第三十四話 婚約が、決まりましたの。
翌日、デュオン兄さまがヴィオリード殿下に、わたくしからのお手紙を、渡してくださいましたの。
どのような反応だったのか、デュオン兄さまにおたずねしてみたのですが、「ん? ヒミツ」って、笑顔でおっしゃったのです。
困りますわね。
その翌日、わたくしはひさしぶりに、魔法学園に行きましたの。
クラスのみなさまが心配そうな顔で、わたくしを案じてくださいました。
うれしい気持ちと、恥ずかしい気持ちを、感じましたの。
ヴィオリード殿下は、ごあいさつのあと、やはり無言でしたけど、それでも、彼が久孝さまだと思うと、愛しさで、胸がいっぱいになりましたの。
時が流れて、夏休みになり、ヴィオリード殿下と、メリッサさまの、婚約破棄が決まりました。
そして、その数日後、わたくしと、ヴィオリード殿下の、婚約が決まりましたの。
わたくし、ある夏の日の朝、お父さまとお母さまから、大切なお話がありますと、呼び出されたのです。なにか、いけないことでもしてしまったかしらと、胸がドキドキしましたのよ。
こわかったですわー。
でも、呼び出されたのはわたくしだけではなくて、お兄さま方もでしたから、安心しましたけどね。
お父さまとお母さまからのお話は、わたくしと、ヴィオリード殿下の、婚約のことでしたのっ!
数日前に、婚約破棄が決まったばかりなので、とてもびっくりしましたのよ。
わたくし、想いのこもったお手紙を書きましたが、お返事はないですし、愛の告白もありませんでしたが……。
まあ、
笑顔で、『君が好きだよ』とか、『僕の可愛い子猫ちゃん』とか、甘い言葉をささやいてから、いじわるしそうな、デュオン兄さまとは違いますしね。
なんて、思っていたら、お父さまが、わたくしが、光属性で、めずらしいからではなく、ヴィオリード殿下がずっと、わたくしを望んでくださっていたのだとか、そんな説明をされましたの。
ほほう。
ずっと?
初耳ですわね。
この婚約のお話を承諾したのは、デュオン兄さまの後押しがあったからだそうですの。
あと、わたくしが、ヴィオリード殿下のことを慕っていると、ケイトが感じていたらしく、それも、お父さまに伝わっていたようなのです。
「ララーシュカ。お前の気持ちを確かめずに決めて、すまなかった」
って、お父さまがおっしゃったのですが、王族の方に求められて、お断りをするのは不敬だと思いますし、謝ることではない気がしますの。
それに、婚約が決まったあとに、「お前はどう思う?」とかたずねられても、「ありがたいと思いますわ」としか、言えませんわよ?
お父さま。
なんてことがあった日の、翌朝、わたくし、藍色のドレスを着ましたの。
金色の長い髪をまとめるリボンは、藍色で、ペンダントは、赤紫色ですのよ。ネイルは、淡いピンク色ですの。
昨日、お父さまとお母さまから伺ったのですが、今日、ヴィオリード殿下が、この屋敷にいらっしゃるそうですの。びっくりしましたわ。
わたくし、ドキドキして、なかなか眠ることができませんでしたの。
起きてからも緊張して、あまり、食べられませんでしたのよ。
ヴィオリード殿下が、屋敷に到着されたあと、なぜか、デュオン兄さまのお部屋で、お話することになりましたの。
わたくし以外、みなさま、ご存知だったみたいで、悲しい気持ちになりましたのよ。
シクシク。
それでね、ヴィオリード殿下と、わたくしと、デュオン兄さまがお部屋に入ったのだけれど、そこには、猫の魔獣のシーフォちゃんがいたの。
シーフォちゃんは、ヴィオリード殿下に、ミントグリーンのなめらかな毛並みをこすりつけたあと、レモン色の瞳でじっと、殿下を見上げて、「ニィ」と、可愛らしく鳴きましたの。
可愛らしいですわねっ!
キュンキュンしますわねっ!
癒されていたわたくしの耳に、ヴィオリード殿下の声が、聞こえましたの。
「ララーシュカ」
「はい?」
視線を向けると、赤紫色の双眸と、目が合いましたの。
「あの……ララーシュカ。手紙、ありがとう。うれしかったのに、返事、書けなくて、ごめん。書こうとしたんだけど、やっぱり、自分の口で伝えたくて。でも、なかなか言えなくて……」
「そうですのね」
「うん。情けなくて、ごめん」
「大丈夫ですよ」
ニッコリ笑うと、ヴィオリード殿下が、泣きそうな顔になりましたの。
「好き、なんだ。ずっと。前世で、君と出会った時から、ずっと、君が好きで、君だけを見てた。本当は、他の男に君のことを見せなくなかったし、一緒に住みたかったんだ。親に、ダメって言われたけど」
「まあ。そうなのですね」
「うん。修学旅行の日、君のことを守れなくて、転生したと知った瞬間、絶望した。君がいない世界なんか、いらなかった……」
苦しそうな顔のヴィオリード殿下を見て、わたくし、鼻の奥がツンとして、泣きそうになりましたの。
「でも、母上にキスされて、そのあと、兄を見て、第一王子だって気づいたんだ。それで、君が好きなゲームだって知ったんだ。君も転生してるはずって思って、それだけが希望で、デュオンに会って、すぐにお互いが転生者って気づいて、君と
「……そう、ですのね」
「うん、だから、こっちの世界で君が、
「すぐにわかってくださったんですよね?」
「うん。レイーズが、変わった色の魂の持ち主が増えたと言っていたのもあるけど、それだけじゃなくて、雰囲気とか、しゃべり方とか、そのままだし、好みも変わってなかったから」
「……そうですのね。あの、これからも、どうぞよろしくお願いしますわ」
わたくしは、ヴィオリード殿下に向かって頭を下げたあと、今度、レイーズさまに乗って、空を飛べたらすてきねって、そう思いましたの。
ヴィオリード殿下と、二人で乗るのよっ!
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