第2話 顔から火が出る
「ここだよ」
とりあえず、立ち話もなんだから、俺の部屋まで移動した。
しかし……俺の部屋にはじめて上がるのが、学年ナンバーワン美少女、
「おじゃまします」
……なんかドキドキする。
やっぱ可愛いな、轟さん。
「おう……思ったより広くて綺麗ね」
「でしょ」
1LDK、風呂トイレ別、内装は新築、なのに格安。内緒だけど、いわゆる曰く付き物件だ。
「まあ、とりあえず座ってよ」
「うん、ありがとう」
……俺ん家のソファーに轟さんが……ていうか、轟さんが部屋に入っただけで、家の中が一気にいい匂いに! 刺激的だ! 実に刺激的だ!
「コーヒーしかないけど大丈夫?」
「うん、ありがとう、おかまいなく」
ツナっちが
……でも俺は、なんで俺と知ってて応募したの? とは聞けなくて、
「轟さんは、なんで応募してくれたの?」
当たり障りのない聞き方になってしまった。俺はチキン野郎だ。
「ツナっちと同じだよ……寂しかったの」
いつも皆んなの中心にいる轟さんが寂しいだなんて、意外だった。
「ご両親はこの事知ってるの?」
「ううん、でも海外出張で、ずっと1人なんだ」
なるほど……凄く寂しそうな顔で轟さんは答えた。
「俺なんかと一緒に……本当いいの?」
「ツナっちがいいんだよ」
え……それって。
ドクンと胸の鼓動が大きく跳ね上がった。
「私、ひとりが寂しくて、寂しさにのあまりにSNSを始めたの」
どこかで聞いた理由だ。
「で、SNSでツナっちと知り合ってから……その寂しさが紛れていったの……だからいつか、ツナっちとこうやって話たいと思っていたの」
俺も同じ事を思っていた。いつか糸車さんと会って話したいと。
「そういや轟さんは俺がツナっちって知ってたんだよね? だったら学校で話し掛けてくれてもよかったのに」
轟さんの表情が少し暗くなった。あれ? マズかった? もしかして、わざわざ家に来んな的に捉えられた?
「私と話すと嫌な噂が立つでしょ?」
え……嫌な噂? そう言えばオタロードでもそんな事言ってたっけ。
「何それ?」
「あれ、ツナっち知らないの?」
「うん……なんのことだか」
轟さんがスマホのページを開いて見せてくれた。
……くだらない書き込みだった、うちの学校のタグが貼ってあるSNSの書き込みに、轟さんがビッチとかそういう
「誰が、やったのこんな酷いこと」
「分かんない……」
うん? 分からないって顔はしてないけど、
「それ、嘘だよね。轟さん嘘つく時、鼻に手やるもんね」
「嘘!」驚く轟さん、もちろん嘘です。
この後、少し沈黙があって、轟さんは答えてくれた。
「多分、
「そっか……」
いつからか分からないけど、こんな酷い書き込みされてるのなんて知らなかった。だって轟さんは普段と変わらず輪の中心にいたし……。
無性に腹がたった。もし本当に、香山先輩がそんな事をしているなら絶対に許さない。
「轟さん、ちょっと待ってて」
俺は、自室のマシンで、ちょっといけないコマンドをゴニョゴニョ入力した。少し時間が掛かってしまったけど、該当の書き込みから色々な情報を引き出す事ができた。
んで、後は香山先輩のパーソナルデータを探して照らし合わせれば……。
「……」
うん……轟さんの言う通り、香山先輩で間違いなさそうだ。
「なにその黒い画面?」
気が付くと轟さんの顔が俺の真横にあった。
近っ! 俺は動揺を抑えるのに必死だった。
「……気にしないで、この黒い画面は、ネット上のことなら何でも調べることができる便利なアプリなんだ」
「へーそうなんだ、そんなのがあるんだね」
嘘です。そんな都合のいいアプリはありません。
いけないコマンドでゴニョゴニョするのは犯罪です。よい子は絶対に真似しないでね!
証拠をスクショっと。
「ねえ、轟さん、この書き込み消すこともできるけど、どうする?」
「え、そんなことできるの?」
「うん」
轟さんの表情が少し明るくなった。
「でも、消してもまた書き込むよ、だから俺としては消させる方がいいと思うんだけど、轟さんはどう思う?」
「うん……私もできたらその方が、嬉しいけど……」
そりゃそうだよな。
「ねえ轟さん、出しゃばった真似してもいい? 俺が話つけてもいい?」
「え……流石にそこまでしてもらうのは悪いよ」
「でも、これを女の子1人で、ましてや当人が解決するのは無理だよ、変な言いがかりつけてきたとか言って、余計にエスカレートすると思う」
「……でも」
「あのさ、俺は辛かった時に、糸車さんの存在に結構助けられたんだ。だから今度は俺が助けたい」
「……ツナっち」
「んで、出来れば、香山先輩と話す時は彼氏って事にしたいんだけど、いいかな?」
「え……」頬を赤らめて驚く轟さん。
「だってその方が分かりやすいでしょ? 俺の彼女に何してくれてんの的な大義名分も出来るし」
「だけど……」
轟さんの表情が曇る。流石に調子に乗りすぎたか?
「あ、ごめんさすがに迷惑だよね。別の方法考えるよ」
「いいよ……」
伏し目がちに、もじもじしながら答える轟さん。
「彼氏でいいよ」
……また、ドクンと胸の鼓動が大きく跳ね上がった。『彼氏でいいよ』超破壊力のある言葉だ。
「でも無茶しないでね」
言葉とは裏腹に轟さんは少し安心したかのような表情を浮かべた。
「うん分かった。じゃ、そろそろご飯にしようよ、今日は俺が作るからさ」
「ちょっと待って、ツナっち」
「ん?」
「……練習しよ……」
声が小さくて聞き取れなかった。
「え、なに?」
「恋人の練習……」
ん……今、恋人の練習って聞こえだけど……。
俺がボッーしてると、轟さんは俺の顔を両手で挟み、
「恋人の練習しよ!」
今度はハッキリと聞こえた。
「恋人の練習って……何を?」
「な……名前で呼び合うの」
な……名前で呼び合うですと!
「
もちろん知ってますとも! 可愛いのは顔だけじゃなくて名前もって思ってたし!
「忽那は……
「う……うん」
なんかやばい……もう、顔が真っ赤になってきてるのがわかる。
「ありがとうね……壮一郎」
……またまた、ドクンと胸の鼓動が大きく跳ね上がった。今日、俺の心臓は忙しい。
「ど……どういたしまして、い……愛依」
言った! ついに言った!
「もう一回言って、壮一郎」
な……なんだって。
俺が照れながらもじもじしてると、
「もう一回!」
頬を赤く染めて、ほっぺをぷーっと膨らませる愛依。
「愛依……」
「もう一回!」
「えええ……」
「何よ、恋人のフリするって言ったのは壮一郎だよ! これぐらいで照れてたら恋人じゃないよ」
「……愛依の仰る通りで」
この後、俺たちはしばらく、お互いの名前を呼び合った。
顔から火が出るかと思った。
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