第二十九話 ミリアムさまに、恋人ができましたの。

 九月になり、侯爵子息のお披露目パーティーがありましたの。双子でしたのよ。

 双子、初めて見ましたの。顔と、髪の色は同じなのに、瞳の色が違うのよ。


 長男の、クラウンさまは、橙色の髪と、赤い色の瞳をお持ちなの。次男の、ルゼウスさま。橙色の髪と、黄色い瞳をお持ちなのよ。

 可愛らしかったわ。


 そのパーティーには、ミリアムさまと、メリッサさまも、いらっしゃったの。

 ミリアムさまは、青色のドレスを着ていらっしゃいました。ペンダントは、空色なの。ネイルは今日もあんず色。


 メリッサさまは、バラ色のドレス姿でしたのよ。

 いつものように、ドレスには黒い花のコサージュを。

 可憐な耳には、深紅のイヤリングを。

 そして、胸元には、ペンダントの黒い石がありましたの。

 ネイルは紅いわね。


 あっ、わたくしの今日のドレスは、柿色ですのよ。

 秋らしい色だと思ったの。

 金色の長い髪をまとめているのは、空色のリボン。

 ペンダントとネイルは、オレンジ色にしたの。


 もちろん、ミリアムさまのお母さまと、メリッサさまのお母さまも、同じ広間にいらっしゃいますのよ。精霊さんたちもね。


 わたくしと、メリッサさまがお友達になったことが、広まっているみたいで、いろいろ聞こえてくるの。


 わたくしは、ミリアムさまとメリッサさまと、デュオン兄さまと一緒に、楽しくお話しましたのよ。

 今、読んでいる本のこととか、好きなお菓子や花のこと、それから、聖獣さまや魔獣や、妖精さんや小人さんの、お話ですけどね。


 他のご令嬢方は、だれかさんのウワサや、悪口なんかを、お話されているようですが、そういうのよりも、わたくしたちの会話の方が、楽しいと思いますの。


 わたくし、お披露目パーティーを、心から楽しめるようになってきたので、よかったですわ。


 メリッサさまが、ずっとご機嫌だったのも、安心しましたの。

 そばにいる方が不機嫌だと、心が乱れてしまいますしね。


 お友達になったことがうれしいのか、よく目が合いましたのよ。メリッサさまは、わたくしだけではなく、熱のこもったまなざしで、デュオン兄さまのことを、見ていらっしゃいましたけどねっ。


 気分がよかったからなのか、わかりませんが、メリッサさまが、リールベリー家のお庭が見たいとおっしゃったので、「いいですわよ」と、お答えしましたの。



 その翌日、侯爵子息の双子弟――ルゼウスさまが、ミリアムさまのお家に、花束を持って行って、一目ぼれをしたので、付き合ってほしいと、愛の告白をされたそうですの。

 ミリアムさまは、どんなお方かわからないけど、お付き合いをしてみますと、わたくしに伝えにきてくださいましたの。



 その数日後。


 リールベリー家に、メリッサさまが、いらっしゃいました。

 最初、デュオン兄さまもご一緒に、お庭の白とピンクの秋バラを眺めたり、赤や黄色やピンクのダリアを見て、楽しんでいたのですが……気づいたらいませんの。

 猫みたいな方ですわね……。


 デュオン兄さまがいらっしゃらないことにお気づきになったメリッサさまが、悲しそうな顔をされていますのに。


 今日のメリッサさまのドレスは、デュオン兄さまの瞳と同じ、橙色ですのよ。深紅のイヤリングと、紅いネイルは同じですが、黒い石のペンダントは、つけていらっしゃいませんの。


 わたくしは、ペンダントも、ネイルも、今日はお休みです。ドレスは淡いピンク色で、金色の長い髪をまとめているのは、緑色のリボンなの。


 顔を上げれば、晴れた空。

 ふわふわ浮かぶ、精霊たち。

 きゃっきゃと、どこかで笑い声。これは、妖精さんたちでしょうね。


 平和ね。と思いながら、視線を動かせば、離れた場所に、わたくしの専属侍女の、ケイトの姿が、見えましたの。

 ずっと、いましたけどね。デュオン兄さまが、ここにいらっしゃった時も。


 ふつうの会話が届かない距離の場所だから、よいのですけどね。

 さて、どうしましょうか?


 と、思っていましたら、「ねえ、あなた、藍夢小蝶あいゆめこちょうって、知ってる?」という、声がしましたの。


「――えっ!?」

 って、おどろきながら、わたくしはふり向き、メリッサさまを、凝視しましたの。


「どうしたの? オバケでも、見たような顔をして」

「いえっ、あのっ、えっと……」

「知ってるって、顔ね? 知らなかったら、そんな反応、しないわよね」

「えっと、あの……」

「言葉を忘れたの? ポヤポヤさん」


 ウウッ。声が冷たいです。顔もこわいです。おまけにポヤポヤってわたくしのことを言うのは……。


「あなたは……渡紅千代わたりべにちよさま?」

「そうよ。ウフフッ。認めたわね」


 安心したように笑ったかと思えば、メリッサさまの目から、涙が流れ出しましたの。


「どう、されたのです?」


 ドキドキしながら、おたずねしてみたのですが、メリッサさまは、しばらくの間、とても静かに、泣いていらっしゃったの。

 そして、メリッサさまは、わたくしをじっと見つめて、口を開きました。


「デュオン様は、直登なおと様よね。あの猫さんクッキーの味は、直登様の味ですもの。でも、直登様って、お呼びしたのに……首をかしげるだけだったの。アタシ、この世界に生まれてから、ずっと、一人で、さびしかったのに……苦しかったのに……」


「……それは、悲しいですわね。直登さまは昔から、好きな子――って、渡さまのことですが、いじめるクセがありましたし、今でも、そうみたいなのです」


 わたくしがそう言うと、メリッサさまが、号泣されましたの。


 どうしましょう。

 って、オロオロしていると、足音が聞こえました。


 パッとふり返れば、デュオン兄さまの姿が見えたので、わたくし、ホッとしましたの。

 そのあと、デュオン兄さまが直登さまだと伝えたけれど、大丈夫かしらと、不安になりましたけどねっ。


「メリッサ嬢。だれに泣かされたの?」


 泣きじゃくるメリッサさまに、やさしく声をかけるデュオン兄さま。

 そんなデュオン兄さまに勢いよく抱きつき、「あなたです」と、泣きながら伝えるメリッサさま。


「そう、よかった。君をいじめるのは、僕の役目だから」


 デュオン兄さま、うれしそうな顔で、そんなこと、おっしゃらないでください。


 そう思ったのですが、わたくしがここにいるのはお邪魔でしょうし、つい、デュオン兄さまが直登さまだと、バラしてしまいましたので、さっさと、ここを離れましょう。

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