第25話 クローゼットの悪夢
ミッシーに会いに行ってから数日が経過した。
ミッシーはまだ学校に来ていない。
もちろん体外離脱のミッシーも来ていない。
色々手続きがあって大変だろうけど、ミッシーにはなるべく早く学校へ戻って来て欲しい。
だって俺……ミッシーがいないと学校で完全にボッチだもん。
クラスの連中はミッシーの事情を知らない。
だから俺のことなんて、独り言いってたヤベーやつが、最近静かになったな程度にしか思われていないのだ。
きっと本当の事を言ったら更にヤベーやつだと思われる。
俺の灰色の学校生活は続く。
「
だけど灰色の学校生活も、この瞬間だけはバラ色に変わる。
学年ナンバーワン美少女にして俺の同棲相手。
クラスの男子達の羨む視線が今日も痛いぜ。
「壮一郎、ごめん、今日は一緒に帰れない」
な……なんやて……。
「今日は生徒会なの、ごめんだけど、先に帰っててくれる?」
『やだな〜愛依、水くさいな〜待つよ、終わるまで待ってるからさ、一緒に帰ろうよ』
と言いたかったけど、
「うん、分かった頑張ってね」
言い出せない俺だった。
まあ、俺と愛依の仲は半分クラスの公認みたいなもんだし、多少彼氏っぽい事を言っても愛依に迷惑が掛かる事はないのだろうけど……、
やっぱり俺は……、
まだ遠慮してしまう。
あの日するって決めた告白も、色々あってまだ出来ていない。
あの日の覚悟……帰ってきてくれないかな。
それとミッシーも、なる早で。
1人とぼとぼと校門を出たところで、
「……壮一郎」
誰かに声を掛けられた。
聞き覚えのある声だ。
俺は声の主の方へ振り返った。
「……久しぶりやね」
声の主は
「久しぶり未羽ちゃん、元気だった?」
未羽ちゃんとは、あの日の前日以来、会っていなかったが……少し見ない間に随分大人っぽくなっていた。
以前俺は、未央に比べて未羽ちゃんは、発展途上感は否めないと評したことがあった。
……訂正します。未羽ちゃんは発展していました。もちろん未央に比べるとまだまだかも知れないけど、一般的な女子と比べると、何ら遜色のないレベルだ。
「元気やで、壮一郎は?」
「まあ、相変わらずかな……で、今日はどうしたの? 未央と待ち合わせ?」
「み、み、み、み、み、未央やて!」
めっちゃ睨まれた。
「なにお姉ちゃんだけ呼び捨てにしてん! 不公平やわ! ウチのことも未羽って呼びーや!」
「何あれ?」「修羅場?」「またあいつだよ」「あいつ最近調子乗ってるな」
なんか……無駄に注目を集めてしまった。そして嫌われてるぞ……俺。
「わ、分かったよ……未羽」
「それで、ええねん」
ええねん、なんて言いながらも少し照れている未羽が、とても可愛らしく思えた。
「で、何だったっけ? 俺に用?」
「う……うん」
何だろう……急にしおらしくなったけど……。
「お礼を言いに来たんや……」
「お礼?」
お礼なんて言われる事、あっただろうか。
「お姉ちゃん……助けてくれたんやろ?」
あ……あの件か……。
「ほんま、ありがとう……」
「いいよ、そんな事、気にしないで、俺らの仲じゃん」
「あかん!」
照れ臭そうに話していた未羽が、急に真剣な表情になった。
「それはそれ、これはこれや」
ここは、未羽の意思を尊重しよう。
「分かったよ、どういたしまして」
「……」
ん……なんだこの間は。
しばらく沈黙が続いた。
「ほ……ほんで、お姉ちゃんの事許してくれて、ありがとうな!」
「う、うん」
どうしたんだ未羽……あの頃のような歯切れの良さがない。
「で、でな」
「うん」
「で、でやな……」
どうした未羽……本当におかしいぞ……。
「パパが会いたがってたで!」
「そっ……そうなんだ」
絶対違うよね?
言いたいことそれじゃないよね?
