第24話 それが親友

壮一郎そういちろうどうだった?」

 階段の踊り場から降りると愛依いといが待っていた。


「ミッシーはやっぱ幽霊じゃなかったよ」

「そうみたいだね」

 そうみたい? 愛依の方も何か収穫があったのか。

「先生に聞いたよ、ミッシー君、やっぱりうちの生徒だった」

「そっか」

 本人が言っていた通り、ちゃんと学校に籍はあるんだな。でも、これだけ休んだら留年が心配だ……。


「ねえ、どっちから話す?」

 俺はこのまま早退して、速攻でミッシーを探そうと思っていた。

 でも、情報は多い方がいいな。


「愛依の話から聞かせてくれる? 俺、早退するつもりなんだ」

「え……どこか具合でも悪いの?」

 心配そうに俺を見つめる愛依。なんかごめん。


「違うよ……ミッシーを探しに行く」

「ミッシー君を探しに……」


 ミッシーは、とある病院に入院していると言っていた。

 つまり簡単にミッシーを探せる。

 日本中のいや、世界中の病院のデータベースをハッキングして入院患者を検索すればいいだけのことだ。

 本気出す! 本気出して速攻で見つける!

「私もついていくよ」

「え」

 私もついて行く……なんて幸せを感じる台詞なんだ……嬉しいよ、俺は嬉しいよ愛依……でも、

「学校……サボる事になるけど……いいの?」

「うん、乗り掛かった船だし、私も気になるもん」

 本当は『ダメだよ愛依、君まで巻き込むわけにはいかない……ここは俺にまかせて』なんて格好つけて、愛依を説得するのが正解なんだろうけど、

「ありがとう、先生に言うと面倒だから、このままいくつもりだけど、いいかな?」

 俺はこの好意を素直に受け取った。

 どんな時でも愛依といたい。それだけだ。


「私もその方がいいと思う、でもひなにだけメッセージ送るね」

「了解!」


 そして俺達は頃合いを見計らって、通用口から学校を抜け出した。

 学校をサボるなんて初めてだ。

 悪いことしてないのに悪いことしてる気がして、ドキドキする。

 いや、サボるのは悪いことか。


 ——とりあえず自宅に戻る事にした。ミッシーを探すには自宅のマシンが必要だ。


 帰る道すがら、愛依の話を聞いた。


「ミッシー君、入学式の前日に交通事故にあったそうだよ」

「交通事故?」

「うん、怪我は大した事なかったらしいんだけど……それ以来ずっと目を覚ましていないって」

 あれ? 体に戻れるっていってたのに。

 むしろピンピンしてるって……。

「大した事ないのに、目を覚さないって、何なんだろうね……」

 ふむ、なんか厄介な事情があるんだろうな。


「まあ、それは本人に聞けばはっきりするよ、ちなみに、どこの病院に入院してるか聞かなかった?」

「一応聞いたけど……保護者の許可を取ってからじゃないと教えられないって」

 そりゃそうか。

「まあ、いいよ、この近辺の病院から探してみる」

「探すってどうやって?」

香山かやま先輩の時につかったアプリだよ」


 ——そんなわけで、自宅に戻った俺は、早速ミッシーの行方を探した。

 まず、市内の病院のデータベースをハッキング、そしてその中から三島祐司みしまゆうじを検索。

 さらに15歳から16歳からで絞り込む。


 ……流石に病院のセキュリティーは高く、一筋縄ではいかなかった。

 だが……国家機密にアクセスするよりは全然イージーだ。


 ……そういえば、あの時は焦ったな……気がついたらパトカーに取り囲まれたもんな。

 その後の取り調べもめっちゃ怖かったし、釈放されてからも平野さんに一晩中説教を食らったし……。


 よし、ヒットした。

 生年月日的に同学年だし、入院時期も一致している。


「愛依、わかったよ」

「本当?」

「う……うん、本当だよ」

 いつの間にか私服に着替えていた愛依。今日はデニムでカジュアルにキメていた。いつもの女子女子した格好もいいけど、パンツスタイルもいい!

「どこなの?」

「ここから、そう遠くないよ、地下鉄で二駅ぐらいかな」


 ——俺も着替えて、早速病院に向かった。

 病室も分かっていたから、そのまま病棟へ向かった。


 三島祐司……ここだ。


「ここだね」

「うん」

 ……緊張が高まってきた。いよいよミッシーとご対面だ。


 コンコン。


「失礼します」

 病室に入るとミッシーと謎の金髪美女がいた。


「あなた達は誰?」

 戸惑いながら俺達に声を掛ける金髪美女。

 ショートボブで、鼻筋の通った綺麗な顔立ち、眠たそうに見えるぐらいのパッチリ二重とタレ目が特徴的だ。

 

 誰? もしかして彼女? ってその前に俺達が名乗らなきゃか。

 

