第30話 嵐の余波
「
「なあ忽那、サインもらっといてーや!」
「ていうか俺も忽那と一緒に住みたいんやけど!」
「
「羨ましい! 変わってくれ!」
「忽那、俺ら親友やんな!」
「今日から毎日、お前ん
クラスの男子たちが群がり、1限目が始まるまで、ずっとこの調子だった。現金な奴らだ。
でも、ちょっと優越感に浸っている俺は、案外人の事を言えないのかもしれない。
その後の休み時間も同じ状況が続いた。謎に親友が増えてミッシーがいない寂しさは紛らわすことができたけど、これじゃない感が満載だった。
——そして昼休み、ついに恐れていた第三波が押し寄せてきた。
「
満面の笑みで俺を呼びつける
これまでも何度か体験した、笑顔の威圧ってやつだ。
何人たりともこの笑顔の威圧には
恐ろしい……いや、でも、今回のこれは完全に何かのとばっちりだからね。
——俺たちは昼食も取らずに中庭のベンチに移動した。ここのベンチは案外人通りが少なく、話すにはもってこいだ。
「壮一郎、もう分かってると思うけど、今朝のはどういうこと?」
笑顔の威圧を崩さない愛依……なんだったら素直に怒ってくれた方が楽かもしれない。いやダメか、今回の件に関して俺は無実なんだから。
「俺にも何の事だか……さっぱり」
とりあえず無実を主張した。
すると愛依の眉が一瞬ピクッとし、
「そういうことじゃないの。
なんで、ひとり暮らしって言っちゃうかな?
同居人がいるって言えば良かったんじゃないのかな?」
俺の対応のミスを指摘された。
しかしそれは俺も考えた。
その上での結論だったんだけど……、
「でもさぁ、それはそれで、後々面倒くさくならない? 一緒に住んでるの愛依だし……」
「もう既に面倒くさい事になっていると思うんだけど?」
軽く論破された。
「申し訳ない……」
ここは素直に謝った。
「まあ、言っちゃったもんは仕方ないけど」
「面目ない」
いつもながら何も言い返せなかった。
「放課後……ちゃんと断ってよ?」
「はい……それは勿論」
これに関しては言われるまでもなく、そうするつもりだった。
いくらアイドルだからって、面識もない人をいきなり家に泊めるのは抵抗がある。
「財部先輩……
そう、それに牧野さんの紹介だってことは何かの事件に巻き込まれている可能性だってある。
今の俺にとって最優先は愛依だ。
わざわざ火中の栗を拾って、愛依の身を危険に晒すわけにはいかない。
あれ? ていうか愛依、牧野さんの事を知ってる風な口ぶりだったけど、話したことあったっけ?
未央の時にちょっと名前が出た程度だった思うんだけど。
「壮一郎、お昼行こ」
「あ、うん」
一通り話し終わると、いつもの愛依に戻っていた。
高校入学以来、はじめての誰かとの昼食。
それが愛依だなんて!
彼女だなんて感激だ!
俺は完全に舞い上がってしまい、すっかり愛依と牧野さんの関係のことを忘れてしまった。
放課後——————
財部先輩が教室に来るのが分かっているせいか、クラスの連中の大半が、教室に残っていた。
心なしか皆んなソワソワしている。
そして、そんな事をおくびにもかけず、財部先輩が教室にやってきた。
「やーっ、壮一郎、んじゃ行こうか」
相変わらず軽いノリだ、そして可愛い……断られるだなんて
……だけど、いくら財部先輩が可愛くたって、断らなければならない。
それがケジメだ。
「財部先輩、その件なんですけど」
「なに? 早く行こうよ?」
「無理です。お断りさせてください」
「え、なんで? あーしと一緒に住むのが嫌なん?」
嫌か嫌じゃないかの二択なら、もちろん嫌じゃない。
だけど、いま言いたいのはそういうことじゃない。
「俺、彼女がいるんです」
俺には愛依がいる。
「俺の彼女です」
俺は愛依の両肩をもち、財部先輩に紹介した。
「はじめまして先輩、
愛依はやや緊張気味に財部先輩に挨拶した。
「あっそう、轟ちゃん、ごめんね、彼氏と彼ん
あれ?
全然思った反応と違った。
「ダメですよそんなの! “はい分かりました”って言えるわけないじゃないですか」
愛依は少し怒り気味に食い下がった。
「あーっ、轟ちゃん、大丈夫だよ、彼、私のタイプじゃないし、そういう目で見てないし」
頭の後ろを掻き、明後日の方向を見て面倒くさそうに答える財部先輩。
なんか俺……無駄に傷つけられてない? 気のせい?
「いや、そういう問題じゃなくて、若い男女が一つ屋根の下で暮らすってのは何かと問題があるじゃないですか?」
問題あるよね。
俺……いつまで理性がもつか、自信ないもん。
「じゃぁ轟ちゃんも一緒に住めばいいやん?
彼、一人暮らしなんやろ?」
え……と。
「そ、そ、そ、そういう問題じゃなくて、分かってます? 私の言いたいこと。
高校生の男女がひとつ屋根の下で暮らすこと事態が問題ですよね?」
愛依……なんか盛大にブーメランだけど、そんなこと俺に突っ込めるはずもなかった。
「うーん」
目を閉じて頭の後ろを掻く、財部先輩、そして……、
「マジで困ってんの、お願い……あんたの彼しか頼られへんねん」
財部先輩はこれまでにない真剣な声色で話し、深々と愛依に頭を下げた。
これには俺も愛依も驚いた。
やっぱり何か、のっぴきならない事情があるんだな。
……そして、頭を下げる財部先輩に騒つく教室。
「分かりました、とりあえず他の場所で、詳しいお話を聞かせてください」
愛依が仕切り、俺たちは場所を移すことにした。
***
「ねえ、とりあえず、壮一郎ん
しきりに俺ん
普通こんな場合、カフェやファミレスの方が話しやすいと思うのだけど……財部先輩は俺の部屋にこだわりでもあるのだろうか?
こだわり……いや違うな……教室でも詳しいことを話さなかった。
俺の家じゃないと話せない理由があるのか?
……牧野さんの紹介で、アイドルで、俺ん
そうか……何となく分かった。
「分かりました、行きましょう俺ん
「むっ」
勝手に決めたもんだから、愛依に思いっきり睨まれた。
ごめん愛依。
でも、俺の予想が正しければ、財部先輩の安全を考慮してその方が都合がいい。
わざわざ火中の栗を拾う必要はないと思っていたけど、牧野さんが俺を紹介した時点で、俺は巻き込まれていたんだ。
そしてこれは俺向きの案件だ。
……おそらく財部先輩はストーカー被害に遭っている。しかも犯人はサイバー攻撃についても詳しいやつだ。
取り越し苦労ならそれでいい。
でも、俺の予想が正しければ、俺ん家で話すのが適切だ。
ある意味、俺ん家はサイバー攻撃に対して一番安全な場所なのだから。
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