第35話 悶え死ぬ
「
「え?」
SNSをしばらく放置して、しばらくイチャラブしていた俺達、再びスマホを手に取ると……、
「えっ! なんで?」
大阪でオフ会が行われる流れが出来上がっていた。
皆んなのお目当ては……、
俺だった。
愛依が巨乳美少女なんて紹介するものだから、皆んな俺に会いたいと、食いついて来たのだ。
「ご……ごめんね
この展開は流石の愛依も予測していなかったようだ。
「あはは、いいよそんなこと、それより……正直に男だってバラしちゃおうか?」
「うん、そうしよ……」
そんなわけで、ツナっちは巨乳美少女じゃなくて本当は男でしたとカミングアウトした。
すると、
『糸ちゃんとツナっちが一緒に居るのは本当? もしかして同居してる?』
と入ってきた。
「皆んな、鋭いな……」
「うん……でもほら、壮一郎SNSで同居人募集してたから」
……そうだった。
俺と愛依のきかっけは、SNSで同居人募集をした投稿だった。
続けて、
『糸ちゃんとツナっちだけズルイ、ウチも2人に会いたい』
『俺も俺も』
『やっぱ大阪でオフ会!』
と入ってきた。
オフ会か……俺も皆んなに会ってみたい気持ちはある。
「どうしようか? 俺は別に構わないけど」
「私も別にいいよ?」
「じゃあしちゃう? オフ会」
「しちゃおっか オフ会」
というわけでオフ会が行われることが決定した。今の流れ的に冬休みあたりに決行される見込みだ。
冬休みと言えば、年末年始。
年末年始と言えば帰省。
愛依は年末年始はどうするつもりなのだろうか。
……というよりもまずは愛依のご両親に挨拶だ。
俺は早速、挨拶の話を切り出した。
「ねえ愛依、そのままでいいから、聞いてくれる?」
「うん」
ソファーで俺に寄りかかりながら、スマホを手に取る愛依。
「俺さ、愛依のご両親に挨拶したいんだけど」
「え……」
愛依は手に持っていたスマホを落とした。
「ご、ご、ご、ご、ご両親って何事!」
取り乱してしまったのか、愛依の口調がネットの口調になってしまった。
そして、俺の方を向き頬を赤く染めて正座した。
「そ……壮一郎はそこまで、私の事を本気で想っていてくれたの?」
俺も愛依につられて、向き合って正座した。
このシチュエーション、なんか照れる。
愛依の言うところの、そこまでが、どこまでかは分からないけど、愛依の事ならどこまでだって本気だ。
だから当然、
「もちろん!」
と力強く答えた。
すると愛依は、身体を起こし、口に手を当てて、感極まるのを堪える様な仕草を見せた。
そしてつぎの瞬間、
「……嬉しい」
勢いよく抱きついてきて、耳元でそう囁いた。
……いくら俺が鈍ちんでも、これが何を意味しているかは理解できた。
そりゃ、理由も説明せず、いきなりご両親に挨拶させてくれと言ったら、愛依もこうなるよね。
愛依は、ご両親に挨拶イコール結婚の挨拶と勘違いしたのだ。
でも、行き着く先はそこだ。
だから勘違いされたままでも何の問題もない。
むしろ、結婚と勘違いして喜んでくれるのは俺にとっても喜ばしいことだ。
唯一ある不安は、俺の年齢が16歳って事ぐらいだ。
「……ねえ壮一郎、ウチの親とはいつ会う?」
抱きついたままの体勢で愛依が続ける。
「俺はいつでも良いけど、愛依のご両親、海外じゃなかったっけ?」
「…………そっ、そう! そうだったね!」
うん? なんだ今の間は?
「メッセージで聞いとくね!」
激しく取り繕った気がした。
「ねえ愛依、ご両親が海外にいるならさ、会議ツールとか使って、とりあえずオンラインでご挨拶しない?
つき合ってるんだし、
同棲してるわけだし」
「え……あ、でもウチのご両親、その手のヤツ苦手だし」
……ご両親とか言っちゃってるし!
