第15話 エピローグのプロローグ

「「未央みお先輩!?」」

「やっ……おはよう」

 朝からまさかの展開第二弾。

 未央先輩がマンションの下で俺を待っていた。

「あはは……愛依いといちゃんと、壮一郎そういちろう、同棲してたんやね……」

 2人で出てきたことに未央先輩は驚いているようだが、俺も未央先輩が待っていたことに驚いている。

「あの、その、いえ、未央先輩……これはその」

 愛依いといもあたふたしている。

「いいよいいよ、まあ、そういう事なんやよね」

 そういう事……はたから見たらこの状況はやっぱり付き合ってるように見えるよね。

「壮一郎、話したいことがあったんだけど……また時間のある時に聞いてくれるかな?」

 いつになく真剣な表情の未央先輩。

「分かりました」

 断る理由なんてなかった。

「愛依ちゃんごめん、邪魔しちゃったね、ウチ行くわ」 

 足早に立ち去ろうとする未央先輩を、

「待ってください、未央先輩」

 愛依が止めた。

「どうしたん? 愛依ちゃん?」

「未央先輩、ごめんなさい。私、壮一郎から聞いちゃいました」

「え……聞いちゃいましたって?」

 少し戸惑う未央先輩。

「今日は徹夜でちょっとポンコツですけど、壮一郎、お貸しします」

 にゃぁ、眠れなかった事、バレてたのか……つーか、お貸ししますって、まるで彼女みたいじゃないか! まあ、皆んなの前ではそういう設定なんだけど……、

なんか、いい! もっと彼女の感じ出して!

「愛依ちゃん……」

 完全に戸惑う未央先輩。

「壮一郎もいいよね?」

 いいも悪いも、俺のために、気を使ってくれているのに。

「うん、ありがとう愛依」

 ありがとうしか言えないよ……愛依。

「じゃぁ壮一郎、学校でね」

「うん、学校で、気をつけてね愛依」

 未央先輩と一緒に、気丈に手を振る愛依を見送った。

「壮一郎……邪魔しちゃったね、ごめんね」

「全然ですよ」

 こんなしおらしい未央先輩見たことがない。

「歩きながら話そっか」

「はい……」


 愛依に話すまで、誰にも話さなかった未央先輩と俺の夏物語。

 夏は終わったけど、物語のエピローグが今、始まろうとしていた。



 ***



 話は俺と未央先輩の出会いの日までさかのる……あの日の夢の続きだ————


「け、結婚ってアホか!」

「親に向かってアホってなんやねん!」

「いや、アホやん! 壮一郎とは今日会ったばっかなんやよ?」

「丁度ええやん! 運命の出会いやん! 結婚ちゅーのは勢いや! そんなもんなんじゃ!」

「何が丁度ええんよ、運命なんよ、壮一郎とは付き合ってもないんやよ?」

「これから付き合ったらええやん!」

 俺を置いて、お風呂上がりの未央先輩とお父さんの口論が始まった。

 えーと……どうしよう。

「壮一郎、こっちおいで」

 オロオロする俺の様子を見かねてか、リトル未央先輩が助け舟を出してくれた。

「誰が、リトルお姉ちゃんやねん!」

 え、心読まれた? 怖っ!

「……そんなこと思ってないよ」

 俺はしれっと嘘をついた。

「アホ! そんなん顔見たらわかるんや、とぼけんでもええわ」

 この子もコテコテの関西弁だ。でも女の子だと随分印象が変わる。怖くない。むしろ可愛い。

「ウチは未羽みうや、これでも中三や、覚えときや」

 未羽ちゃんは、ショートボブでぱっちり二重でクリンクリンな瞳で未央先輩と同じく目元にホクロがある。

 スタイルは抜群。でも、未央先輩と比べると、まだまだ発展途上感は否めない。

「あんまり、じろじろ見んなや! この変態!」

 何だろう、初対面で年下なのに、この容赦のない感じ。まぁ確かにじろじろ見てたけど。

「ごめん……」

 一応謝っといた。

「見てたんか——い! ドン引きやわ!」

 え……カマかけられたの?

