第31話 3大美少女

 憶測でしかないが、事情が事情だ。

 俺たちは早速、俺ん家に向かうことにした。


 すると、校門付近で……、

「あれ、珍しい組み合わせやね」

「みっ……未央みおちゃん」

 ばったり未央と会った。


 未央ちゃん?

 財部たからべ先輩と未央は知り合いなのか?

 

「いよっ! 壮一郎そういちろう愛依いといちゃん……んで、めっちゃ久しぶりやね優梨ゆうり

 さっき迄のフリーダムな振る舞いはどこへ行ってしまったのか……突然もじもじする財部先輩。

 もしかして未央のことが苦手なのか?

 ていうか、なんかデジャヴ!


「ひ、久しぶり……未央ちゃん」

 やっぱ財部先輩は、なんだかバツが悪そうだ。


「お2人は、お知り合いですか?」 

 そして俺の知りたいことを、すかさず探る愛依。


「うん、ウチと優梨は幼馴染やよ」

 幼馴染……意外な人と意外な人の意外な繋がりだ。

 なんて感心していると、次第に周りがざわざわしはじめた。


「おい貞方さだかたさんと、財部たからべさんと、1年のとどろきさんが一緒にいるぞ」

「え、財部さん来てるの?」

「マジか! 写真撮ったらあかんかな?」

「うお! やべ、3大美少女勢揃いやん!」

「3人とも超可愛いーっ!」


 愛依は財部先輩に“はじめまして”と挨拶していた。

 恐らく3人が一堂に会するのは、初めてなのだろう。今まで揃ったことがない、我が校3大美少女の勢揃い。

 3人に男子からの熱い視線が向けられるのも、うなずける。


「ていうか、一緒にいるあいつ誰?」

「ほら、例の香山かやまと揉めてた1年やん」

「あーっ、あいつ轟さんと付き合ってるらしいで」

「うそん貞方先輩と付き合ってるって聞いたで」

「それより、なんか今日、財部が、あいつん家に住むとか言うてたらしいで」

「うお、マジか」

「ゆるさへん!」


 そして、3人とは違う意味で、男子達が俺に熱い視線を向けるのも、うなずける。


「……なんか、めっちゃ見られてるね」

「……見られてるよね」

「……見られてますね」


 流石に3人ともこの視線は気になるようだ。

「とりあえず、移動しよっか」

 満場一致で未央の提案に乗った。



 ——で、早速俺ん家へ……

 最初からそのつもりだったけど……未央まで付いてくるのは想定外だ。


「壮一郎の家……はじめてやけど……いい匂いやね!」

 いい匂い……そのいい匂いは愛依です。って未央は絶対分かってて言ってるよね。


「めっちゃ綺麗にしてるね」

 部屋を物色し始める財部先輩。


「俺、荷物置いて来るんで、とりあえず、そこのソファーにでも座っててください」

 またクローゼットで一悶着起こしたくない……俺は2人に、リビングでくつろいでもらうように促した。


「未央先輩も財部先輩もコーヒーでいいですか?」

「「あ、おかまいなく」」


 ナイス、愛依。

 これで2人がリビングに止まってくれる可能性がぐっと高まっただろう。


 そして部屋に荷物を置いて、リビングに戻ると、財部先輩が未央に頭を下げていた。


「未央ちゃんごめん……あーし、あいつがあんな奴とは知らんかってん」

「その事はもういいって、気にせんといて」


 あいつ? あいつって……もしかして楯無たてなしのことか。


「でも、あーしが紹介せんかったら……」

「そんなん気にされて、幼馴染とギクシャクする方がウチは嫌やわ」

「未央ちゃん……」

「本当に何もなかったんよ、ねー壮一郎っ」

 うん、絶対この話、振られると思った。


「なんで……壮一郎は関係ないんちゃうん?」

 ニヤニヤする未央。


「関係大有りやよ、ウチのこと体張って守ってくれたんは壮一郎やよ」

「えっ」

 俺と未央を顔を交互に見て驚く財部先輩。


「ほんまなん?」

 まあまあの近さまで詰め寄って来て、俺に問いかける財部先輩。

 可愛い子達って、そんなことされると男が困るって、何故理解していないんだろう。


「まあ……一応」

「そっか……」

 財部先輩は、ソファーにへたり込んだ。かと思うと、今度は両手で俺の手を取り……、

「ありがとう……ほんま、ありがとうな」

 涙ながらに訴えた。


 そしてその様子を目撃した愛依が……、

「壮一郎……何やってるのかな?」

 笑顔の威圧をかけて来た。

 今日の俺は完全無実なのに、こんなんばっかりだ。

 その様子を見て未央が、声を殺して笑っていた。



 ***



「で、今日は何の集まりやったん?」

 何故かこの場を仕切る未央。直接の関係者ではないが、俺達と財部先輩の数少ない、いや、唯一の共通の知り合いだ。

 このまま仕切ってもらったほうが、案外話がスムーズかも知れない。


「あーし、しばらく壮一郎の家に住むんよ」

「へ……」

 財部先輩の言葉に固まる未央。

 未央の反応は正しい。理由を言わないとこんなもんだ。


 そういえばそうだった。

 理由を話してもらうには、ひと作業必要だった。


「財部先輩、スマホ借りても良いです?」

「え……スマホ」

「ちょっと調べ物があるので」


 俺は財部先輩からスマホを受け取り、我が家のネットワークに接続した。


「少し、待ってくださいね」

 俺は自室のマシンで、ネットワーク内にある財部先輩のスマホをスキャンした。

 思った通り、外部に通信している挙動不審なモジュールが組み込まれていた。


 送信先は……海外のサーバーだった。

 これは犯人が身元を偽装するために経由しているだけだろう。

 だが、俺なら特定できる。

 何重にも張り巡らされた偽装を取っ払い、俺は

ひとつのIPアドレスを特定した。

 

 そして、その時……うちのネットワークに侵入を試みる、不審なログを発見した。


 犯人はもう、財部先輩がこの家にいることを特定しているのか……ガチでサイコなやつだな。

 だが、我が家のネットワークには侵入できない。させない。

 逆にそのログから犯人の痕跡を辿ると、先ほどと同じIPアドレスにたどり着いた。


 俺はIPアドレス迄の経路とハッキングの事実と我が家への攻撃のログをまとめて、牧野さんにメールしておいた。


 まあ、後は警察がよしなにやってくれるだろう。

 これが、俺の家に住み込む理由なら一件落着だ。

 もちろん、財部先輩のスマホに組み込まれたモジュールも削除しておいた。

 これで盗聴の心配はないだろう。


 ——そしてリビングに戻ると、なにやら3人が盛り上がっていた……というより、愛依の顔が真っ赤だけど……、

 何事!


「お待たせしました」

「あ、壮一郎いいところに帰って来たやん」

 全力で悪い顔をしている未央。


「な……何事ですか?」

「愛依ちゃんに、2人の馴れ初めを聞いていたの」

 俺達の馴れ初め……。


「人目もはばからずに、告白したらしいね」

 あれ……愛依話しちゃったの?

 愛依を見るとごめんって顔をしている。

 何か弱みでも握られた?


「2人のあま〜い話、もっと聞きたいな」

 

 一仕事終えて帰って来た俺を待っていたのは、冷やかしの洗礼だった。


 愛依が何の弱みを握られているのかは、知らないけど、未央の冷やかしに悶え死にしそうになる俺と愛依だった。


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