第三十話 月日が流れるのは早いですわね。

 メリッサさまが、わたりさまだと知った日の翌日から、彼女と、デュオン兄さまがご一緒に、登城されるようになりましたの。

 わたくしを置いて。


 いいのですよ。

 いいのです。


 メリッサさまは、ヴィオリード殿下の婚約者ですし、デュオン兄さまは殿下の親友ですからねっ。


 いいのですよっ!

 同じ日本からきたのに、わたくしだけなんだか、仲間外れな気がするのは、秋のせいなの。きっと。


 わたくし、ヒロインですわよね?

 それで、メリッサさまは悪役令嬢で、孤独に育って、ヴィオリード殿下に執着していたけれど、前世の許婚と出会ってしまったのよね。


 前世の許婚と仲良く、婚約者に会いに行く悪役令嬢。


 一人で、孤独を感じながら、自分の部屋のソファーに座るヒロイン――それは、わたくし。

 さびしいわ。さびし過ぎる。

 こんなにさびしい乙女ゲームでは、なかったはずよね!?


 乙女ゲームでは、もっと自由に、いろいろな場所に行って、冒険したり、魔獣のたまごを見つけたり、していたわよねっ!

 でも、魔獣のたまごなんて、どこにもないの。

 見たことないの。さびしいわ……。


 うちには、猫の魔獣のシーフォちゃんがいるので、シーフォちゃんを可愛がれば、よいのですけどね。

 でも、シーフォちゃんはね、猫だから、いつも同じ場所にいるわけではないの。

 時々、ふらっとわたくしの前に現れて、もふもふさせてはくれるけどね。



 九月が終わり、十月になり、五歳になった子の、お披露目パーティーに参加したり、ミリアムさまと二人で、お茶を楽しんだり、楽しそうな恋愛のお話をお聞きしたり、十一月も、そんな感じで、十二月には、キリア兄さまが、十二歳になりましたの。



 雪が降る寒い日に、お母さまと、二人でお茶をしていた時のことです。

 いつもはメリッサさまのお話をされない、お母さまが、このようなことをおっしゃったの。


 メリッサさまは、ヴィオリード殿下の婚約者にふさわしくないという声が、たくさんあるそうなのです。

 我がを、殿下の婚約者にしたいと望む親たちが、砂糖に群がるアリのようにさわがしいらしくて、王妃さまが、お困りのようなの。


 王妃さまは、殿下が本気でだれかを愛し、そのとの婚姻を望むなら、婚約破棄させてもよいと、そうおっしゃっていたらしいの。


 そのお話のあと、なぜか、お母さまは、わたくしをじっと見つめながら、「ララーシュカ、あなた、結婚したいと思う方はいる?」って、聞かれましたの。


 その時、ふっと、久孝ひさたかさまの姿が浮かんだのですが、気にしないことにして、「結婚したい方とか、そういうのは、まだよくわかりませんわ」って、首をかしげてみましたの。


 そうしたら、「まだまだ子どもね」って、お母さまに、笑われてしまいましたわ。

 わたくし、まだ子どもなのよ。だって、まだ五歳だもの。



 そして。


 同じようなことをしていたら、春になり、五月一日、デュオン兄さまが、八歳になられました。


 五月二日に、わたくしと、デュオン兄さまの、お誕生日を、家族が祝ってくれましたの。

 お母さまが、もう、五歳のお披露目には行かなくていいとおっしゃったので、これからは、行かないことにしましたの。


 ミリアムさまとお会いするのは、とても楽しいのです。ミリアムさまの恋人の、ルゼウスさまも、可愛らしい方ですしね。


 でも、わたくしたちって、目立つのよね。


 一番目立っているのは、メリッサさまだと思うのですが、デュオン兄さまが直登なおとさまだと知ってから、ものすごくベタベタしているの。だから、目立つのよね。


 でも、メリッサさまのお母さまは、それをお怒りになったりはしていないようですし、さわぐのは、直接関係ない、野次馬さんだけですの。

 まあ、そういうものですよね。

 関係ない方々が、正しいとか、おかしいとか、裁くんですよね。



 五月五日。

 わたくし、六歳になりましたの。


 今日も登城されたデュオン兄さまが、ヴィオリード殿下から、わたくしへにお誕生日プレゼントを、持って帰ってきてくださいましたの。

 びっくりしましたわ。


 いただいたプレゼントは、お花とお菓子と、六歳の誕生日おめでとうと書かれたメッセージカードでしたの。

 わたくしは、お菓子をおいしくいただいたあと、お礼のお手紙を書いて、デュオン兄さまに、ヴィオリード殿下にお会いした時に渡してほしいと、伝えましたの。



 その夜。

 ユニコーンの姿のユールさまが、わたくしに、会いにきてくださったので、もふらせていただきましたの。



 それから、月日が流れましたの。

 わたくしが八歳になる年の三月、キリア兄さまが、魔法学園を卒業されました。

 そして、デュオン兄さまが四月に、魔法学園に入学されたの。


 わたくしも早く、魔法学園に行きたいわ。

 今は、そう思っているのですが、通うようになると、めんどうだとか、言いたくなるような気もしますわね。


 デュオン兄さまったら、魔法学園に通うようになってからも、お休みの日には、メリッサさまとご一緒に、登城されるの。


 お城で、楽しいことでもあるのかしらね?

 ヴィオリード殿下、お元気かしら?


 わたくしが七歳になった日も、殿下から、お花とお菓子と、七歳の誕生日おめでとうと書かれたメッセージカードを、いただいたの。

 デュオン兄さまが、お城から、持って帰ってきてくださったのよ。


 わたくしはお菓子をおいしくいただいたあと、お礼のお手紙を書いて、デュオン兄さまに、ヴィオリード殿下にお会いした時に渡してほしいと、伝えましたの。


 七歳のお誕生日の夜も、ユニコーンの姿のユールさまを、もふりましたのよ。

 もう、わたくしのお誕生日の夜は、ユールさまをもふる日に、なっていますの。


 メリッサさまとも、長く、お会いしていないのよ。

 魔法学園に通うようになれば、会えますけどね。


 そして、わたくしが八歳になり、その日も、ヴィオリード殿下から、お花とお菓子と、八歳の誕生日おめでとうと書かれたメッセージカードを、いただいたの。


 今までと同じように、デュオン兄さまがお城から、持って帰ってきてくださったのよ。

 お菓子をおいしくいただいたあと、わたくしはお礼のお手紙を書いて、デュオン兄さまに、ヴィオリード殿下にお会いした時に渡してほしいと、伝えましたの。


 八歳のお誕生日の夜も、ユニコーンの姿のユールさまを、もふりましたのよ。

 そろそろ、ユールさまに乗ってみたいのですが、ダメかしら?

 断られたら悲しいので、なかなか言えませんの。

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