「でも、しゃーない、壮一郎は悪ない……悪いのはうちの美貌や! 罪作りな女やで」

 うん……確かに、可愛い。

 ぶっちぎりで可愛い。土下座してでも付き合いたいレベルだ。

「なんか、突っ込まんか————い、ウチがただのナルシストみたいになるやん!」

 め……めんどくせぇ。でも……、

「か……可愛いよ、マジめっちゃ可愛いよ! 俺が18歳ならプロポーズしてたまであるよ!」

 邪険に扱うことが出来ない俺。

「え……」

 頬を赤く染め、しおらしくなる未羽ちゃん。

「そ、そ、そ、そ、そんなお世辞……ウチに通用せえへんで!」

 お世辞じゃないけど、思いっきり通用しているように見える。

「いや……お世辞じゃないけどね」

「アホ! そんなんは本当に惚れてる女にしか言うたらあかん!」

 顔を真っ赤にしてご高説を垂れる未羽ちゃん。

 色んな意味で可愛い。

「壮一郎は姉ちゃんの恋人なんやろ?」

 本人が否定していたのに、なんで……?

「違うよ、先輩とは今日出逢ったばかりだよ」

「出逢って即付き合ったんか! 壮一郎なかなかやるな!」

 話を聞かない子だ。

「ああなると、しばらく終われへんよ」

 ん……何のこと?

「今何のことって思ったやろ?」

「え、いや……」

「ちょっとウチに夢中になり過ぎちゃうか? お姉ちゃんとパパのことやで」

 あ……そうだった。

「疲れるまで、とことんやりよるからね、それまでウチとちょっと話しよ」

「あ……うん、いいよ」

「やった」

 え……今、この子『やった』とか言った?

 もしかしてチョロイン?


「う、うん!」

 照れ臭さそうに咳払いをする未羽ちゃん。もしかして心の声が勝手に漏れた系?

「そ、壮一郎は何年なんや、お姉ちゃんと一緒の高校なんやろ」

「うん、先輩と同じ高校の一年生だよ」

「そ……そうか、1個しか違えへんねんやったらタメ語でも全然いいよな!」

「うん大丈夫だよ」

 さっきから普通にタメ語だと思うんだけど……まあ、いいけどさ。

「そのな、さっきパパと話してたPHPのことやけどな、よかったらウチに教えてくれへんか?」

 PHP……未羽ちゃんもプログラム興味あるのかな?

「別に、教えるのはいいけど、1日2日じゃ物にならないよ?」

「うちの作ったプログラム見てアドバイスしてぇや!」

 え……中3でプログラム作れるの? 凄くね?

「未羽ちゃんもう、プログラム作れるの?」

「うん……」

「すごいじゃん、教えるどころか俺が教えてもらわないとダメなんじゃない?」

「そ……そんなことない」

 急に照れ始めた未羽ちゃん。褒められるのに弱い系? やっぱチョロインの要素をもっているんだね。

「でも、自作でしょ? すごいよ!」

「す……凄くなんかない、まだパパに勝てへんし」

 まあ、お父さんが作っていたのは、バリバリ企業用のセキュリティーガチガチのやつだったしな……いきなりそのレベルは……。

「ウチ、大人に負けたくないねん、大人とも勝負したいねん」

 凄い熱意だ……、

 未羽ちゃんを見ていると、昔の自分とダブった。

「分かったよ、未羽ちゃん。とりあえずチャットのID交換しようか」

「本当か! ありがとう壮一郎!」

 未羽ちゃんは全身で喜びを表現してきた。

 つまり俺に抱きついてきたのだ。

「み……未羽ちゃん!?」

 未羽ちゃんも未央先輩に負けず劣らずいい匂いだ。それに、見た目よりもしっかりと胸の感触が……。


「壮一郎……」「おい……」

「げっ……お姉ちゃん、パパ?!」

 後ろを振り返ると未央先輩とお父さんが鬼の形相で俺を睨んでいた。

「壮一郎! なんで未羽に手を出してるの!」

「お前! 結婚相手は未央やいうたやろ! 未羽はやらん!」

「ち、違うよお姉ちゃん、パパ、未羽が壮一郎に大人にしてってお願いしただけで」

 え……なにその言い間違い……わざと?


「「はあ————————っ なんやて?」」

 そして未央先輩とお父さんの息がぴったり過ぎで怖かった。

 喧嘩するほど仲がいい。

 言い得て妙だった。

 だけど次々と投下される未羽ちゃんの誤爆爆弾発言に、俺の肩身はどんどん狭くなっていった。


 そして、未羽ちゃんの方に目をやると、俺にテヘペロをしていた。


 ……全部演技だったのか。

 女子中学生、怖っ!


 学年ナンバーワン美少女の妹は、チョロインと見せかけて、相当あざとい系の女子だった。

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