第41話 プチオフ会

 街がクリスマス一色になった、ある週末。

 突然だけど、プチオフ会が行われることになった。


 当初、オフ会に参加することになっていたメンバーは、俺と愛依いといを含めて6人だったんだけど、そのうちの2人が、どうしても都合が悪くなってしまい、冬休みのオフ会は延期になってしまった。

 皆んなリアルで色んな事情を抱えているのだ。残念だけど致し方のないことだと思う。


 だけの昨日、残りのメンバーで雑談していると、後の2人が、神戸と奈良に住んでいることが分かった。

 それなら皆んな遠くないし、この週末ミナミで会わない? って話になって、あれよれよのまに、今日プチオフ会が行われる運びとなったのだ。


 今日会う2人のハンドルネームは『拳王けんおうさん』と『黒王こくおうさん』。

 どこか世紀末の雰囲気が漂うハンドルネームだけど、実際はどんな人なのだろうか。


「拳王さんと黒王さん、名前通り、いかつい男の人なのかな?」

 俺の問いかけに愛依はニヤリと笑った。


「甘いわね、壮一郎……きっと2人とも女の子よ」

 斜め上の予測を立ててきた。

 拳王に黒王だぞ?

 女の子がそんなハンドルネームつける?


「え……なんで、そう思うの?」

「化粧品の話よ」

「化粧品?」

「壮一郎はその系の話題で絡んでこないから分からないだろうけど、2人は結構絡んでくるのよ」

 そうだったのか……全く知らなかった。


「黒王さんのほうは日常的に使ってなさそうだったから、もしかしたら……」

「もしかしたら?」

 いやに勿体ぶる愛依。


「男の娘かも?」

 大胆予想だ。


 まあ、でも仮にそうだとしても、流石にオフ会に女装ではこないだろう。


 でも、拳王さんが女の子なら俺はちょっとマズいかもしれない。

 俺は拳王さんが男だと思って……その、色々と男の事情を相談していたのだ。

 もちろん相手が糸車さん、愛依だとは言っていない。予防線もはって、友達から相談を受けたていにはしている。


「どうしたの壮一郎そういちろう?」

「いや、なんでもないよ」

 ちょっとした動揺も見逃さない愛依。

 俺は愛依に大きな隠し事なんて絶対できないんだろうなと、改めて思った。


「壮一郎、私オフ会って初めてなんだけど、何するものなの?」

「俺も実は初めてなんだ……厳密には糸車さんが初めてだったんだけど、愛依はクラスメイトだったじゃん」

「それだけ?」

 不満そうな表情を浮かべる愛依。


「幼馴染だったし……」

「そうだね」

 平野ひらのさんに挨拶してから愛依は、幼馴染推しになった。

 幼馴染だったしを省略すると結構不機嫌になる。

 未央みおと話している時はなんかは特にそうだ。


「壮一郎……私、ドキドキしてきた」

「俺も……」

 なんて会話をしながら手を繋ぎ待ち合わせ場所に向かった。


 ——そして、待ち合わせ場所で待っていたのは……、


 2人の美少女だった。


「あの2人かな?」

 ひそひそ話しで聞いてくる愛依。

「とりあえず、ダイレクトメッセージしてみる」

 俺もひそひそ話しで返した。


 直接声をかける勇気のない俺は、SNSのダイレクトメッセージで本人か確認した。


 すると、2人の美少女がこっちを向き、微笑みかけてくれた。

 そして切り出してくれたのは拳王さんだった。

「糸ちゃんと、ツナっちと……黒王さん?」


「「「はい!」」」


「ちょ、皆んな一斉に返事したらあかん、誰が誰か分からんくなる」

 確かに。


「えーと、ツナっちは男やから君かな」

「は……はい」

 拳王さんは、肩ぐらいの長さの明るい髪で、少しきつめの目が特徴的だ。でも表情が穏やかだからか、キツイなんて印象は一切なかった。

 俺の見立てでは、胸は愛依の方が大きい。


「ん?」

 ヤバっ視線に気づかれた?

 なんて思ってると、


「友達はその後どない? 大丈夫なん?」

 のっけから触れられたくない話題に全力で触れられた。しかも満面の笑み。

 これは今、胸をガン見したお仕置き?

 それとも拳王さん……俺の事って気付いてる?


「友達って? ミッシー君?」

 そしてよりによって1番反応して欲しくない愛依に反応されてしまった。

「え……いや、違うよ、別になんでもないよ」

「そう?」

 疑いの眼差しを向ける愛依。


「あれ? 2人はリアルでも共通の友達おるん?」

「あ……私たち、実は幼馴染なんです」

 愛依の幼馴染アピールはオフ会でも健在だった。


「え———っ! ほんまかいな! 最初からリアル知ってたん? それとも偶然?」

「それは……」

 答えにくそうにしている愛依。 

 もしかして愛依……最初からこのアカウントも知ってたの?

「偶然です」

 あの間が何を物語るのか……今の俺には分からない。とりあえず今は触れないでいよう。


「それは凄い偶然やね! 運命の赤い糸で結ばれてるみたいやん!」

「そ……そうでしょうか」

 照れながらも上機嫌になる愛依。

 拳王さんのトークすごい。


「じゃぁツナっちの隣におるん彼女が糸ちゃんで、こっちの彼女が、黒王さん?」

「はい……糸車です」

「……黒王です」

 愛依も黒王さんもハンドルネームを名乗るのが少し照れ臭そうだった。


「そっか、もう分かってると思うけどウチは拳王、皆んなよろしく」

 でも拳王さんは全く恥ずかし気なそぶりを見せなかった。


「「「よろしくです」」」


「とりあえずさぁ、ちょっとハンドルネームで呼びあうん、人目がきになるやん? もしあれやったら、下の名前で呼びあえへん?」

 拳王さんからのまさかの提案に、コクリとうなずく愛依と黒王さん。


「じゃぁ、ちょっとお茶でも飲みながら自己紹介しようや」


 ——拳王さんの提案で、俺たちは近くのファーストフード店へ移動した。

 もしかして、拳王さん、愛依と黒王さんに気をつかったんじゃ?


 「じゃぁ、言い出しっぺやし、ウチから、ウチは直子なおこ、地元の制作会社でマークアップエンジニアのバイトしてるんよ」

 拳王さんは直子さん。なんで拳王だったんだろう。

 ていうかマークアップエンジニアだったら俺と同業だな。


「あ……あの、私、黒田くろだ さきです」

 黒王さんは、咲さん。

 多分黒田だから黒王になったんだよね?


「あ、咲ちゃん、下の名前だけでよかったんやで」

「ご、ごめんなさい」

 咲さんは、三つ編みを少し崩したような感じで髪を後ろにまとめていた。ゆるふわな感じと、うなじのセクシーさが相俟って、童顔なのにすごく大人っぽい。

 ちなみに眼鏡っ子で愛依よりも胸は大きい。

「……大学の1回生です」

 女子大生か……未央にも引けをとらないスタイルだ。


「愛依です。高校生です」

「壮一郎です。同じく高校生です」


 とりあえず、一通り挨拶が終わった。


「じゃぁ、カラオケ行こうよ」

 3人で顔を見合わせうなずいた。

 またまた、直子さんの提案で俺たちはカラオケに行くことになった。

 直子さんみたいな積極的な人がいないと、まだ待ち合わせ場所でうだうだしていたんだろうな〜と、簡単に想像できる。


 そしてその道すがら、

「壮一郎君」

「はい」

「発散させないとね!」

 ウィンクしながら意味深な言葉をかけられた。

 これはつまり……相談相手は俺だとバレてるってこと……だよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る