第26話 この関係の終わり

 どこへいくの……愛依いとい

 さ……さよならって何?


「こら! なに呆けてんねん壮一郎そういちろう!」

 愛依が出ていき、混乱する俺の胸ぐらを掴む、未羽みう

「早よ追いかけんかい! 何やってんねん、あほんだら!」


 そして未羽はその勢いで……、

 ゴツン「あ痛あっ!」

 俺にまさかの頭突きをくらわせた。


「どや! 気合い入ったか!」

「う……うん」

 確かに気合は入ったが……、


 めっちゃ痛かった……ていうか頭突きなんかされたの、生まれて初めてかもしれない。

 しかも年下の女の子だなんて……恐らくこの先もない貴重な体験だろう。


「んじゃ、行ってこい!」

「うん、行ってくる」

「おう、しっかりやりや!」


 未羽に気合を注入されて、我に返る事ができた。

 サンキュー未羽!


 って、原因も未羽だけど……、


 ……じゃないな、その考えがこの事態を招いたんだ。

 原因を自分以外に求めちゃダメだ。

 原因は俺だ。

 ごめん愛依、今行く!


 俺は猛ダッシュで愛依を追いかけた。


 ……その甲斐あって、遠目ではあるが、すぐに愛依を見つけることができた。


「愛依、待って!」

 駅の方へ向かう愛依。当然ダッシュで追い続ける俺。


「待ってよ愛依、誤解なんだ」

「待たない」

 追いついたのはいいものの、冷たくあしらう愛依。聞く耳持たぬって感じだ。


「誤解なんだ……話、聞いて欲しい!」

「聞かない」

 取りつく島もない。

 でも引くわけにはいかない。


「何処へ行くんだよ」

「帰る」

「帰るってどこへ?」

うちよ!」


 うち……、

 俺は手に入れたものが、全部崩れていくような感覚に陥った。


 愛依に立ち止まる様子はない。

 本当にこのまま、俺の元を去ってしまうのか?


 俺は呆然と立ち尽くしそうになった。


 ……でもダメだ……ここで立ち止まっちゃダメだ。

 ここで立ち止まったら全てが終わる。


「愛依!」

 俺は愛依に駆け寄り、腕を掴んだ。


「何よ、離して!」

「離さない、絶対離さない」

「大声出すよ」

「出してもいい、それでも俺は離さない」


 愛依は俺を睨んだ。

 俺も目を逸さなかった。


「家に帰るならそっちじゃない、愛依の家は、こっちだ!」

 俺は自分の家の方角を指差した。


 ……愛依の表情が崩れる。

「だったら、なんで……なんで私の断りもなしに他の女を部屋にあげたのよ……」

 泣きそうになるのを必死で堪える愛依。


「ごめん……ごめん愛依」

 俺には謝ることしかできなかった。


「なんでよ……誰なのよ……あの子は」


 ……未羽を連れて来たのは痛恨のミスだ。だけど俺は好奇の目に晒されるのが嫌だっただけで、下心があったわけじゃない。

 正直に答えよう。


「彼女は未央の妹の未羽、校門の前で話していたんだけど、変に目立つし、愛依に会いたいっていうから、連れてきたんだ……それだけだよ」


「へ」

 俺の弁解を聞いて固まる愛依。

 しばらく沈黙が続いた。



「え———————————————っ!」


 そして、いきなり声を上げて驚く愛依、思った反応と違った。


「み、未央先輩の妹?」

 愛依はいつもの穏やかな表情に戻っていた。


「うん……」

「そ……そう」


 愛依は、未羽を未央の妹と知って安心したのか、掴んだ腕越しにも身体中の力が抜けて行くのが分かった。


 とりあえず、許してくれたようだけど、俺は続けた。

「ごめん愛依……本当にごめん、俺が軽率だった。

 たとえ未央の妹でも、他の女の子を、相談もなしに2人の場所に連れてくるなんて、どうかしてた」

「……壮一郎」

「逆の立場だったら、俺も悲しかったと思う……だから、ごめん」


 愛依は小さく「うん……」とうなずいた。


 俺は大きく天を仰いだ。


 俺には覚悟が足りなかった、曖昧な関係の心地よさに、現実から目を背けていた。


 恋人のフリなら、仮に別れても本当の別れじゃない。

 関係が切れるわけでもないし、傷つくわけでもない。

 前に進まなくても、同棲しているから、ずっと一緒にいられる。

 本当は分かっているはずなのに、俺はぬるま湯のような関係をよしとしていたのだ。


 俺は……甘えているだけだった。

 

 だから、この……、

 この曖昧な関係を、今ここで終わらせる。


「愛依……聞いてほしい」

「壮一郎……」

 俺の思い詰めた表情に戸惑う愛依。


「俺はもう、この関係を終わりにしたい」

「え……」

「恋人のフリはもうやめよう」

 愛依の表情がひときわ沈んだ。


「壮一郎……なんでなの?」

「もう、こんな曖昧な関係は嫌なんだよ」

 少し間があいて愛依は答えた。


「そう……でも、今この関係をやめたら、香山かやま先輩、怪しむんじゃない……」

「それは大丈夫、香山先輩とは約束したし、変なことをしたら警察に突き出す証拠もある」

「……そう……ならもう恋人のフリをする理由もないのね」

「……うん……もう俺達に恋人のフリをする理由はない」

 下を向いたまま小さくうなずく愛依。


「でも、恋人のフリをやめたい理由はそれじゃない」

 俺は愛依の両肩をしっかり掴んだ。愛依は驚いて俺を見つめる。


「俺は、もう偽物の恋人は嫌なんだ……、

 本物の……、

 本物の恋人になりたい」


 俺は、愛依の肩から手を離し、一歩下がり右手を差し出した。


とどろき 愛依いといさん。

 俺は君のことが好きだ。

 必ず幸せにする。

 だから付き合ってほしい」


 言った……ついに言った。


 恐らく愛依が返事をくれるのに掛かった時間はほんの数秒だったと思う。

 でも、俺にはこの時間がとてつもなく長い時間に感じられた。


 その間に色んなことを考えた。

 だが、そんなものは愛依の答えを聞いて、一瞬で吹き飛んでしまった。


「やっと……やっと、願いが叶った」

 愛依は差し出した俺の手をしっかりと握ってくれた。


「不束者ですが、よろしくお願いします」

 涙まじりの笑顔で、はっきりと答えてくれた。


 やった……、

 やった……、

 やったぞ!


「愛依!」

 俺は愛依を抱きしめた。

 こんなに嬉しい事はない。

 この俺が、まさか学年ナンバーワン美少女と付き合えるなんて。

 

 いや、違うな……学年ナンバーワン美少女なんてどうでもいい事だ。


 俺の隣に愛依がいて、愛依の隣に俺がいる。

 それがやっと叶ったんだ。


 俺達はしばらく、人目もはばからず抱き合った。


 そして、愛依の口から衝撃の事実が伝えられる。

「壮一郎、私ね、あなたを追いかけてこの学校に入学したんだよ」



「え」


 ど、ど、ど、ど、どういうこと?!

 喜びと共に舞い込んできた衝撃の事実。

 俺はどう受け止めたらいいんだ。


「俺……愛依に会っていたの?」

「へへへ、壮一郎が私の事を思い出すまで内緒だよ」

 それって間接的に会ったことがあるって言ってるのと同じだよね?


「愛依それって……」

 愛依が俺の唇に人差し指を当てて、言葉を遮った。

「今はいいでしょ……今欲しいのは言葉じゃないよ?」

「愛依……」

 俺はさらに強く愛依を抱きしめた。


 そして唇に触れる唇から幸せを感じていた。





 ***





 ——部屋に戻ると未羽がクローゼットを開けて、例のブツを物色していた。


「ねえ未羽……何してんの?」

「ほら、これはお約束やろ」

 お約束……これも大阪の洗礼ってやつなのか。


「つーか、壮一郎……ウチはこうもっと、えちえちなR18的なヤツを想像してたんやけど、これ……R15やん!」


 未羽までそんなことをいうのか……。

「当たり前じゃん、だって俺は16歳だよ」


「真面目かっ!」


 我が家に未羽の突っ込みが響く。



 ————————


 【あとがき】

 

 逢坂です。

 ここまで読んでいただいて、

 ありがとうございます。

 そして、たくさんの応援ありがとうございます。


 皆様の応援のおかげで、本作は最高ラブコメ部門の日間1位、週間2位、月間4位にランクインすることができました。

 本当に感謝しかありません。


 本作はここで一旦の区切りとさせていただきます。

 ご愛読ありがとうございました。


 ! まだ完結ではありません!

 ミッシーのことや、愛依と壮一郎の過去、壮一郎のもう一つの顔、2年生ナンバーワン美少女との出会いなどなど、かなりのイベントを残しておりますので、毎日投稿連載は終了しますが、今後も息長く連載を続けていこうと思います。


 今後ともよろしくお願いいたします。


 本作が気になる。応援してやってもいいぞって方は、

 ★で称えていただけたりフォローや応援コメントを残していただけると非常に嬉しいです。

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