第7話 可愛いね
ハードな朝だった。もしかしたら
『人は思っているよりも他人に関心がない。人に興味を持ってもらうには余程のことをしなければならない』
親父がよく言っていたセリフだけど、まさにその通りの結果だった。自意識過剰だった……しかし、俺以外の関係者、愛依と青戸はクラスの連中から引っ張りだこだった。
つまり人によるってことだ。
「
「……うん」
クラスの男子が、羨ましそうに俺を見ている。
これは自意識過剰 ではない。
だって、愛依は学年ナンバーワン美少女なのだから。
「いいなぁ〜ツナ、また今度、馴れ初め教えてくれよ」
「うん、また今度な」
「同居人は残念だったけど、寂しさは解消されたな!」
「……そうだね」
「おっと、これ以上邪魔しちゃ悪いな、また明日な」
「また明日!」
実は、ミッシーには愛依と同棲している事は話していない。むしろ話せる訳がない。
ミッシーに嘘をつくのは心苦しかったのだが、糸車さんとは、会えなかったことにした。
「ごめん、お待たせ愛依」
「……ううん、いいの」
今朝の話しだと、この後はデートだ。楽しみで仕方がない。
——「ねえ壮一郎、私ちょっと怒ってるからね」
え……怒ってる? 今朝のことだよね? むしろ今朝以外絡んでないし。
「やっぱ、騒ぎになったの嫌だった?」
「騒ぎになったのは、私の為だし、書き込みも消えたし、それはいいんだよ」
じゃ、やっぱあれか、
「皆んなの前で彼氏宣言したこと?」
「もっと、怒るよ」
違ったようだ。刺すような冷たい視線で睨まれた。それでも可愛い愛依。
「彼氏の事は……ほら、お互い納得の上での事だし、雛にもそう言ったし、そこじゃないの」
口を尖らせて話すのも、やっぱ可愛い。思わず口元が
……ダメだダメだ、ニヤニヤしていると余計に怒られる。
「私が怒ってるのは、壮一郎が勝手な約束したり、ひとりだけ悪者になったことだよ……」
勝手な約束って、
「全裸土下座?」
「そっ、そうよ! それよ!」
愛依の顔が真っ赤になった。SNSでは、もの凄い下ネタぶっ込んで来るのに、リアルでは違うみたいだ。
「あと、なんで香山先輩に謝ったの? 書き込みは香山先輩だったんでしょ? なんで壮一郎が悪者になるの? 私、そこは納得してないよ」
愛依の言い分はもっともだ。被害者だし、納得出来ないのも当然だ。俺自身も納得してない。
でも……、
「……仕返しが怖かったからだよ」
穏便に済ませれて良かったと思っている。
「仕返し?」
「うん、俺に仕返してくるならいいんだけどね……でも万が一、矛先が愛依に向いたら、今日のことを一生後悔する」
「だからって、壮一郎が悪者になることないじゃない」
「いいんだよ愛依、問題はそこじゃないんだ。愛依を守る為に、悪者になる事が必要なら、俺はいつだって悪者になってやる。……俺は大丈夫だし、これは俺が望んだ結果だったんだよ」
「壮一郎……」
心なしか愛依の顔が赤くなったような気がした。
「なんで私にそこまでしてくれるの?」
なんでそこまでって……なんでだろ? やっぱ糸車さんだったから? 学年ナンバーワン美少女の愛依だから?
どっちも合っているような気がするし、どっちも間違えているような気もする。
「そうしたかったんだよ、愛依の力になりたいと思った……ただそれだけだよ」
「そっか……」
愛依の表情が穏やかになった。一応は納得してくれたみたいだ。
「壮一郎、買い物の約束覚えてる?」
「うん、もちろん!」
「……今日はやめとこっか」
な……なにぃぃぃっ!
「なんか、そんな気分じゃなくなっちゃった」
気分じゃなくなっちゃった……くっ、身から出たサビか。
「今日は、部屋でまったりしよ? 私、壮一郎の話、色々聞きたい」
え……、
「ダメ?」
上目遣いで俺を見つめる愛依。
「だ、だ、だ、ダメなわけないよ! 全然オッケーだよ」
そんな目で見つめられて断れる男がいるのなら見てみたい。
「じゃぁ、そうしよ」
「オッケー、オッケー!」
なんだろう……買い物デートよりドキドキするかもしれない。
「あっ! ダメだ!」
え……何がダメなの?
「スーパーに買い物行かなきゃ! 今朝、冷蔵庫の食材、結構使っちゃったし」
「あ……」
すっかり失念していた。
——そんなわけで、まったりの前に、俺たちはスーパーに買い物に行くことにした。
流石に制服は目立つってことで家に着替えに戻った。
「どう、壮一郎、似合う?」
昨日のお風呂上がりの時みたいに、髪を後ろでまとめてアップするスタイル。やっぱりうなじがセクシーだ。
そしてワンピースの上にデニムのジャケット。萌え袖がたまらない。
「あれ? 愛依って目、悪いの?」
「うん、コンタクト疲れるから、メガネにしちゃった。似合わない?」
似合わないなんてとんでもない。
「めちゃくちゃ似合ってるよ!」
「そう、ありがとう」
昨日は変装でメガネだと思っていたけど、違ったんだ。
学校では見られない愛依のメガネ姿。やっぱり俺は幸せだ。何故なら俺は、メガネ大好きっ子だからだ。
「愛依……」
「うん?」
「その……めっちゃ可愛いよ」
メガネが気になり過ぎて『似合う?』に対して返答するのを忘れていた。
「い、い、い、いきなり何いってんの!」
愛依が顔を真っ赤にして照れた。
「な……何ってその」
あ……愛依が照れた理由が分かって、俺も赤面してきた。
このタイミングで『めっちゃ可愛いよ』は服じゃなくて愛依自身を指すよね……確かに愛依はめっちゃ可愛いけど、面と向かってそういうのは照れる。
「……ありがと」
照れながらも精一杯の言葉を捻り出す愛依。
「……う、うん」
出かける前からこんなにもドキドキしていて、俺の心臓はもつのだろうか。
——俺の家から繁華街まではすぐ近くなのだけど、スーパーは繁華街と反対方向で少し歩かなければならない。自転車ならなんて事ない距離なのだけど、歩くにはちょっとしんどい距離だ。
でも、それは一人の場合だ。二人ならこの距離もお散歩デートみたいで、またいい。
「ねえ、壮一郎は何が食べたい?」
「ハンバーグかな」
「ハンバーグ?」
きょとんと俺を見つめる愛依。
「うん」
「なんか子どもみたい」
「えーそうかな、ハンバーグはソウルフードだよ」
「可愛いね」
……ドクンと胸の鼓動が大きく跳ね上がった。女の子に可愛いって言われたのなんて初めてだ。なんだこの気恥ずかしさというか……高揚感は。
「じゃぁ、今日は愛依さん特製ハンバーグを作ってあげるよ、楽しみにしてて」
やばい、ドキドキが止まらない。何でか分からないけど、体がどんどん熱くなってくる。
「う……うん」
俺は楽しみでしかたなかった。
もちろんハンバーグもだけど、これからの愛依との同棲生活が。
唯一の心配は、俺の心臓が止まってしまわないかだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます