ひとり暮らしが寂しくて同居人を募集したら学年NO1美少女と同棲することになってモテ期が来た

逢坂こひる

第1話 オタロード

 俺は忽那くつな 壮一郎そういちろう。高校入学を機に大阪で一人暮らしを始めた高校1年生だ。偉そうに始めただなんて言っているけど、自分だけの力じゃない。半分は親の力だ。


 俺の実家は貧乏だけど、家族は皆んなフランクで、とても賑やかだった。賑やか過ぎて、たまに警察に通報されることもあった。


 そんなギャップもあって、見知らぬ土地、大阪でのひとり暮らしは、とても寂しいものだった。


 ……寂しさを紛らわせる為に俺は、SNSにどっぷりハマった。

 俺はある日、あまりの寂しさに耐えかねて、SNSで同居人を募集してみた。期待半分、冗談半分。同世代の女の子だったらめっちゃ嬉しいけど、そんなことよりも、孤独の寂しさを何とかしたかった。

 同居人募集投稿のコメントは結構盛り上がったけど、やっぱり冗談だと思われて、俺の寂しい気持ちは華麗にスルーされた。

 まあ、顔も見えないんだし、そんなもんだ。絡んでくれているだけ幸せで、そんなに多くを望むもんじゃない。

 なんて思っていたら、仲の良いフォロワーさん、糸車いとぐるまさんからダイレクトメッセージが届いた。

 糸車さんとダイレクトメッセージをするのは初めてだ。


『ツナっち、さっきの話し、もしかしてガチじゃなかった?』ツナっちは俺のハンドルネームだ。

『うーん、半分本気で、半分冗談かな』

『半分? じゃ半分は本気なんだよね?』

『そうだよ』


 この日のやり取りはここで止まった。わざわざダイレクトメッセージで何だったんだろう。と考えている間に、俺は眠ってしまった。

 

 そして翌朝、糸車さんからダイレクトメッセージの続きが届いていた。


『ツナっち、一晩考えたんだけど、ワイ応募してもいい?』

『応募って同居人?』

『うん!』

 糸車さんからすぐに返信が来た。

『もちろん! 糸車さんなら大歓迎だよ!』

 糸車さんとは、秒でイイネやコメントをやり合うぐらいに仲がいい。密かに応募してこないかなと思っていた人だ。めっちゃ嬉しい。

 ただ問題は場所だ。

『俺、大阪だけど大丈夫? ちなみにミナミ近辺』

『昨日の募集にミナミって書いてたやん、ワイも大阪やからミナミ全然問題ないで』

 場所的にも問題ないようだ。朝からテンションだだ上がりだ。

 

 その後もやり取りして、今日学校が終わってから、何故かオタロードの有名店の前で待ち合わせることになった。

 まさか待ち合わせにオタロードを指定されるとは思わなかったけど、そんなのは些細な事だ。

 ちなみにオタロードは大阪のオタクの聖地で東京のアキバみたいなもんだ。

 

 ——今日は足取りが軽い。

 後ろに楽しみがあるだけで1日の気分って、ガラッと変わる物だと初めて知った。


「ういっすツナ!」ツナは俺のあだ名だ。あだ名って言っても名字の忽那くつなからツナを取っただけの単純なものだ。

「ちっすミッシー」彼は三島祐司みしまゆうじ、一番の親友だ。むしろ唯一の友達と言ってもいい。

「ツナ、今日機嫌よくね? なんか良いことあった?」

「お、分かる? 前にSNSで仲の良いフォロワーさんがいるって話したじゃん、今日その人と会うことになったんだよ」

「まじか、でも大丈夫なん? 危なくね?」

「いや、大丈夫だって、あの人に限ってそんな事はないよ!」

「でも、物騒な世の中やからな……気つけなあかんで」

「大丈夫だよ、だって俺だぜ!」

「何その、根拠のない自信……」

「だって待ち合わせ場所、オタロードだぜ!」

「え、何それ、初対面でオタロードって、逆にヤバくね?」

「ヤバくねーよ! オタクに悪い奴はいないぞ?」

「……また根拠のないことを」

「俺もオタだし、同類は信じるさ!」

「……あっそ……」ミッシーは少し呆れ顔だった。


「つーか、それよりもツナ……お前、とどろきさんに何かした?」

「轟さんに? するわけないじゃん! そもそも接点ないし!」

「だよな……でも……お前、さっきから、めっちゃ睨まれてるで」

「え……」


 とどろき 愛依いとい

 腰まで届こうかという長い黒髪に、整った顔立ち。美人か可愛いかで分けると可愛い系。そして胸はめっちゃ大きいってわけじゃないけどスタイルは抜群。彼女は学年No1の美少女とうたわれ、スクールカースト最上位に位置する。友達が1人しかいない俺とは真逆のタイプの人間だ。

