第二十六話 キリア兄さまの婚約と、縁側で、アジサイの絵を描く夢。
ごきげんよう。ララーシュカですわ。
聖なる森で、ドラゴンのスゥノンちゃんに乗って飛ぶという、素晴らしい体験をしたわたくしは、毎日ご機嫌に、暮らしていますのよっ!
午前中はほとんど毎日、家庭教師がいらっしゃるので、真面目にお勉強をしていますの。
本当よっ!
お勉強をしている時間は、いつも一生懸命なんだからっ!
って、だれに伝えているのでしょう。
うふふふ。
心の中でお話するのって、楽しいですわねっ!
わたくし、さびしい子ではないのよっ!
日本にいたころから、一人でお話するのも、大好きなのっ!
ぬいぐるみや、机なんかにも、よく話しかけていたのよっ!
あっ、今もですけどねっ!
うふふふふ。
なんて、楽しんでいたら、七月生まれの伯爵子息と、伯爵令嬢のお披露目パーティーが、ありましたのよっ。五歳のねっ!
行く前はね、新しいお友達ができたらいいなーって、ワクワクしましたのよっ!
基本的に、身分が高い方から話しかけないといけないのよ。なので、気になる方を見つけた時は、デュオン兄さまから、身分やお名前や年齢を聞いてから、勇気を出して、こちらから話しかけてみましたの。
みなさま、同じ公爵家か、身分が低い方たちですからね。わたくしががんばるしかないのよ。
てもね、なんだか、みなさま、わたくしの見た目ばかり褒めてくださるの。あと、天気の話とか、なにが好きかと聞かれて、お花や動物や本が好きだと答えると、すてきなご趣味ですわとか、さすが公爵令嬢とか、言われるの。
公爵令嬢とは、関係ないと思うのよ。
最初はね、褒めてくださるのが、うれしいと感じていたの。でもね、みなさま、だれから教えられたのか、似たようなセリフばかりで、つまらないの。疲れてしまいましたのよ。
長くお話をしていると、いつの間にか、だれかさんのウワサ話とか、悪口が始まりますしね。
よく考えてみれば、日本でも、こんなことがありましたわね。
パーティーで。
相手は、大人の方ばかりでしたけどね……。
話すことがないのかしら?
わたくしも、お話したいことが、ありませんけどね。
取り巻きって言葉も、浮かびましたので、嫌だと感じた方とは、距離を置きましたのよ。
伯爵子息のお披露目パーティーの時も、伯爵令嬢のお披露目パーティーの時も、ミリアムさまが、お母さまとご一緒に、いらっしゃったの。
なのでつい、ミリアムさまとばかり、楽しくお話をしてしまいましたのよ。
どちらのパーティーの時も、なぜか、メリッサさまはいらっしゃらなかったの。メリッサさまの、お母さまはいらっしゃって、楽しそうに、お友達と、お話されていたのですけどね。相変わらず、目はこわかったですのよ。
そんなメリッサさまのお母さまの周りを、精霊さんたちが楽しそうに、ふわふわ浮かんでいたのが、印象的でしたの。
もしかして、メリッサさまのお母さまって、精霊さんに、愛されているのかしら?
わたくしと同じ、精霊の愛し子とか?
伯爵令嬢の、お披露目パーティーで、耳にしたご婦人方のウワサでは、メリッサさまはワガママで、人間嫌いだとか、そんな子が殿下の婚約者なんて、おかしいとか……。
大人たちが、幼い子どものことを、悪く言うのは、醜いですわね。
自分の親が、そんなことを言っていたら、子どもは素直に、それを信じてしまうかもしれないのに、愚かですこと。
わたくしのお母さまは、そんなことは、おっしゃらないのよ。わたくしのそばにいらっしゃったデュオン兄さまなんて、『うるさいハエは、どこにでもいるよね』って、笑顔でつぶやいていらっしゃったの。
わたくし、デュオン兄さまこわいって、思いましたのよ。本人には、ないしょですけどね。
こわいもの。
♢
七月のある日、お父さまとお母さまから、大切なお話がありましたの。
大切な話があると呼び出されたので、なにか、いけないことでもしてしまったかしらと、胸がドキドキしましたのよ。
こわかったですわー。
でも、呼び出されたのはわたくしだけではなくて、お兄さま方もでしたから、安心しましたの。
お父さまとお母さまからのお話は、キリア兄さまの婚約のことでした。
ソフィアさまとの婚約が、決まったそうですのっ!
