第十一話 デュオン兄さま手作りの、アップルパイは、おいしいですのっ!
ごきげんようっ! ララーシュカですわっ!
あっという間に年末になり、新年になり、親戚の方々が、ごあいさつにきてくださったり、しましたの。
わたくし、がんばりましたのよっ!
家庭教師の方が、新年のために、貴族としてのマナーを教えてくださったので、なんとか乗り越えることができましたのっ!
専属侍女のケイトも、いろいろうるさく、いえ、丁寧に、教えてくれましたのよ。
失敗したら、家の恥ですものねっ。
日本にいたころに、言われたわ。世話係に。
こちらでは、まだ幼女だからか、だれも言いませんでしたが。
おかげで、なんとかなりましたわっ!
親戚のみなさま、とてもやさしかったですしねっ!
三歳なのにすごいって感じで、たくさん褒めてくださっていましたのっ!
そうですわね。
三歳にしては、すごいですわよね。
本当は十三歳だと知ったら、なんと言われるかわかりませんが、今は幼女ですものっ。
わたくしはすごいのです!
オーホッホッホッホッ!
一月にはなりましたが、キリア兄さまは十四日まで、冬休みみたいです。
それでも、毎日のように、お城に、お出かけになっているのですわ。
デュオン兄さまが教えてくださったのですが、キリア兄さまは、第一王子のフェリクス殿下と同い年で、とても親しいようですの。
側近候補でもあるので、冬休みでも一緒に過ごされるそうですのよ。
デュオン兄さまも、たまに登城されているのよ。お母さまと一緒にね。五歳になってから。
第二王子のヴィオリード殿下は、わたくしと同じで、まだ三歳なの。だけど、わたくしたちのお母さまと、王妃さまがお友達なので、デュオン兄さまは、ヴィオリード殿下にお会いしているそうですわ。
ヴィオリード殿下も、乙女ゲームの攻略対象者なの。ゲームでは、オレサマキャラだったのよ。あまり興味がなかったの。
これは、お母さまが話していらっしゃったことですけれど、ヴィオリード殿下には、赤ちゃんの時に決まった婚約者が、いるんですって。
それを耳にした時、乙女ゲームの悪役令嬢って、頭に浮かびましたの。
そういえば、あの乙女ゲームには、悪役令嬢がいたわねって、思い出したのよ。
確か、ヒロインが第二王子に近づいた時に、ものすごく攻撃的になった気がしますわ。
でも、暴力ではなくて、口での攻撃だから、大したことはなかった覚えがありますの。
インパクトがあるキャラだったので、彼女のことは、覚えていますのよ。
赤い髪と、金色の瞳のきつい顔立ちの方でしたわ。名前は、メリッサ・オルカココット。
お母さまから伺った婚約者の方も、炎属性と、光属性を持っていて、名前はメリッサなので、同じなの。
これは、お母さまが教えてくださったことなのですが、メリッサさまも、公爵令嬢なのよ。
メリッサさまのご両親は、光属性ではないらしいの。メリッサさまのお母さまが、真っ赤な髪と、黒い瞳を持っているって、お母さまが言ってましたわ。
黒い瞳ということは、闇属性なの。
闇属性であっても、王族の方々のように、竜人族の血を持っていれば、子どもができやすいらしいのですが、メリッサさまのお母さまは、なかなか子どもができなくて、悲しんでいたそうなの。
恋愛結婚だったみたいですし、公爵家ですからね。養子という考えもあるかもしれませんが、自分で産みたかったのでしょう。
メリッサさまのお母さまは、月が出た時に、月に向かってお祈りをしていたそうですの。
月の女神が、闇属性ですから、月に願ったのでしょうね。
その結果、夢で、光りかがやく女性から、赤子を授けられたそうですの。
夢で、赤子を授けられるなんて、昔話のようですわね。日本にあった気がしますわ。くわしくは、思い出せませんが。
それは置いておいて……。
子どもは、親の属性を持つことが多いらしく、奇跡が起こったと、あちらこちらでさわがれたそうですの。それで、メリッサさまは、第二王子のヴィオリード殿下の婚約者に選ばれたのですって。
メリッサさまは、わたくしが生まれるすこし前に、お生まれになったらしいですわ。
わたくしと同い年で、彼女は四月の終わり、三十日生まれなの。
第二王子のヴィオリード殿下も、メリッサさまと同じ四月生まれ。四月二十八日なの。
三人共、今は三歳。年齢が一緒だからか、とても気になるからなのか、わたくし、お誕生日まで、覚えてしまったの。
魔法学園で、一緒になると思うのだけど、大丈夫かしら?