 男子はもちろん、女子からの人気も絶大で轟さんのことを、好きじゃないやつは居ないと言っても過言ではない。

 でも、その彼女がなぜ?

 振り向いたら轟さんは本当に俺をにらんでいた。でも何でだろう……俺、なんか怒らせるようなことした? 自分でも言った通り接点なんてないし。

 轟さんがこっちへ近づいてくる……

「忽那、その話本当なの?」

「「へ」」

「その、オタロードで待ち合わせとか言ってた話」

 え……もしかして俺らの話聞いてたの?

「うん、本当だけど」

 更に轟さんが俺を睨む。刺さるように冷たい視線だ。

「あっそ……」

 轟さんはそのまま女子達の輪の中へ戻っていった。

「何……今の? お前やっぱ何かしたんちゃう?」

「いやいやいやいやいやいや、知らないよ! 俺、何もしてないって」

「でも、だならぬ雰囲気だったぞ」

 確かにただならぬ雰囲気だった。

 つーか……轟さん、俺の名前覚えてくれてたんだ。

 いや、それよりも、轟さんとはじめて話しちゃった!

 睨まれた事をなんかすっかり忘れて、めっちゃ小さな事に幸せを感じる俺だった。


 ***


 そして、あっという間に放課後。

「なあ、ほんまに付いて行かんでも大丈夫?」

「大丈夫だって、心配性だな、ミッシーは」

「いや、でも最近本当に物騒だからな」

「大丈夫だってオタクに悪人はいない!」

「……はいはい」

 ミッシーは呆れ顔で送り出してくれた。


 ここから、オタロードまで、少し距離はあるけど、まだ時間もあるし歩いて行くことにした。

 そういや、SNSで知り合った人と会うなんて初めてだ。糸車さんてどんな人なんだろう。一人称はワイだから、男だよね。下ネタも結構ぶっ込んでくるし……歳上なのかな? 


 まあ、その答えはもう直ぐ出る。


 そして……例の待ち合わせ場所で待っていたのは、眼鏡っ子でツインテールでキャリーバッグを持った超絶美少女だった。

 もしかして糸車さん?

 いやでも、そんなはずない。糸車さんは男だ……なんて思いながら、ダイレクトメッセージで連絡を取ろうとすると、

「ツナっち?」

 ツインテールの彼女向から声をかけてきた。

 やばい、可愛い、っていうか聞き覚えのある声……つーか、この声は……とどろきさん?

「はい……ツナっちです。つーか、轟さんだよね?」

「ギクっ……」

 ギクって……分かりやすく驚く轟さん。

「誰のことかな?」

 轟さんは明後日あさっての方向を向いて、気まずそうに誤魔化した。この状況でシラを切れるとか、なかなかだ。

「いや、うちの学校の制服だし、クラスメイトだし、さすがに無理くない?」

 うぐぐっとなる轟さん。

「何で分かったの、完璧な変装だったのに!」

 ちょっとムスっとする轟さん。残念ながら、その美貌はごまかせない。


「さっきも言ったけど、うちの制服だし、クラスメイトだし……」

「忽那とはクラスメイトってほど話してないのに、何故……」


 ……地味に傷つく一言だ。

 

「それはまあ……それより何でオタロード?」

「ここなら友達にバレないと思ったから!」


 なるほど合点のいく回答だ。


「ツナっちが忽那って知ってたし……私なんかと、変な噂が立つと迷惑だと思って……」


 もじもじ照れながら話す轟さん……迷惑だなんてあり得ない!


 それよりも俺って知ってた?

 それってどういうこと?

 俺と知ってて同居に志願?


 それって……、


 もしかして、轟さんは俺のことが……期待に胸が膨らむ俺だった。


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