「辻沢ノーツ 30」(死せるユウギリ)

 サキのPCのモニターに真っ赤なページが表示され、しばらくその画面を見ながらかちゃかちゃしてて、


「これだね。獲得ポイントもそうとう貯めこんでる」


 とパソコンを持って戻って来た。


そこに一覧表があって、真ん中ぐらいの欄に「砂漠の友だち旅団」とあった。


「多分そうだと思う。この人達に連絡したら証言してくれるハズ」


「それはダメ」


「何で? Contactってアイコンあるじゃない」 


「そうじゃない」


「じゃあ、何で?」


「全滅してる。全滅したパーティーとは連絡取れない」


 欄の右端に赤い文字で「Wiped out」とあった。ユウも一緒?


「メンバー全員?」


「3人とも。ユーザー名はノタが言った通りか」


 3人? ユウは逃げた? ちがうインチキして入ったから記録がないんだ。


「もう削除されてるかもしれないけど」


 そう言うとサキはパソコンの画面で別のサイトを開いて「砂漠の友だち旅団」を検索した。


それは動画サイトらしかった。


「ユーチューブ?」


「これはゴリゴリ動画。『スレイヤー・R』専用の会員制動画投稿サイト。

……あるね。なるほど猛者だ。めぼしい祭にはほとんど参加してる。

幹事のマホメット3世は元自衛官か。昨日の日付のは。あった。これだ」


 動画は画質が悪い上に暗くてすごく見づらかった。


内容は暗い森の中で2人の人間が刀を振り回してるのが延々と続く映像だった。


最後まで見たけど全滅した様子はなかった。


「この大きい人が寸劇さんで、こっちの小柄で髭の人がサダムさん。サーリフくんは映ってなさそうだけど」


「そのサーリフってのがゴリプロ付けてたんだな」


「ゴリプロ?」


 サキが目玉のおやじのような黒いガジェットを見せてくれた。


「これを体につけて戦闘を動画で記録する。いわゆるアクションカメラ。スーパーヤオマンで売ってる」


 これで撮れるんだ。


でも、この動画は寸劇さんたちしか映ってなくって、敵の改・ドラキュラとかカーミラ・亜種とかがいない。


「これは準備体操か何かなのかな?」


「いや、多分蛭人間と戦ってるんだと思う。

動画になると何故か蛭人間は映んなくなって、こんな間の抜けた映像になる。

運営側でオブジェクトフィルターでも掛けてるんだと思うけど、どういう技術かは分からない」


 カメラがどっちへ振られても、ユウもあたしも映っていなかった。あたしたちと合流する前なのかな。


「ノタのPT名は何?」


「PT名?」


「参戦するには、パーティーに登録するか傭兵にならないと。あんたなんか傭兵ってがらじゃないから、パーティーに登録してもらったんでしょ」


 えっと、


(「PT名はアワノナルト、あたしはユウギリ、この子はイザエモン」)


「思い出した。アワノナルト。その子はユウギリって言ってた。あたしのことはイザエモンだって」


「アワノナルトのユウギリ? マジか? それが本当ならあんたは死人と一緒だったってことだよ」


 どういうこと?


「今年の春、突然現れたPTが猛烈な勢いでポイントをゲットし始めた。

そのPTはメンバーが女子2人だっていうこと以外に詳しい情報はなく、彼女たちを見たとかフィールドで会ったという者も現れなかった。

しかも動画をアップしない方針だったらしく、ひたすらポイント獲得数だけが上昇してゆくからみんなの注目が集まって、正体不明の最強女子PTと話題になった。

その後も彼女たちの勢いは止まらず、今までだれ一人満たせなかった第1ステージクリアの条件を半月で充足するってなったある日、突然全滅した。

多くは荒しと見做されBANされたんだろうという見方だったが、運営の策謀にハマったんじゃないかって噂されもした。

その日は青墓の杜が蛭人間であふれかえったと言うからね」


「策謀?」


「上のステージに行かれたらまずいから、意図的に抹殺された」


 抹殺って。


「そして、その女子PTの名がアワノナルト、リーダーがユウギリ」


 昨晩の猛烈な攻勢を思い出した。寸劇さんもこんな事は初めてだって言ってた。


もしかしたらユウがいたことと関係ある?


「ヒットしたよ。でも、アワノナルトの情報はブロックされたままだ。ちなみにどうやって参戦した? 参加資格のカードはどうやって取得した?」


「そんなのなかった。ズルしたんだよ。別のほうから青墓の杜に入って」


「別のほう? あの厳重な入場規制に穴なんてあるわけ……」


「雄蛇ヶ池公園の南門側」


「それって青墓の東北辺だよね。

あっこから入ったって? ツリだろ? 

あの辺りはあちこちに流砂があって、青墓を熟知している人でも足を踏み入れない場所だよ」


「でも、ユウについて行ったら簡単に集会場に潜り込めた」


 サキが突然立ち上がり、


「もういい加減にしてよ。あんたの話は嘘だらけ。

死人と一緒だったとか流砂の上を歩いて来たとか。

ほら、とっととここから出てって」


 と、あたしを乱暴にドアのほうに引き摺って行こうとする。


「ミヤミユはどうするの? 探さないの?」


「ウチが一人で探す、出てって!」


 痛いよ。服が脱げちゃうじゃん。


「ここはあたしの部屋だし」


「は? ここはウチのベースキャンプ」


「だって、あたしはステー先から追い出されてここに泊まってて」


「ステー先? 何それ」


「みんな、それぞれホームステーすることになったでしょ」


「はあ? ウチはずっとここだし、ミユウはバイパス沿いのホテル。あんたは何だって?」


「あたしはAさん宅に」


「それって最初に寄った洋館風の屋敷のことだろ。あの幽霊屋敷に泊まってたって笑」


「幽霊屋敷?」


「あそこは3年前の事件で犠牲になった子の家で、残された家族はその後、離散。今じゃ女の幽霊が出るって話だけど」


 何言ってるの? 


いったいどうなってるの? 


世界がおかしくなって来てる? 


それともあたしがもともとおかしいの?


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