ヴィオリード殿下と、仲良くならなければいいのよね?
そうそう、第一王子のフェリクス殿下にはね、お隣の王国――ニーノ王国の王女さまという婚約者がいるの。だから、彼は攻略対象者ではないのよ。
もし、攻略対象者だったとしても、将来、王さまになられる方ですからね、ふつうに無理だと思うの。
わたくし、王妃さまになんて、なれませんからね。だからと言って、公爵夫人も無理だと思うので、キリア兄さまや、ディオン兄さまに惚れたりもしないわ。
デュオン兄さまは次男なので、結婚しても、公爵夫人にはならないのかしらね?
よくわからないわ。でもまあ、今のところ、惚れてはいないの。
惚れるって、なんでしょうね?
実は、よくわからないの。
ディオン兄さまはね、とっても可愛らしい方なのよ。それだけでは、ないけどね。
デュオン兄さまは、まだ五歳なので、剣を持つことはできないらしいのですが、木刀で、剣の練習をされていますの。剣術の先生が、週に三回、いらっしゃるのよ。
すごいわねっ!
わたくしの家庭教師はね、ほとんど毎日、いらっしゃるのよ。午前中に。
マナーとか、この王国の歴史とか、王族のこととか、貴族のこととか、ダンスやピアノなんかを、教えていただいているの。
まだ三歳なので、短い時間で学んで、休憩してをくり返しているのよ。家庭教師は上品なおばあさまで、とってもやさしくしてくださってるの。
新年に向けてのあれこれの時は、大変でしたが、今は、わたくしに合わせてくださっていますのよ。
そうそう、デュオン兄さまのことでしたわ。
お庭を走ったりして、体力作りもされているの。
わたくしは、冬なのにすごいなーって思いながら、お庭を走るデュオン兄さまを眺めて、いえ、応援していますのよ。
ソファーで考えごとをしていたら、専属侍女のケイトが、もうすぐお茶の時間だと教えてくれたの。
時計を見ると、三時前でしたの。お茶をする場所に行ったら、ちょうど三時ぐらいね。
今日は、お父さまはもちろんお仕事なのですが、お母さまとキリア兄さまも、いらっしゃらないの。
なので、デュオン兄さまと、お茶しますのよ。
アップルパイを焼くから、楽しみにしててって、今朝、胸キュンスマイルで言っていましたわね。
デュオン兄さまは、五歳だからなのか、あどけない顔立ちで、可愛らしくて、天使なのですわ。お菓子を作れる天使って、すてきですわねっ!
デュオン兄さまのお菓子はね、なんだか、なつかしい味がするの。
食べると、身体も心も満たされて、しあわせな気持ちになるのよ。
わたくしは、ワクワクしながら、ケイトと一緒に、お茶をする場所に向かいましたの。
どこをどう進めば、目的の場所にたどり着けるかなんて、わたくしにはわかりませんのよ。
この屋敷で暮らすようになって、専属侍女がいてよかったと、何度も思いましたわ。
目的の部屋に入ると、ミントグリーンの、猫の魔獣――シーフォちゃんが、トコトコと近づいてきましたの。
レモン色の瞳が、わたくしを見てますわっ!
わたくしに、もふもふボディーで、スリスリしてくれるのはうれしいのよっ!
でもねっ、三歳児なので、倒れそうになるの。
ケイトが支えてくれますけどね。
「ニィ」
お座りをして、鳴く、シーフォちゃんも、可愛いですわねっ!
