第32話 一件落着?

 未央みおの冷やかしが一通り落ち着いたところで、俺は本題を切り出した。


財部たからべ先輩、もしかして盗聴被害にあっていませんか?」

「「「えっ」」」


 俺の言葉に、驚く3人。

 特に財部先輩は“なんで知ってるの?”って感じの顔をしていた。


「そ……そうなんやけど……なんで、そう思ったん?」

 やっぱりか……俺は財部先輩のスマホに、細工が施されていた事を正直に話した。


「財部先輩のスマホを調べさせてもらったら、盗聴用のモジュールが仕込まれていたので、もしかして、そうじゃないかな……って思って」


 すると……、

「え、ちょっと待って……あーしのスマホ、そんなアプリ入ってないよ? ていうか勝手にスマホ見たん?」

 さっき調べるから貸してって言ったはずだけど……半ギレ気味に詰め寄られた。


壮一郎そういちろう……女の子のスマホ勝手に見るとか最低」

 ジト目で見つめる未央。未央も聞いてたよね?


「私も勝手に人のスマホを見るのはどうかと思う……」

 愛依いといにも冷たい目で見られた。


「いや、見てないですよ! ネットワークに接続してちょっとスマホ内部を調べただけです」


「え……何それ? 見るよりタチ悪いやん」

「ていうことは、この家のネットにスマホを接続したら壮一郎に全部調べられるってこと?」

 3人にドン引きされた。

 

 ……もしかして俺……やってしまったのか?

 いくら財部先輩のためとは言え、もっときっちり説明しおくべきだった。


 とりあえず、俺は財部先輩に謝罪した。

 これからは気をつけないと。



 ——3人はソファーに座り、俺はその前に正座させられた。

 そして我が校の3大美少女に冷たい視線で見下ろされる。

 ……この状況、人によっては完全にご褒美だよね?

 ……ちなみに俺も嫌ではない。

 そして、この位置だと、スカートの丈の短い財部先輩のパンツが微妙に見えそうだ。

 いやいや、そんな場合じゃないな。

 結果報告をしないと。


「とりあえず盗聴モジュールは削除しておいたので、もう盗聴の心配はないと思います」

 報告はしたけど、財部先輩は理解していないって感じの表情だった。


「あーし、そんなアプリ知らないんだけど……その盗聴なんちゃらって何なの? なんでそんなのが、あーしのスマホに入ってたの?」

「アプリじゃないんですよ、そういう機能を追加されたっていうか……犯人は恐らくネットワークから先輩のスマホに細工したんだと思います」

「ネットワーク?」

「パスワードのない公共インターネットか、自宅が攻撃を受けたかの、どちらかだと思います」

「「「怖っ!」」」


 インターネットは便利だけど、セキュリティ意識を高くもたないと、悪意の第三者からの攻撃に無防備になってしまう。


「んーっ、何か良くわかんないな……まあ、その辺はまた今度教えて……」

「分かりました」

 先輩は芸能人だしこの辺はちゃんとレクチャーしてあげないと、また同じ被害にあいそうだ。

 

「えーとね、少し前から、盗聴されてたのは知ってたんよ……なんかファンレターにそんな感じのが混じってたから……でも、スマホとは思ってなかった」

 うん? スマホが盗聴されてること知らなかったの?

 俺はてっきり、スマホに仕掛けられているのを知っているから、すぐに事情を話さないのだと思っていた。

 盗聴されつつもスマホを手放さないのは、なにか特別な事情があっての事だと思っていた。

 純粋に気付いていなかったのか。


「あーしさ、ストーカー被害に遭ってるんよ……まあ、直接的に何かされたとかじゃないんやけどね」

 驚く未央と愛依、だが予測の範囲だ。


「警察に相談しても、事件になってないからって……とりあってくれなくてさ」

 そうなんだよな、ニュースとかでも見るけど、警察は事件にならないと、最低限の事しか出来ないんだよな。


「そしたら牧野って人が、壮一郎を頼れって」

 なるほど……牧野さんは俺なら証拠を掴むと思ったのか。そして俺は牧野さんの目論見通り動いたってわけか。


「財部先輩……証拠はもう警察に送ったので、犯人が捕まるのは時間の問題だと思います」


「へ」


 今日一番の驚きを見せる財部先輩。

「そ……それマジ?」


「はい、恐らく近日中に警察から連絡があると思いますよ」

「え……なんで?」


「いや、だからさっき先輩のスマホを調べて、犯人にたどり着きました」


 ポカーンとする3人。

「あーし、ちょっと意味が分からないんだけど」

「警察が動いてくれる状況を作ったってことです」


 財部先輩は少し放心していた。

「ほんまなん?」

「ほんまです」

 そして、

「ありがとう壮一郎!」

 ソファーの上から飛びついて来てハグされた。

 この勢いで俺は押し倒される格好になってしまった。


「な、な、な、な何してるんですか!」

 このハグに愛依が取り乱した。


「あ……ごめんごめん、自分ら付き合ってたんやね」

 昨日までの俺なら、財部先輩めっちゃいい匂い、超ラッキー! だとか思っていたかもしれないが、今日は違った。

 突如訪れた彼女の前でのハプニングに、後で怒られないかと、肝を冷やすばかりだ。


「もし、財部先輩がストーカー被害のことで俺ん家に住むって言ってたんなら、もうその理由はなくなりましたよ」

「そ……そっか、ほんま、ありがとう」

 

 とりあえず、一件落着だ。

 俺と愛依のイチャラブナイトは守られた。


 

 ***



「じゃぁ、行ってくる」

「いってらっしゃい、気をつけてね」


 そんなに遅い時間ではないけど、もう外は真っ暗だし、俺は未央と財部先輩を送ることにした。


 財部先輩は未央の家から100メートルほど先に行ったところにあるマンションで、俺ともご近所さんだった。


「壮一郎って、轟ちゃんと同棲してたんやね」

「ええ……まあ」

「じゃぁ、今日……困ったよね?」

「……正直」

「言ってくれたらよかったのに」

「いや、流石に教室じゃ言えないですよ……野次馬もいっぱいいたし」

「そんなの気にしなくていいのに」

「それは、優梨だけやよ。そんなん学校にバレたら停学とか退学もありえるんやよ」

「え————っ、そうなん?」

「そうよ」

 仲のいい2人だ。

 確か幼馴染だったよな……なんか、いいもんだな。

 俺も幼馴染いたよな。

 子どもの頃に引っ越して、それっきりだけど……元気してるかな。


「まあ、犯人の痕跡はわかりましたけど、まだ捕まったワケじゃないので、用心してくださいね」

「うん、用心するよ」

 そんな話をしていた矢先。


「優梨!」

 財部先輩を大声で呼びつける男が現れた、こいつもしかしてストーカー?


「優梨……知り合い?」

「知らない」

 2人が知らないってことはストーカーの可能性が高いな。

 まずったな……せめて今日は泊めるべきだったかもしれない。


「誰やねん、その男!」

 目がイってる……それに、

 男は手にナイフを握りしめていた。

 これは完全にヤバいやつだ。

 とりあえず、財部先輩から注意を逸らさないと。


「彼氏だよ、このストーカー野郎」

「あん?」

 男の注意が俺のほうに向いた。

 でも……、

 怖い……マジ怖い。

 あのナイフで切りつけられたら俺……どうしたらいいの?


「おい、お前……ふざけたこと言ってるとえぐっちゃうぞ」


 格好つけたはいいが、絶体絶命のピンチに陥ってしまった。


 えーと、今更、嘘ですとか通じないよね?

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