第47話ヒロイン視点神崎クオリティレヴェル対チーナ振り返り4
「後半が始まり、レヴェルは赤井選手へとボールを送ろうとしますがチーナの守備陣にパスをカットされてなかなか送ることが出来ません。更にはカープ選手に渡されてしまい、防戦一方となっていました。
ですが、後半15分。ようやくナルダ選手からのパスが赤井選手へと通ります。赤井選手は前に二人ディフェンダーが居るのを確認した後、ドリブルで切り込むのではなく少し離れた所からシュート。ボールはバーに当たり下へ跳ね、ゴールキーパーがキャッチしようとしますがゴールラインを超えます。これでレヴェル1点目です」
「この赤井選手のゴールって神崎さんが配信で浅沼さんを操作してやったのと似てますよね」
「あー……言われてみればそうですね。ちょっと友人が現実離れした結果出してて怖いですね(苦笑い)。まぁ、そもそもデビュー戦でハットトリック決めてる時点で凄いんですがね」
「言われてみれば……」
そして私が我を忘れて何故か連絡先を交換すると……いや、うん。あれは仕方がない。なんたって絶対王者のオリンピア相手にハットトリックするわ、味方へパスして2アシストするのが悪い。その後、恥ずかしすぎてメール送れなかったしなぁ……。でも、先輩に揶揄されて一緒にゲームしましょうね!!ってメールをようやく送れたけど。
「はい、では次です。後半28分、赤井選手、ターロス選手、ナルダ選手の3人でボールを繋いでゴール前へ。赤井選手がゴールを狙える位置に居ましたがチーナの守備陣とゴールキーパーがおり、ゴールを決めるのは極めて難しい状況でした」
「でも、ここで決めちゃうのが赤井選手なんですよね?」
「はい。まだ公式戦2試合目というのにこの信頼感。一旦赤井選手は近くのターロス選手、パブロ選手にパスを出そうとしますが即座にコースを変えてゴールへとボールをキック。キーパーは反応が遅れてしまいボールはゴールラインを超えます。これで赤井選手は2点目でレヴェルとチーナの試合を振り出しに戻します」
「確か、浅沼さんが凄いフェイントって言ってましたよね」
「ええ、でも映像見る限り本当にパスコースが無いんですよね……なので赤井選手は即座にパスは無理だったらシュートだけでもってパスからシュートに即座に判断を変えたんじゃないかって浅沼さんが言ってました」
「状況判断の能力、それに付いていく体とテクニックと本当に素晴らしい選手ですね」
「ええ。ここから試合は硬直状態になります」
「ここも見どころが満載でしたよね」
「ええ、守って攻めて守って攻めてとどちらのチームのファンも手に汗握る展開だったと思います。そして、後半アディショナルタイム。両監督、両選手陣が延長戦を考えだしたその時、レヴェルのパブロ選手がドリブルで上がり、チーナの守備陣がパブロ選手に注目して赤井選手へのマークが甘くなります。そして、赤井選手がパブロ選手からボールを受け取って前にいるディフェンダー二人を抜き去ってゴール前へ。前にはキーパーと一人のディフェンス。赤井選手はシュートフォームに入りそのままシュート。ボールはちょうどディフェンスの右下を抜けるはずがディフェンスの足にボールがかすりシュートの威力が少し下がってしまいますがやはりコースが良かったのかボールは右のゴールポストに当たりゴールラインを超えます。流石にボールは遠く、キーパーが懸命に手を伸ばしますがボールは止めることができず赤井選手が今試合3点目、ハットトリックでレヴェルは3対2とチーナに点数で勝ちます。その後すぐに試合は再開し、カープ選手が懸命に攻めるのですがレヴェルの守備が熱く試合終了のホイッスルがスタジアムに響きました」
「後半からの出場でハットトリック決めてチームを勝利に導く、まさしくスーパースターですね」
「ええ、赤井選手素晴らしい活躍でした。そして今、改めて映像を見返してみるとクック監督が赤井選手の起用に関しては体力の問題で休ませたかったってしっかり言ってますね」
「……すっかり抜け落ちてましたね。俺わかるのはクック監督だけです。みたいなこと言った覚えがありますね。やっぱりスペインから帰って来て空港からそのままテレビ局来るのはおかしいわ。ちょっと記憶力が落ちてるわ」
「だからあんなに最初から大声出して無理やりテンション上げてたんですね……」
「いや、違わなくはないね。うん。仕事は頑張らないとね……」