「あ、俺達はミッシー……いや三島君のクラスメイトで、俺は忽那くつなと言います」

「私はとどろきです」


 金髪美女はキョトンとしていた。

「クラスメイトって……中学の?」

「いえ、ナウです、高校です」

 金髪美女は驚いた様子だった。


「そ、そう、高校の先生から聞いたの?」

「いえ、違います、その辺は後で本人から聞いてください。ところで、お姉さんは?」

「私は、祐司の姉の祐実ゆみよ」

 うおっ……ミッシーのお姉さんか……姉弟揃って美形だなあ……。


「本人に聞くってどういう事? 祐司は半年以上も眠ったままなのよ?」

 ミッシー……家族に心配掛けっぱなしの馬鹿野郎だったのか……やっぱり込み入った事情がありそうだな。


「それも、本人に聞いて下さい。俺は約束を果たしに来ただけなんで」

 俺はミッシーの枕元にたって、胸ぐらを掴んだ。


「ちょっ、ちょっと」

 慌てて祐実さんが、止めに入ったが、愛依がそれを静止した。


「ミッシー! 俺だ! ツナだ! 

 約束通り来てやったぞ!

 早く目を覚ませ! 親友!」


 何の反応もなかった……あれ?

 これ、本当にヤバい病じゃね?

 不安が入り混じりつつも、もう一度ミッシーに声をかけた。


「おいミッシー、お前が起きないと俺はずっとヤバいやつ扱いされるんだぞ!

 お前が起きるかどうかで俺の高校生活が灰色になるかどうか掛かってんだぞ!

 さっさと起きてくれ!」


 ぶっちゃけてやった。

 それでもミッシーは反応がなかった。


 やばいよやばいよ……目が覚めないなんて聞いてないよ……。

 

「あなた、何してるの、やめて」

 祐実さんが肩を掴み、俺の暴挙を止めようとしたと同時に、ミッシーはうっすらと目を開け、力ない声で、

「速すぎるで、親友」

 と呟いた。


「祐司!」

 祐実さんはそのまま俺を押しのけ、ミッシーに抱きついた。


「……良かった……良かったよ」

 半年以上ぶりの姉弟の再会。

 俺たちがいるのにもかかわらず号泣し、喜ぶ祐実さん。

 俺も、もらい泣きしそうになった。

 

「ごめん……姉ちゃん、俺……」

 ミッシーも涙ながらに謝っていた。


 やっぱり俺は我慢できずに、もらい泣きしてしまった。

 愛依も、もらい泣きしていた。


 学校サボってでも来て良かった。



 ***



「ありがとうな、ツナ」

「親友だろ、気にすんな」

「約束通り俺……学校いくよ」

「ああ」

「轟さんも、来てくれてありがとう」

「どういたしまして、それより、はじめましてだね、ミッシー君」

「ああ……そうやったな」

 

 祐実さんは俺達の会話を不思議そうに聞いていた。


「じゃ、俺達は帰るよ、色々大変だろうけど、頑張れよ。んで、ちゃんと迷惑掛けた人に謝れよ」

「ああ、そうする」

「じゃぁな」


 ミッシーと別れの挨拶を交わし、帰ろうとしたタイミングで、

「忽那君」

「はい」

 祐実さんに呼び止められ……振り返った瞬間に抱きつかれてしまった。


「ありがとう……本当にありがとう」


 落ち着いたかと思っていたけど、祐実さんは涙をながらに、何度も何度もお礼の言葉をかけてくれた。

 愛依はすごく複雑な顔をしていたが、ミッシーはニヤニヤしていた。

 お礼のハグってやつだろうか……つーか、祐実さん……とてもいい匂いだった。

 こちらこそ、ありがとうございます!



 ***



「壮一郎……」

 病院を出た瞬間に、ジト目で話しかけてくる愛依。分かってます。さっきの件ですよね。


未央みお先輩の件といい、祐実さんの件といい、壮一郎は年上に弱いのかな?」

 年上か……確かに俺の周りには年上の女性が多い。でも、弱いといえば年上に限らず女性に弱い。


 その証拠に同い年の愛依にも、未羽みうちゃんにもタジタジだし。

「そんな事ないけど、さっきのは仕方なくない?」

「はぁ〜」

 大きなため息をつく愛依。

「まあ、ミッシー君のお姉さんだしね……半年以上も眠っていた弟を呼び覚ましてくれたんだから、ハグもしたくなるわよね」

 理解があって助かります。

「で、詳しく事情聞かなくてよかったの?」 

「ミッシーの事?」

「うん」

「いいんだよ、きっと凄い複雑な事情があるんだろうと思うし」

「それなら、余計に聞いてあげた方がよくない?」

「いや、聞かない。ミッシーが言ってくるまではね」


 覚醒できるのに半年も覚醒しなかったんだ。

 きっと覚醒したくなかった深い事情があるんだと思う。

 でも、俺からは聞かない。

 相談してくれるまで待つ。

 そしてミッシーが俺の力を必要とするなら全力で協力する。

 それが、親友だと思う。



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