第5話 私たち付き合ってるの
いつもより随分早く起きたのに、色々あって結局、いつもと同じ時間に慌ただしく学校へ向かう俺。
いつもと違うのは、隣に
これは非常に大きな違いだ。
「ねえ
女子と一緒に登校する。恐らく同世代、男子全ての夢だと思う。俺は今、その夢を叶えようとしている。
だが、クラスで、いやむしろ学校で浮いている俺なんかが、愛依と肩を並べて登校したら、変な噂になって彼女に迷惑を掛けないか心配だ。
「なんで? 遅刻しちゃうよ?」
あっけらかんと答える愛依。
「いや、ほら、俺なんかと噂になったら……迷惑だろ?」
気のせいか、ちょっとムッしたように見える愛依。
「私そんな事気にしないし」
「な……なら良いんだけどさ」
更に愛依は続けた。
「それに
私の彼氏……なんて破壊力のある言葉なんだ。フリじゃなくていつか本当に言われてみたい。
「でも、それは
「その時だけじゃ自然にならないでしょ? だから昨日も散々練習したんだよね?」
確かに名前で呼び合うだけでも、たじたじだった。いきなり恋人のフリだと、ボロが出てしまう可能性は高い。
「それとも今更怖気付いたの? 結局私と噂になるのが嫌なの?」
めっちゃ睨まれた。
「滅相もございません! むしろ光栄って言うか、嬉しいって言うか……」
愛依が俺の唇に指を当て、
「だったらぐだぐだ言わない」
言葉を遮った。
愛依の眩しい笑顔に翻弄されっぱなしの俺だった。
「ねえ
「買い物? 別にいいけど何で?」
「デートよデート」
デ、デ、デ、デ、デ、デ、デ……デート!
デートって言ったら恋人同士が公衆の面前でイチャラブしても許される、特別な儀式だよね?
グハッ!……、
やばい、またショック死するところだった。つーか、デートに行くのにこんな格好でいいの? 制服だよ? か……髪だって寝癖直しただけだし……お金も下ろしてこないとだよね。今月の残高いくらあった?
「ちょっと壮一郎! 立ち止まらないでよ!」
「あ……」
愛依の突然の提案に、歩くことを忘れて思考に
「壮一郎のせいで、大きな声で独り言喋ってる変な子になっちゃったじゃない、もう!」
大きな声で独り言……変な子……「ぷっ」申し訳ないど、普段とのキャラの違いに思わず吹いてしまった。
「あ、酷い! 笑い事じゃないんだからね」
「ごめん、ごめん」
朝から和む。
「ちょっと、足りないものとか買いたいの。せっかくミナミに住んでるんだし、一緒にお出かけしよ」
「う……うん」
ああ、なんか本当に付き合ってるみたいじゃん。もう俺、いつ死んでも悔いはないよ。
いや、今の嘘、それはデートしてからだ。
——学校に近付き、生徒達が増えるにしたがって、俺は周りの視線が気になって仕方がなかった。
「愛依、結構見られてるよ」愛依に耳打ちしても、
「気にしなーい、気にしない」と愛依は意に介していないようだ。
愛依の隣にいると、もっと優越感に浸れるものだと思っていたけど、あまかった。学年ナンバーワン美少女の隣にいるプレッシャーは半端ない。
そんな中、クラスの女子が愛依に声をかけてきた。
「おはよう、愛依」
「おはよう、
彼女は
青戸もなかなかの美少女で、愛依がいなければ、間違いなくクラスナンバーワンの美少女だ。ゆるふわボブに優しい顔立ち。なんか見ているだけでホワっとしてしまう。
「あれ? おはよう、クッシー」
クッシー? 誰? 俺? 俺のこと?