いつもの愛依と違う、あからさまな怪しさ……何か俺に言えない事情でもあるのだろうか。
「あはは……」
なんだ、さっきからの、この取り繕う感は……、
……まあ、思うところがないわけじゃないが、あまり追求するのも良くないだろう。
「そ、それよりさ、壮一郎、そろそろ、こっちでお話しようよ」
愛依はソファーを降りて布団に入った。
「そうだね」
俺は愛依に誘われるまま布団に入った。
「ねえ、こっち向いて」
「うん」
いつも抱き枕にされるので、首だけ横にむけると、
「違う、身体ごと向き合うの!」
ダメ出しを受けた。
「まだ、寝ないよ? お話だからね」
さっきの取り繕う感はどこにいったのやら……今日のあざとさのある愛依に戻っていた。
「ねえ、壮一郎、私のどこが良かった?」
おや……この質問はたしか、
「それは前に、答えたと思うけど……」
「違う、違う、壮一郎」
愛依は人差し指を立て、チッチッチと左右に動かす。
「壮一郎はその……私と……してもいいんでしょ?」
伏せ目にして、結婚を隠語にして、その台詞はだめだ。
殺傷能力が高すぎる。
「今聞いてるのは、その決め手よ」
なんか今日の愛依、やっぱりいつもと様子が違う。
「何もないの? 壮一郎?」
眉を八の字にして口を尖らせる愛依。
ヤバイ……可愛いよ! このまま何も答えずに見ていたいまである。
でも……、
「いや、そんなことないよ、沢山あるよ」
愛依の良いところは沢山あるけど、俺にそんな勇気はない。
「じゃぁ、ひとつずつ聞かせてね」
「あ、うん」
ていうか、一緒の布団に入っているから、近いのは仕方ないけど……さっき自撮りの時に開けたパジャマのボタンが気になる。
直視すると、何かが暴発しそうだ。
「目そらしちゃダメ」
目をそらそうとしたら、両頬を愛依に押さえつけられた。
「う……うん」
「ちゃんと、目を見て話してね」
あ……そっちね……にしても今日の愛依は、やけに挑発的だ。
それに、なんだろう……この距離で見つめ合うとキスしている時みたいに……頭がとろけてしまいそうなんだけど。
「ねえ? ないの?」
ヤバイ、このままだと笑顔の威圧に変わる。
俺は咄嗟に、
「か……可愛いところとか」
めっちゃありきたりで、外見的な事を答えてしまった。
「可愛い?」
「……うん」
すると愛依は小悪魔的な表情になり、
「財部先輩より?」
答え難い質問をしてきた。
……そりゃ俺にとっちゃ……愛依の方が可愛いに決まってるけど、財部先輩は芸能人だし、そのなんていうか独特の雰囲気っていうか……だめだ、この質問は早く答えないと!
「うん!」
「今ちょっと間が開かなかった?」
痛恨のミスだ……余計な事に気を使い過ぎた。
「そんなことないよ……気のせいだって」
うん、やっぱ……いつもの愛依と違う。
「他は?」
他か……そりゃいくらでもあるけど、こんなドキドキする状況で冷静に頭まわんないし!
「最低10個は言ってね」
お……おう、こ……これはなんと言うか。凄い追い討ちがかかった。
「壮一郎」
「……はい」
「たったこれしきの事で、他の女の子のために命を張ったこと許してあげるんだから、しっかりね」
やっと俺は気付いた……これが“覚悟してね”の正体だったと……愛依の様子がいつもと違ったのは……わざとだったのだ。
「今日はね、壮一郎が私のことで頭がいっぱいになるまで寝かせてあげない」
いや充分なってます。
むしろ、愛依のこと以外考えられなくなっている。
「まだ、可愛いだけしか聞いてないよ? 他は?」
お……おう、これは何と言うか、じわじわ効く。
照れ臭いのもあるし、この距離。
なんか、普通に悶々してくるし……、
て言うか、パジャマのボタンも止めなかったのってわざと?
もしかして……俺、誘われてる?
「愛依」
流れにまかせてキスを迫るも、
「ダメよ、ちゃんと10個言うまでお預けよ」
上手くかわされてしまった。
「私は壮一郎の好きなところ10個言えるよ? 聞きたい?」
マジ……なんて目でなんて事をいうんだ。
この後、俺は愛依の10の告白に……悶え死んだ。
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