「あんな……」
「うん」
「あんな……壮一郎」
「うん……」
だんだんと未羽の顔が赤くなってきた。
「彼女出来たって……ほんまなん?」
そうか……それが聞きたかったのか……きっと冷やかしにきたんだな。
「うん、本当だよ」
「……」
なんだ……この間は。
またしばらく沈黙が続いた。
「……そっか」
うん? ちょっと未羽の表情が沈んだ気がした。
そして……、
「壮一郎……会わせて」
うん?
「会わせてって、誰に?」
「誰にって……彼女しかおらんやろ!」
いきなりテンションが上がる未羽……なんか今日の未羽は読めないな。
「会わせるって言っても……生徒会で今日遅いんだよ」
「知って…………そ、そうなんや!」
……今、知ってるって言いかけたよね。
未羽は明後日の方向を見て、失言を誤魔化そうとしていた。
「ほんなら、待っといたるわ!」
「待っとくって……ここで?」
「何でやねん! 壮一郎の家に決まってるやん」
出た、リアル何でやねん。って……俺の家に来るのが目的だったのか?
期待の眼差しが半端ない未羽。
でも……いいのか、未羽を家に連れて行って。
かといって、ここで話してても無駄に目立っちゃうし。
背に腹は変えられないか。
「じゃぁ、とりあえず家来る?」
「いく!」
即答だった。
***
「おじゃまします」——————
そんなわけで未羽を伴い早速自宅に。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ……めっちゃ綺麗にしてるやん……壮一郎のくせに生意気!」
「あははは……」
最後のはどういう意味だ。
「ていうか、女の匂いプンプンしまくりやん! どないなってるねん!」
「どないも、何も、同棲してるし……」
「くぅぅぅぅぅっ……ふしだらな生活送っとるな!」
ふしだらって。
未羽はズカズカと部屋の物色をはじめた。
そして、俺の部屋で、
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
奇声を上げた。
「な……なんやこのマシン!」
さすがプログラマーの卵、俺のマシンが気になるようだ。
「なあ、スペック見ていい?」
「ああ、いいよ」
「ありがとう!」
マシンでテンションが上がる女子が、平野さん以外にいるとは驚きだ。
2人とも、超美人だし。なんか制作界隈に可能性を感じてしまう。
「めっちゃアプリ起動しててもぬるぬる動くやん! いいな!」
まあ、最近じゃこれぐらいは当たり前な気がするけど、未羽はお父さんのお下がり使ってるから仕方ないかな。
「なあ、壮一郎」
いたずらっ子の表情で俺を見る未羽。
「あそこ、空けていい?」
あそことは、クローゼットの事だ。
愛依用のスペースを開けるために整理はしたけど、例のブツはそのままだ。
「あそこはダメだよ!」
「何で? エッチなもんでも入ってるん?」
ジト目になる未羽。もちろん入ってます!
「そ、そんなんじゃないけどさ、彼女の着替えが入ってるから!」
「そんなん、ウチも女子やから気にせんでいいやろ?」
「いや、でも」
これは実力行使も辞さないって顔だ。
「見せや!」
未羽は予想通り実力行使にでた。
「ダメだって」
無理矢理クローゼットを開けようとする未羽を止めようとしたら……、
何故か俺は……未羽を押し倒していた。
こ、こんな近くに未羽の顔が……、
「な、な、な、何やってん!」
なんて言いながらも顔が赤くなる未羽。
「ご……ごめん」
もちろん俺も……、
何かちょっとドキドキしてしまった。ちょっと罪悪感だ。
「ただいま〜」
丁度そのタイミングで愛依が帰ってきて、現場を目撃されてしまった。
「「「あ」」」
凍りつく空気。
最初に口を開いたのは愛依だった。
「壮一郎……どういう事?」
聞いた事のない低いトーンで話す愛依。
「違うんだ、これは」
「何で……何で、私がいない間に、知らない女の子がいるの? この部屋に……何で抱き合ってるの?」
声が震えている……相当お怒りのようだ。
「違うんだ、愛依聞いて」
「信じられない」
そして、愛依は涙を流し……、
「違うで! 違うんやで、姉ちゃん!」
「待って愛依!」
俺と未羽が止めるのも聞かずに……、
「さよなら……」
この、部屋を出て行った。
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