第38話 バレちゃった
学校から帰って、いつものようにリビングでくつろいでいると、
「
と切り出した。
大切な話しって何だろう?
「……」
しばらく経っても愛依は押し黙ったままだった。
「……愛依?」
俺が急かすと、愛依の表情がだんだんと崩れてきて、
「どうしよう壮一郎……同棲がバレちゃった……帰ってこいって」
衝撃の事実がもたらされた。
愛依はそのまま泣きだしてしまった。
——ご両親に内緒にしている時点で、いつかこんな日が来るのではないかと覚悟はしてたが……、
これは……相当なショックだ。脱力感がすごい。
「ご両親……凄く怒ってる感じ?」
「ううん、親じゃないの……お姉ちゃんなの」
お姉ちゃん?
「私ね……こっちでは、お姉ちゃんと一緒に暮らしていたの、お姉ちゃんが私の親代わりなの」
知らなかった愛依にお姉さんがいたのか。
ていうか家族構成とかの話になると少しはぐらかされてれていた節もあった。何か事情があるとは思っていたが、それでなのか。
「一緒に住んでるっていってもお姉ちゃん……ほとんど大阪にいなかったし、いても終電逃してビジネスホテルに泊まることが多かったから、殆ど一人暮らしみたいなものだったの」
……だから寂しかったのか。
ていうか、愛依のお姉さん、なんか
「……お姉ちゃん、すごく怒ってた」
そりゃそうだ。
「……今から彼氏に会わせろって」
今からって……急な話だな。ますます平野さんみたいだ。
「分かった、ちゃんとお姉さんに説明にいくよ……」
ていうか、怒られにいくみたいなもんだな……でも仕方ない。俺の責任だ。
「うちのお姉ちゃん……かなり強烈だけど大丈夫?」
強烈って言っても平野さんみたいに、ゲンコツが飛んでくることはないだろう。
「大丈夫、俺、強烈な人慣れてるし」
「私……帰りたくない」
すがるような目で俺を見つめる愛依。
当然、俺も帰って欲しくない。
だから誠心誠意をもって、話すだけだ。
***
そして、待ち合わせ場所で先に待っていた、愛依のお姉さんは、平野さんみたいって言うか……、
「ほう、君が私の可愛い妹、愛依の彼氏か」
「え、あ、はい……」
平野さんご本人だった。
ど……どう言う事?
「まずは、君の疑問に答えてやろう。うちの両親は離婚していて、愛依は母方の姓を名乗っている。だから私と愛依は姓が違うのだ」
流石師匠……聞く前から弟子の疑問に答えてくれた。
「私はな、大阪を留守にしがちだ、それは君も知ってるな?」
「ええ……もちろん」
「だがな、最近連休をとったのだ。愛依が寂しい思いをしているんじゃないかと思ってな」
確かにしていました。
「そしたら待てど暮らせど愛依が帰ってこないじゃないか……私は心配になったよ」
平野さんの目つきが鋭くなった。
心配になるタイミングがかなり遅い気がするけど、突っ込まないでおいた。
「で、聞けば彼氏ができて、同棲してると言うじゃないか……」
い……威圧感が半端ない。
「その彼氏が……まさか君とはな」
更に目つきが鋭くなる平野さん。なんか背中から青白いオーラのようなものが出ている気がする。
「私の記憶が確かなら……君には
ど……どこでそうなったんだ。
「いや、それは誤解です! 未央とは付き合ってません」
怪訝な表情を浮かべる平野さん。
「あの状況で付き合わんとはな……君は相当なヘタレなんだな……」
……うぅ……痛いところを。わざわざ愛依の前で言わなくてもいいじゃないか。
「まあ、君の能力は私が1番よく知っている。将来性と言う面では有望だ」
な……なんか独特のやり辛さがあるんだけど。
「となると、大切なのは君の気持ちだ」
大丈夫、気持ちだけは自信がある。
「そして私と、家族になる覚悟があるかどうかだ」
……そ……そっちはちょっと、自信ないかな。
「何だその顔は?」
「いえ! 何も!」
怖っ! 平野さんが般若のような顔になっている。
顔に出ないように……気をつけないと。
「で、どうなんだ、壮一郎? 君は愛依を幸せにできるのか?」
この時点で、選択肢が結婚一択になっている事については何も言うまい。俺も一過性の関係じゃなくて付き合うからには結婚を視野に入れている。
そして俺の答えは、決まっている。
「必ず幸せにしますよ。それが俺の気持ちだし……幼い頃、愛依と交わした約束ですから」
俺の決意表明とも言える答えを聞き、含み笑いを浮かべる平野さんと、目を丸くして驚く愛依。
「……壮一郎……思い出したの?」
思い出したといっても記憶は断片的だ。
「うん……ごめんね愛依……俺、忘れちゃってて」
俺と愛依は幼馴染だった。
子どもの頃、俺達はいつも一緒で、将来を誓い合った仲だったのだ。
つまり俺は子どもの頃すでに、愛依をお嫁さんにすると、約束していたのだ。
しかし、愛依のご両親の離婚で俺達は離れ離れになった……もちろん当時は離婚なんて大人の事情は分からなかった。
だけど、時が経つにつれて、俺は愛依の事を忘れていってしまったのだ。
そんな、俺の様子に気付いてか、
「おい壮一郎、愛依の事を忘れた半分は私の責任だ。あまり気にするな」
更に平野さんから衝撃の真実が知らされる。
「「え」」
普通に驚く俺と愛依。
「愛依がいなくなってな……毎日毎日壮一郎がメソメソしてるもんだから、無理矢理忘れさせてやったんだ」
な……何それ? 平野さんは人の記憶を操作することができるの?
……いや、普通に出来そうだけど。
「私が君にプログラムを教えるきっかけは、愛依を忘れさせるためだったんだよ」
な……なんと!
「膨大な情報を無理やり脳内に詰め込んで、記憶を押し出してやろうと思ったんだ」
ひ……酷い……でも、
そのおかげで、俺と愛依は距離を縮めることができた。俺にプログラムの知識がなかったら
平野さんが愛依を忘れさそうと叩き込んだプログラムスキルが、結果、妹である愛依を救ったのだ。
「まあ正直、ここまで君が凄くなるとは、当の私も思っていなかったけどな」
なんか……当たり前になっていたことが平野さんによって当たり前にされていたとは。
「壮一郎の気持ちはよく分かった。愛依……お前はどうなんだ?」
愛依は少し照れ臭そうに答えた。
「お姉ちゃん……知ってるくせに意地悪だよ?」
知ってるくせにってどう言うこと?
平野さんは微笑を浮かべ、
「……そうだったな」
とだけ答えた。
愛依もそれ以上は何も言わなかった。
そして、
「壮一郎、愛依のことをよろしく頼む」
平野さんが深々と俺に頭を下げた。
「……平野さん」
厳しい師匠である平野さんに、男として認められる。なかなかくるものがあった。
「今日は、私が御馳走しよう、ふたりは何か食べたい?」
開幕の厳しい表情が嘘のようになっていた平野さん。平野さんに認めてもらえて、ご馳走してもらえることも嬉しいが、俺たちの同棲がまだ続くことの方が俺は嬉しかった。
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