第41話 神崎信介の料理

俺が黙々とボールにサインをしていると玄関から音が……。

「拓海さん帰ってきたかな」

「まぁ、確定で父さんでしょうよ」

すると、すぐにリビングのドアが開き、我が家の家主赤井拓海が部屋に入ってきた。

「おぉ……神野くんがキッチンに立っている。今日のご飯は美味しいのが確定か……」

「拓海さん、家に泊めさせてもらってありがとうございます」

「全然。蓮の数少ない友達だしね。前も家でご飯とか作ってもらってたりするし……楓のこと頼んだよ?」

「了解です。めちゃくちゃ甘やかします」

「なんだろう……自分の親と友人が話していても違和感がない」

「お前の兄になるかもしれない人なんだからな。今のうちに交流を深めとけよ」

「兄?………えっと、幸。ガチで?」

「すまんが、この度赤井奈津さんと結婚することになったんだ……」

「えっ……お前が義理の兄に」

えっと、本当に絶望なんですけど……。

「だから、蓮。神野くんのことはお義兄さんと呼びなさい。甘やかしてくれるから」

「えっと……お義兄さん」

「なんだい?愚弟?」

「父さんもう駄目。俺この人とやっていけないっ」

「だ、大丈夫。まだ大丈夫。メンタル強いだろ。蓮は」

「う、うん。もう一回。お義兄さん」

「なんだい?血の繋がってない愚弟?」

「なんか色々と辛いよ!この兄めちゃくちゃ面倒くさいよ!」

「まぁ、冗談だし……拓海さんも何言ってんですか。俺もノリましたけども」

「一度やってみたかったんだよね。神崎信介が息子ってやつを。じゃあ、カバン置いてくるね」

「了解です。まぁ、自分の親はこんだけ稼いでるんだって言ったときへぇ、凄いな。まぁ、俺達のことは心配するな。今稼いでる分で充分だから。ただ、時間があれば顔を見せに帰ってきてくれ。でしたからね。びっくりとかそんなのは一切なくて俺に迷惑をかけないからってのと帰ってきてくれないと寂しいんだぞ?ってやつだけでした」

「良い親だな……俺はお前が兄になるのが嘘でいま心底安心してるよ」

「まぁ、楓ちゃんと奈津さんに関してはびっくりするほど金を注ぎ込んでますがね?俺の普段着とか買う時とか手伝ってもらうし。あと、一人じゃ入りにくい所に行くときとかね」

「自分の姉とは行かないのか?」

「ちょっとうちの姉は日光に弱いので……」

「家族は……あー近くに住んでないのか」

「うん。私は姉と二人暮らしです」

「家では幸が毎日料理をすると……」

「いや、マイシスターは主婦と言っていいぐらい家のことしっかりとやっててくれるよ。まぁ、いつも帰ったらソファーかベットで寝てるけど」

「ほうほう……そこに幸が襲いかかると」

俺がそういった途端、神野は目を逸らして料理に集中する。

「えっ、ちょ待って。本当なの?近親相姦って犯罪よ?大丈夫だよね?」

「……」

「いや、待って。友人が近親相姦で捕まるとか待って。それは本当にびっくりだから待って」

「……ふぅ、来世で」

「諦めんな!嘘、嘘だと言ってくれ」

「料理が出来ましたー」

「わー凄くいい匂いじゃなくて」

すると、そこでかばんをおいて着替えた父さんがリビングに降りてくる。

「おお、良い匂い。これは、母さん達に嫉妬されちゃうな」

「はい、温かいうちに食べてくださいね」

「神野くんありがとうね。本当に奈津を貰わない?」

「考えときますね」

「その答えが聞けて満足だ。……おい、蓮。どうしてそんなにあわあわしてるんだ?」

「ちょっと衝撃の事実と向き合ってるんだよ」

「衝撃の事実」

「はぁ、そんなのは冗談に決まってるだろうが。ほら、飯を食え飯を」

「おっ、おお……えっと、これは?」

「パエリアとか、スパゲティだな」

「うん……まぁ、細かいことは気にしないわ。お前があの冷蔵庫の中身から何を作ろうと」

「いや、買ってきたから。ここに来る前にスーパー行って材料買ってきたから」

「あぁ、やっぱり神野くんが作る料理は美味しいな……」

「父さんはもうそれしか言えないのか」

「だって、めちゃくちゃ美味しいから仕方がない」

「ありがとうございます」

そうして、神崎信介が家に来るという事件は美味しい料理を食べる事で終わったのであった。

「なぁ、一緒に風呂入るか?」

「え?ちょっとそれは……」

「久しぶりに会ったんだし二人で入ってきなさい。この家のお風呂めちゃくちゃ大きいんだから」

「え?いや、嫌だって。アァーーーーー」

まだ、事件は続きそうだ。

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