「神崎さんの体力も気遣ってあげてくださいね。えーマネージャーさんとか」
「……奴にはもう希望を持つことは辞めたのさ」
「確か3徹夜の時とマネージャー変わってないんでしたっけ?」
「……」
「はい、神崎さんが本当にタヒに掛けて居ますので今日はこのくらいで終わろうと思います」
「百瀬さんに気を使わせてしまった……いや、俺が司会で雇い主だからこれは普通のことなのか?」
「あー神崎さんが闇落ちしてしまう。では、百瀬さん。ここでアナウンサーとしての実力をこの高梨が見せましょう。はい、では早口で行きます。スペインカップ第一回戦1stレグがありましたが、レヴェルはまさかの敗退。2ndレグで1stレグで付いてしまった1点を巻き返すことができるのか?次の2ndレグでどのようになるか見どころです。では、いい時間なのでスタートとは反対に小さな声でさようなら〜」
「「さようなら〜」」
「絶対休みを勝ち取ります」
「神崎さんの声がもうタヒんでる……」
「カットー」
スタッフから終了の合図が放たれる。
すると神崎さんはすぐに椅子へ座りふぅーーーっと息を吐いて「今日は気を使わせてしまってすいませんね。ありがとうございました」と言ってすぐに楽屋の方へ戻ってしまった。
「本当にあれは疲れてますね……」
「高梨さん、神崎さんはいつも元気なイメージが強いんですけど疲れることもあるんですね」
「いや、あの人ははっきり言っていつも疲れてますよ?今回は多分久しぶりの海外で料理が合わなかったりして疲れに拍車をかけてたんじゃないですかね……確かスペインでは浅沼さんやスタッフに連れられて色んな店を回ったって聞きますし……そして大人たちが酔った所を介護させられたらしいですし……」
「神崎さんは凄いですね……」
「なんやかんやあの人も高校生ですからね……たまには疲れまくってるときもありますよ。でもこの後すぐにニュースのコメンテーターとラジオがまだ残ってるってマネージャーから聞いたんですよね……」
「えっ、まだこの後仕事あるんですか?」
「まぁ、売れればそれだけ責任が強くなるってことですよ。赤井選手も連続ハットトリックを決め続けたら周囲の期待の重圧に潰されるんじゃないですかね?まぁ、その時はチームメイトが支えてくれるかも知れませんが面識のある人からの電話とか意外と励みになるらしいので赤井選手が大変そうだと思ったら百瀬さんも気軽に電話掛けてあげてくださいね。自分も色々と取材してますけどやはり海外は何もしてなくても精神的に削られることって多いですから」
「まぁ、もしもの時は赤井選手に電話しますけど……神崎さんは大丈夫なんですか?」
「ふっはははは。すいません。やっぱりあれ見るとヤバそうだと思いますよね。でも安心して大丈夫です。だって神崎さんは、神崎信介は仕事を失敗したことは無いですから」
「なんやかんや神崎さんも赤井選手並に仲間からの信頼が厚いんですね」
「なんやかんやと言うか、赤井選手とは比べ物にならないくらいの信頼があの人にはありますよ。そもそも赤井選手が認知されてるのは神崎さんの力が大きいですからね。この神崎クオリティをサッカー特番にするって聞いた時は少し耳を疑いましたよ」
「私も一回だけだと思ったのに意外と呼ばれててびっくりしてます」
「まぁ、神崎さんはなんやかんや友人に甘いってことですかね」
「おーい、高梨アナウンサー。すぐに次のスタジオ映るぞー」
「はーい。ほら、神崎さん元気になってるでしょ?あそこまで芸能界に色んなものを捧げられる人は居ませんよ。じゃあ、自分は次の現場に行くのでまた今度。あっ、神崎さん待ってくださいーー」
すぐに高梨さんは神崎さんを追いかけていってしまう。
少し考えてしまう、私は神崎さん並に芸能界に色んなものを捧げられているだろうか?
海外から帰ってきてすぐにテレビ局に来て仕事が出来るだろうか?
始めはモデルになりたいという小さな憧れから入った芸能界。高校生大会のマネージャーをした事で思った以上の場所まで来ることができた。今やモデルよりもタレントとして、色んな番組に出たいという気持ちの方が大きい気がする。
でも、神崎クオリティ以外の番組からのオファーは一切ない。それは私が神崎クオリティで良いコメントをしていなかったりするからなのだろう。
……私は、母のようになれるのだろうか?
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