「ララーシュカ。よくきたね」
デュオン兄さまの声がしたので、そちらを向きましたの。ニッコリ笑うデュオン兄さまに、わたくしはニコニコしながら、答えました。
「アップルパイ、朝からずっと、楽しみにしていました」
「フフッ。それはうれしいな」
ああ、デュオン兄さまに、キュンキュンです!
黄色い髪と、橙色の瞳も、ビタミンカラーというのか、元気になれる色ですし、好きですのよ。
「――じゃあ、呼ぼうか。ガイ、こいっ! お菓子の時間だ!」
笑顔のまま、デュオン兄さまが、虎の姿の聖獣さまの名前を呼びました。
すると、次の瞬間、デュオン兄さまの目の前に、白い髪と、るり色の瞳の男性が、現れましたの。
藍色の服が、とてもよく似合っていますわね。
背が高くて、体格がいいの。
男らしくて、すてきですわねっ!
彼の名前は、ガイ。
聖獣さまよ。
わたくしが王都にきた日に、この屋敷まで。会いにきてくださった方なの。その時は、虎だったけどね。
このお二人、最近契約しましたのよ。
先日、わたくしとデュオン兄さまと、お母さまが、デュオン兄さま手作りの、チーズケーキをいただいていたの。その時に、虎の姿のガイさまが、現れましたのよ。
それで、鼻をクンクンさせたガイさまが、そのケーキが食べたいって、おっしゃったのですわ。
話の流れで、デュオン兄さまが作ったケーキだと知ったガイさまが、契約したいと、頼んだのです。
デュオン兄さまに。
そんな設定、なかったような気がしますの。
わたくしがこの屋敷にくることや、ユールさまと契約することは、乙女ゲームのシナリオ通りなのですが、違うこともあるのかもしれませんわね。
わたくし、乙女ゲームの世界に転生したのは初めてなので、よくわかりませんが。
乙女ゲームマンガで、ヒロインに転生や、悪役令嬢に転生など、読んだ気がするのですが、わたくし、お菓子がおいしそうとか、動物が可愛いとか、そんなことばかり、考えていましたしね。
好きなことしか、考えてなかったの。
「ララーシュカ?」
――ハッ!
考えごとをしていましたわっ!
デュオン兄さまの声がした方に視線を向ければ、小首をかしげているのが見えました。
可愛くて、キュンですわぁ!
じゃなくて、「申しわけございませんわ」と、恥ずかしそうに言ってから、わたくし、デュオン兄さまに近づきましたの。
椅子に座ったガイさまが、大きなアップルパイを、ガツガツと食べていらっしゃいますわね。
視線を落とすと、彼の足元で、シーフォちゃんが、ムシャムシャ食べていますわ。
可愛いですわね! 萌えで、お腹がいっぱいですわっ!
虎と猫が仲良しって、いいわねっ!
ガイさまは今、人化してるけど。
人の姿になることを、人化というそうですの。
ガイさまが、教えてくださったのよ。
聖獣さまが人化をするとね、魔力が減った感じがするの。
簡単に言えば、獣の姿の時よりも、圧がなくなるという感じかしらね?
「ララーシュカ。僕たちも食べようよ」
「ええ、そうですわね」
ニッコリ笑ってうなずいたわたくしは、椅子に座り、デュオン兄さまと一緒に、アップルパイと、ワイルドストロベリーティーをいただきましたの。
おいしかったですわっ!
♢
その夜、数日ぶりに、ユニコーンの姿のユールさまが、わたくしのお部屋にいらっしゃったの。
するとすぐに、そっと扉を開けて、ケイトが出て行きましたの。
わたくし、とってもいい気分だったので、ニコニコしながら、今日のできごとをお話したのですわ。デュオン兄さまが、ガイさまと、契約をした時のことと、一緒に。
そうしたら、ユールさまったら、ムカつくなってポツリと、つぶやいていらっしゃったの。
ムカついた理由をおたずねしてみたのですが、教えてくださらなかったのよ。
もしかして、一緒に、アップルパイが食べたかったのかしら?
そう思って、おたずねしてみたのですが、そうではないようですの。
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