「辻沢ノーツ 2」(ドナドナ会議)
そろそろ日も陰ってきたのに、女子3人、大学近くのウィード・カフェ「スカンポ・ハウス」でお茶してる。
少しさかのぼると、お昼食べてから文献探しにゼミ室に行ったら、ミヤミユが来て大盛り上がり。
ミヤミユは、入学式後のオリエンテーションでボッチしてたあたしに声を掛けてくれた時からの知り合い。
名前は小宮ミユウで苗字はちがうけどフジミユとは双子の姉妹で、なんとなくあたしとは気が合う子。
ゼミ室では、フィールドで食べる食事の話から雑草の話になって、そこから去年の暮に2人で観た『雑草図鑑』のことを話していたら、意外にミヤミユがゲードル(ゲームアイドル)グループのREGIN♡IN♡BLOODのこと詳しくて驚いた。
あたしがあの映画を観に行ったのは、RIBの闇センター夜野まひるがお目当てだった。
主人公の元カノ役でそれほどセリフもなかったけど、それが夜野まひるの記念すべき映画初出演だったから。
そして『雑草図鑑』が封切して間もなく、あの飛行機墜落事故が起こって夜野まひるをはじめとするRIBの主要メンバーが帰らぬ人となり、今では観ることができない遺作となってしまった。
そのことはミヤミユもよく知っていたらしいけど、一緒に映画を観に行ったときは、お互い主演の韓流イケメン俳優が目当てだと思い込んでいたからRIBのことは話さなかった。
いつの間にか戻って来てた鞠野先生が、そろそろゼミ室閉めるよって、河岸を変えて話の続きしようって出てきたら図書館の前でサキとばったり会って、お互い暇だねーってなって、「スカンポ・ハウス」でも行こうかぁってなって。
で、今ここ。
サキも鞠野ゼミだけど、フィールドワークにはあんまり興味がないみたい。いつもスマフォいじってる印象の子。
「どーする?」
ミヤミユがカタバミティーをすすりながら、酸っぱい顔をして聞いてきた。
もちろんフィールド選びのこと。ミヤミユはもう決まってるみたい。
「結局、鞠野フスキーのオファーに従うことになるかも」
鞠野先生のオファーっていうのは、あたしもミヤミユと同じフィールドに実地調査に行くのはどうか、というもの。
鞠野先生にしてみたら、フィールドも決まらず、文献調査と言ってはゼミ室でうだうだしているあたしを早く片付けたいんだと思う。
けど、そういうのってモチベあがんないよな。
あーあ、なんでフジミユってあんなに一途にフィールドに行けるんだろ。
やっぱ、才能なのかな。
「サキはどうするの? まだ決まってないんだよね」
ミヤミユが尋ねると、サキはスマホを見つめたまま、
「その前にコミュ障直さなきゃだよ。ウチの場合」
と言った。
それな、一番のウツ要因。
フィールドはどことかテーマがどうとか以前に、現地で人とちゃんと話ができるかっていうこと。
アニメやゲームの話ならともかく、初めて合う何の接点もない人と会話をするって、今のあたしにはちょっと無理かもって思う。
「あたしもー」
ミヤミユ、あんたは違うでしょ。
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