「辻沢ノーツ 31」(辻沢の割礼について)

 フロントに行って部屋を確認すると、


「キャンセルされてます」


 と言われた。


 予約したハズと食い下がると、裏から昨日応対した人が出てきて、


「あの後すぐにご自分でキャンセルしに戻っていらっしゃいましたよね」


 と不審そうな目をして言った。


「荷物も持って行かれました」


 とも。そう言うことか。ユウがあたしの名前を騙ったんだ。


でも、なんの目的で?


「それと、荷物を引き取られた後になりますが、お客様にメモを残された方がおいででした。必ず戻って来るとおっしゃいまして」


 と2つに折られたホテルのロゴのあるメモ用紙を差し出した。


それを受け取り中を見ると、


「バイパスのヤオマンホテル、905号室に来て。ミユウ」


 とあった。よかった。ミヤミユ、無事だったんだ。


すぐにミヤミユに会いに行こう。


ミヤミユに会って、ユウと雄蛇ガ池で何があったか聞いてみよう。


そうすれば、全部分かるんじゃないか。


どうしてあたしの荷物を持ち去ったのかとか、あの後どこに行ってたのかとかも。


 トモカク、今あたしにはミヤミユに会いに行くことぐらいしかできない。


なぜなら、あたしの持ち物はデニムのポケットに入っていたゴリゴリカード一枚だけだから。


スマフォもお財布も、調査道具一式全部手元にない。


 ロビー脇のおトイレで髪を洗った。


何かわからない固形物が髪にこびりついていて気持ち悪かった。


シャンプー代わりに緑の液体石鹸を使ったせいで頭がトイレ臭くなってしまった。


用具入れの雑巾を借りて濡れた髪を拭いたあと、脱いだパーカーと一緒に中に戻しておいた。


真っ白だったパーカーは汚泥なのかあの化け物の体液なのか、元の色が分からないくらいに汚れていた。


こんな格好をしてたなんて。鏡の中の自分を見て悲しくなった。


下にタンクトップ着てたのはせめてもの救い。




 駅前はサバゲースタイルの人がちらほらいた。


でも、昨日ほどの賑わいはなかった。

 

寸劇さんやサダムさん、サーリフくんをその中に探した。


短い間だったけど、寸劇さんたちとは戦いの中でいい関係が築けた気がしていたから。


連絡が取れないだけならもう一度会いたいと思った。


 どうしても考えてしまうのは、やっぱりユウのこと。


裏での行動はいい感じはしないけど、ユウを突き放せないでいるのは、あたしにそっくりということ以上に、ユウに寄せてる信頼が大きいからだと思う。


ユウは他の人とは全然違うという感覚。


ミヤミユとの件については、これから会いに行けばはっきりするだろう。


「バイパス大曲交差点まで」


(ゴリゴリーン)


 バイパス線に乗った。


この路線は駅前から宮木野神社の脇を通り宮木野バイパスに入る。


宮木野神社を過ぎてバイパスに入ると一気に南下して、雄蛇ヶ池手前で東に大きく曲がって、N市の方向へ抜ける。


その曲がり端にミヤミユの指定したホテルがある。


 駅から乗っていた清楚系の制服着たJKが、目の前の座席で面白そうな話をしてる。


鞠野先生に人の話に無駄な話なんて一つもないよって教わってるから、こういう時でも聞き耳を立てちゃう。


失礼なのは分かっているけど、学術的好奇心は止められないのだ。


「マナミんとこって双子だったよね」


「うん」


「辻沢じゃさ、女子の双子は5才の時に前歯を折るって風習あるってじゃない?」


「辻沢の割礼ねw」


「そうそれ。マナミはしなかった?」


「いきなりだね。なんでそんなこと知りたい?」


「現社のレポートの『私の住んでる町調査』。なんも知らねーしって」


「エリナは転入勢だもんね。で何調べてんの?」


「辻沢のヴァンパイア伝承について」


「おー、核心つくね。じゃあ、教えてあげる。したよ。よく覚えてないけど。因みに前歯じゃなくて犬歯ね」


「でもマナミ犬歯あるよね」


「折るのは乳歯の時」


「いたかった?」


「先っぽだけだから」


「そっか。で、なんで?」


「ヴァンパイアにならないように」


「やっぱそうなん? でも、どうして双子の女子だけなんだろ。男だって、双子じゃなくたってよくない?」


「それな」


「おもうっしょ、フツー」


「うんとね、おばーちゃんが言ってたんだけど、宮木野の子孫に、女の双子が生まれるとどっちかがヴァンパイアってのが続いたんだって」


「なるほど、そういうこと」


「伝承ではね」


「相当いるよね。あたしらの周り。双子。カリナ先輩とカイラ先輩とか」


「いるいる。アリサちゃんとアカリちゃんもそうだし、中根姉妹も」


「みんな折ったのかな」


「折ってると思うよ。辻沢の双子は」


「折らなくてヴァンパイアになった子っているのかな?」


「いるよ。あたし知ってる」


「うっそ! マジで?」


「ウソに決まってっしょ。迷信信じんなよ」


「もー、マナミ!」


 話聞いてたら、歯が痛くなってきた。


「それはそうと、何か臭くない?」


「あ、さっきからあたしも」


 それって、あたし? 気付かれないうちに席移動しよっと。


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