「おお、おはよう」とりあえず挨拶を返しておいた。
「二人が一緒なんて、珍しいね! むしろクッシーが誰かといるなんて珍しいね」
いつもミッシーと一緒だよ、ミッシーに謝れ。
そもそも誰だよクッシーって、俺は『くつな』だぞ。
「あ、その事なんだけど、雛」
「うん?」
「私たち、付き合ってるの」
え……。
世界が一瞬止まった気がした。
「はぁ——————————————っ? なにそれ? 聞いてないよ!」
心配するな青戸、俺も聞いていない。
「だって今言ったもん」
俺も今聞いた。
「いやいやいやいや、クッシーだよ? いつも1人でニヤニヤしてるの、愛依もキモいって言ってたやん」
えーと、そのカミングアウト、いま要る?
「キモいのも、一周回ってアリかなと思って」
キモいって言ってたの認めちゃうんだ……リアクションに困るわ!
「うわぁ……愛依、あんた趣味悪かったんやね」
青戸も愛依も可愛いからって何でも許されると思ってるのか? 許すけど。
「それは失礼だよ」
お……流石にそこ迄ではないってこと?
「私に」
もういいです……。
「まあ、いいや、なんかおめでとう」
良くねーよ! でも、ありがとう。フリだけど。
「ありがとう」
「じゃあ、2人の馴れ初めを聞かせてもらおうかな」
馴れ初めって何? ……うん?
その時、後ろから強烈な視線を感じた。
……あれは?
香山先輩が苦虫を噛み潰したような顔で、俺を睨んでいた。
怖っ! めっちゃ、メラメラしてるよ。
つーか、スマホをいじってるって事は……、
俺もスマホを取り出して、例の投稿者をチェックした。
やっぱりだ、
『新しい男キモオタ、男なら誰でもいいのかよ、やっぱビッチ』と投稿されていた。
あの野郎……今すぐ、ギタンギタンにしてやりたいけど、我慢だ。それに運動部の香山先輩相手に、帰宅部の俺じゃ逆にギタンギタンにされるのがオチだ。
「クッシー、なに話し中にスマホ見てんのよ、失礼だぞ」
「あ、ごめん」反射的に謝ってしまったけど、俺も散々失礼な事、言われてたよね?
まあ、香山先輩には昼休みにでも、話しつけに行くか……。
「クッシー、なに難しい顔してるの? 早く、馴れ初め教えてよ」
「え」
俺が話すの? SNSの
俺がもじもじしていると、
「壮一郎が、あまりにもしつこく、熱烈にアピールしてくるもんだから、ついね……」
「い、愛依……?」
二人の馴れ初めが
「えっ、それって押し負けたってこと! クッシーってそんなに情熱的だった? ていうか、あんたら、なにサラリと名前で呼び合ってるの……もしかして、結構前から隠れて付き合ってた?」
もちろん、そんなわけない。昨日の練習の成果だ。でも、後ろの香山先輩が悔しがってる。だから俺は、
「そ、そうなんだよ、バレちゃったら仕方ないよね!」
愛依の肩を抱き寄せて思いっきり香山先輩に見せつけてやった。
「なあ、愛依」
愛依を見ると顔を真っ赤にしていた。さすがにこれは調子に乗りすぎた?
「壮一郎、そう言うのは二人っきりの時に……」
「ご……ごめん」
周りからも刺すような視線が……なんだろう、やらかした感でいっぱいだ。
「あー……なんか、ご馳走様」
青戸は呆れ顔だった。
で、肝心の香山先輩は……もの凄い勢いで書き込みしている。
なに書いてやがんだ……早速、書き込みをチェックすると、とても許しがたい内容が書き込まれてあった。
あの野郎……こっちは穏便に済ませようと我慢していたのに。
香山先輩は口にするのも躊躇するような汚い言葉で、愛依をこき下ろしていた。
もう我慢できない。
「あれ? クッシーどこ行くの?」
「壮一郎?」
俺は、ぶちぎれてそのまま香山先輩の元へ向かった。
「ねえ、香山先輩」
「ああ? 誰だテメー?」
おぅ……勢いで来たものの、やっぱちょっと怖い。
でも、
「少し、黙ろうか」
愛依のためにも、ここは逃げられない。
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