜ぶタイプでも、ありませんのっ!


 だって、ヒロインだものっ!


「申しわけございませんっ! デュオン兄さまっ! シーフォちゃん! わたくしっ、親愛なる、デュオン兄さまと、シーフォちゃんを、無視したわけではないのですっ!」


 わたくしが全力で謝ると、「そうなんだ。考えごとをしてて、他のことを忘れちゃうことって、あるよね。気にしなくていいよ。それで、ララーシュカに聞きたいんだけど、お茶会はどうだった?」と、ほほ笑みながら、たずねてくださいましたの。


 こんな、ふがいない妹をゆるしてくださるなんてっ、兄の鏡ですわねっ!!


「あのですねっ、お茶会は、とてもよいお天気でしたのっ! バラの花もきれいでしたし、王妃さまも、すてきでしたのよっ! お茶もお菓子も、とってもおいしかったですのっ! あっ、でも……」


 ふいに、メリッサさまの姿が浮かびました。


「どうしたの?」


 デュオン兄さまがふしぎそうな顔で、小首をかしげると、シーフォちゃんが「ニィ?」と鳴きましたの。


 可愛過ぎますわっ!


 ――ハッ!

 無視をしてはいけませんっ!

 今は、デュオン兄さまに、素直な気持ちをお伝えするのですっ!


 誠心誠意、向き合いますわっ!


 デュオン兄さまは、直登なおとさまですから、乙女ゲームのことをご存知ですし、知っていてもらった方が、いいかもしれませんっ!


「あの……お茶会の途中で、すこしだけ、ヴィオリード殿下が、おいでくださったのですが、その……無表情で、簡単な、ごあいさつしか、されなかったと言いますか……そのあと、メリッサさまが、落ち込んでおられましたの」


「そうなんだ……悲しそうな顔をして、ララーシュカはやさしいね」


「えっ? でも、わたくし、心の中で、勝手にメリッサさまのことを哀れんでいただだけで、なにもしていないのです。王妃さまは、メリッサさまのことを、気遣っていらっしゃいましたけど。わたくしは、心の中で、いろいろ想うことしかできない、臆病者なのです」


「そっかぁ。ララーシュカは、そう思うんだね」


「はい。あの……」


「どうしたの?」


「殿下は、メリッサさまとの婚約が、お嫌なのでしょうか?」


「うーん。そうだねぇ、赤ちゃんの時に決まった婚約者だからねぇ」


「そういうのって、ふつうでは?」


 近くに、ケイトの気配があるので、前世のことは言えませんが、わたくしにとっては、当たり前なことでしたよ?


「まあ、貴族や王族としては、よくあることだとは思うんだけどね……でも、一人の男としては、自分が見つけた、心から愛する相手と、結ばれたいんじゃないかな?」


「――えっ!? 殿下に、もうっ、愛する方がっ!?」


「……それは、知らないけど。僕だったら、本当に好きな子と、結ばれたいって思うよ? うちは、公爵家だけど、両親が、本当に好きな相手と結ばれているからね。僕にも、兄さまにも、婚約者がいないんだ。学園を卒業するまでに、婚約者にしたい子を見つけるようにとは、言われてるけどね。僕、入学もまだなのに、おかしいよね」


 クスクス笑うデュオン兄さまに、キュンキュンですっ!


「ニィ」


「どうしたの? シーフォ。もしかして、お腹空いた?」


「ニィ」


「そう。じゃあ、僕の部屋に行こうか」


「ニィ」


「じゃあ、行こうか。ララーシュカ」


 ニッコリ笑う、デュオン兄さま。


「――えっ? わたくしもっ?」


「うん。可愛い妹と、ゆっくり話したいなって、思って」


「えっ?」


「――嫌?」


 可愛い顔して、小悪魔ですの?

 小首をかしげながら、そんなことをおっしゃるなんて、断れるはず、ないではありませんかっ!

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