まあ! すてきっ!
ミリアムさまと、デュオン兄さまが結ばれたら、ミリアムさまと親戚になれるって、ワクワクしたこともありましたが、キリア兄さまとソフィアさまが結婚されても、ミリアムさまとわたくしは、親戚になるのですわっ!
うれしいわっ!
喜びの感情で、空が飛べそうですっ!
その日からは、毎日がお祭りのようでしたの。
ミリアムさまとお茶をして、本当によかったですわねと、語り合ったりしましたのよっ!
八月になり、ミリアムさまと、デュオン兄さまと一緒に、聖なる森にも行きましたの。小さなドラゴンに乗ったと話したら、ミリアムさまが、自分も乗ってみたいって、おっしゃったからなのよ。
ドラゴンの姿の聖獣――レイーズさまにお会いしたり、あんず色の小さな魔獣ドラゴンのスゥノンちゃんと、遊んだり、一人ずつ、乗せてもらったりしたのよっ!
そのあとね、七月にお披露目パーティーがあった伯爵令嬢から、お茶会のお誘いがあったりしたのだけど、嫌だなって思ったので、お断りをしたの。
♢
その数日後。
ヴィオリード殿下に呼ばれてお出かけになっていたデュオン兄さまが、「明日、殿下がお城でメリッサ嬢に会うんだって。王妃さまに言われて、一度二人で会うことになったみたい。殿下は、不満そうな顔してたけど」とおっしゃったので、わたくし、びっくりしましたの。
「ヴィオリード殿下って、デュオン兄さまの前では、不満そうなお顔をされるのね。わたくし、そのお顔は見たことがありませんわ」
「うん、まあ……竜人族の血が流れてるけど、人間だし。不満な気持ちが顔に出ることだってあると思うよ?」
「……そう、ですわね。失礼なことを言ってしまいましたわ」
「うん。でね、明日、殿下がメリッサ嬢に会うのが、午前なんだ。だから、午後に、僕の手作りお菓子を持って行く、約束をしたんだ」
「それは、いいお考えですわねっ! さすがデュオン兄さまですっ!」
「殿下もお菓子が好きだからね。紅茶のシフォンケーキが好きなんだ」
「それはすてきですわねっ! わたくしも食べたいですわっ!」
「うん、いいよ。その代わり、ララーシュカが描いた絵がほしいな」
「絵、ですの?」
「そうだよ。花の絵、アジサイの絵とか、あるといいんだけど……」
「アジサイなら、あると思いますが……」
「殿下がね、アジサイが好きなんだ。絵も好きなんだよ。だから、アジサイの絵があると、心が癒されて、元気になるんじゃないかなって、そう思ったんだ」
「それはいいですわね。あらっ?」
「どうしたの?」
「今、ふと思い出したのですけれど、
「うん、そうだったね」
「六月生まれでしたものね」
「うん、よく覚えてるね」
「今、思い出しましたの」
「そうなんだ」
「あと、紅茶のシフォンケーキも、好まれていましたよね?」
「……うん、そうだったね」
「デュオン兄さま、久孝さまがいらっしゃらないからって、ヴィオリード殿下を、久孝さま色に染めようとしてるとか、そのようなことは――」
「ないから」
「そっ、そうですのっ。それなら、よろしいのです。オホホホホ」
なんていう、会話をしたあと、わたくしはデュオン兄さまに、アジサイの絵を数枚、お見せして、選んでいただきましたの。
わたくしはまだ、ヴィオリード殿下とは、親しくありませんし、どれがいいのか、わかりませんものね。
♢
その夜わたくしは、前世の夢を見ましたの。
雨の日に、縁側で、アジサイの絵を描く夢でしたのよ。
目が覚めた時に、わたくし、あることを思い出しましたの。
久孝さまに、よく花の絵を、プレゼントしていたことを。
その理由は、久孝さまが、わたくしの絵を、褒めてくださったから。あと、久孝さまは、わたくしのお誕生日には必ず、お花とお菓子をくださっていたの。直接ではなくて、久孝さまのお家の方が、持ってきてくださっていたのだけど、とってもうれしかったの。しあわせだったの。
だから、わたくしは、久孝さまのお誕生日でも、そうじゃなくても、お花の絵を描いて、渡していたのですわ。
アジサイが、一番お好きだとは知っていましたが、他のお花も、お好きなようでしたので。
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