第十三話 わたくしと、デュオン兄さまの、お誕生日パーティーですわっ!
春っていいですわね!
イチゴがおいしいですっ!
毎日、イチゴや、イチゴのお菓子や、イチゴのジュースをいただいていましたら、四月になり、お庭の桜が満開になり、デュオン兄さまのお誕生日が近づいてきましたの。
デュオン兄さまのお誕生日は、四月ではなくて、五月一日ですけどね。
その日なら、お父さまのお時間があるようなので、わたくしのお誕生日も一緒に、その日に祝ってくださることになりましたの。
わたくしのことはよいとして、デュオン兄さまへの贈りもの、なににしましょうか?
今日も一人なので、いや、ケイトはいますけど、お父さまはもちろん、お母さまも、お兄さま方もいらっしゃらないので、春にお庭を歩きますのよ。
春はいいわね。暖かくて。
最近、ブクブクと、太っていますの。だれも、なにも、言いませんが、このままではいけないと思うのです。
お誕生日がきても、四歳ですから、お披露目はまだなのですが、わたくしが嫌ですの。
このままブクブク、太り続けるのは。
なので、今日はたくさん歩くのです!
お庭をお散歩しながら、デュオン兄さまへの贈りものを考えるのですわっ!
デュオン兄さまは、なにがお好きなのでしょうか?
お菓子作りですね。そうですね。
それくらい、知っていますわよ。
でも、お菓子の材料とか、お菓子を作るために必要な道具などは、わたくしには買えませんの。
だって、お金がないのですから。
うーむ。
悩みながら歩くわたくしに、精霊さんたちが集まってきました。ふわふわと、わたくしを追いかけてきます。
うふふふふ。
楽しいですわねっ!
「ニィ」
あらっ? この声は。
わたくしは立ちどまると、ゆうがにふり向きました。
どこにいたのか、ミントグリーンの毛並みの、猫の魔獣――シーフォちゃんが、トコトコと近づいてくるのが見えました。レモン色の瞳が、わたくしを見ています。
シーフォちゃん、お散歩に、行っていたのでしょうか?
わたくしはふと、あることを思い出しました。
先日、薄紅色の桜が舞い散るこのお庭で、虎の姿のガイさまが、シーフォちゃんと一緒に、ゴロゴロ、ゴロゴロしていましたの。
わたくしはデュオン兄さまと一緒にそれを見ていたのですが、胸がキュンキュンしましたのよ。
それで、わたくしとデュオン兄さまは、ガイさまとシーフォちゃんにお願いをして、いっぱい、もふもふさせていただきましたの。
その時のことを、絵にしましょうか。
わたくし、絵が好きなのに、この屋敷にきてからは、いろいろあったせいか、忘れていましたの。
ひさしぶりに、絵が描きたいわっ!
「ケイト!」
「はい」
冷静ですね。
「わたくし、絵が描きたいわっ!」
「絵、ですか……すぐにご用意いたします」
「お願いね」
♢
五月一日。
お庭のバラが開花した日の夜、デュオン兄さまとわたくしの、お誕生日のパーティーが、開かれましたの。
ケーキもごちそうも豪華です!
参加者は、お父さまとお母さまと、キリア兄さま、それから、わたくしとデュオン兄さまですわ。
主役なので、いるのは当たり前ね。
あっ、シーフォちゃんもいるのよ。
デュオン兄さま手作りのお菓子がないと知ったガイさまは、いらっしゃいませんでしたし、ユールさまも、興味がないようでしたの。
ですが、ガイさまは、お誕生日のパーティーのことを知った翌日に、わたくしとデュオン兄さまに、めずらしい銀色の花をプレゼントしてくださったのよ。
ガイさまから、お誕生日のプレゼントをいただけるなんて、夢にも思いませんでしたから、とてもおどろきましたの。
銀色の花は、ふわりと甘い香りがして、とても癒されましたわ。
ガイさまったら、わたくしにお花をプレゼントしたことを、わざわざユールさまのところに言いに行ったみたいで、ユールさまがご機嫌ななめでしたの。
ちゃんと、ユールさまには、花は、わたくしにだけではなくて、デュオン兄さまにもプレゼントしたのだと、伝えておきました。
ガイさまって、ユールさまのことが好きなのに、ユールさまに嫌われているのよね。かわいそうだけど、わたくしには、どうすることもできないの。
お父さまとお母さまは、わたくしに、オルゴールをくださったの。陶器のウサギさんのオルゴールなの。
キリア兄さまは、わたくしとデュオン兄さまのために、バイオリンを弾いてくださいましたの。
感動しましたわ。
そのあと、デュオン兄さまが、わたくしのために書いたお手紙をくださったの。
ララーシュカがこの屋敷にきてから、毎日がとても楽しいって、きてくれてありがとうって書いてありましたの。
わたくし、身体が震えて、泣きそうになりましたのよ。ここにきてよかったって、心から思いましたの。
そして、わたくし、絵を描いたことを思い出しましたの。それで、ケイトを呼んで、きれいな布で包んでおいた額入りの絵を、デュオン兄さまに、プレゼントしましたの。
デュオン兄さまったら、絵を見た瞬間、とってもおどろいた顔になったあと、泣き出してしまったのよ。まだまだ子どもね。今日、六歳になったばかりだものね。
お父さまとお母さま、それから、キリア兄さまが、すごい上手だと、わたくしが描いた絵を褒めてくださって、とてもうれしくて、しあわせなパーティーでしたの。
♢
その夜、ユニコーンの姿のユールさまが、わたくしのお部屋にいらっしゃいました。すると、いつものように、ケイトがそっと扉を開けて、出て行きましたの。
わたくしは今日のお祝いで、とても満たされていましたから、ニコニコしながら、新しい家族から、お誕生日を祝っていただくことができた喜びを、ユールさまに伝えましたの。
「そうか。よかったな」
「はい!」
よかったなというお言葉がうれしくて、わたくしは満面の笑みで答えましたの。
「ララーシュカ」
「はい?」
「なにか、ほしいものはあるか?」
「えっ? ほしいもの、ですのっ? うーん。ものではないですが……ユールさまに触れても、いいでしょうか?」
「いいぞ」
「ありがとうございます!」
わたくし、思う存分、もふもふさせていただきましたの。
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