5 あ、この王子なら大丈夫そうだ(確信)
ロイドが退出して、私たちはふたりきりになった。
私は、王子が話し出すのを今か今かと待っていた。
なかなか話し出さないね、この王子?!
なんなんですかね、この間!!!
「……何から話そうか、ステラ」
王子が重々しく口を開く。
とても私と同じ五歳児とは思えない雰囲気を醸し出している。
…………これはまずいな。怒られるな。
やっぱり、さっきのロイドとの会話を聞かれたのはちょっとまずかったかもしれない。
理想の公爵令嬢とその執事とは、かけ離れてるもんね。
まあ、怒られるだけならいいんですよ。婚約破棄も大いに結構(まだ正式には婚約してないけど)
だけど、それ以外の罰は勘弁してほしいんだ。
私がそうやってひやひやしていることも知らず、王子は次の一言を放つ。
「ステラ・ラウントリー。君からは、同じ匂いがするんだよね」
「…………はい?」
意味不明な言葉に思わず私は、変な声を上げてしまう。
いかんいかん。
こんなアホみたいな声を上げるなんて、まだ緊張感が足りない、私。
そうやって気合いを入れ直し、完璧な公爵令嬢の仮面をかぶる。
ロイドの鬼コーチの成果、見せてやりますわっ!
「失礼ながら、どのような意味でしょうか?」
「……別に仮面をかぶらなくて大丈夫だよ」
「何のことでしょうか?」
何がしたいんだ、この王子?!
そんなことはどうでもいいから、さっさと本題に入ってくださいっ!
私、折角演技してるのにっ!
「それは素じゃないんだよね?」
「……先程から、何が言いたいんですか?」
「そうだよね。このままじゃ、何も通じないか」
「殿下?」
「ステラ、『キラ☆メモ』ってゲームを知っているかい?」
王子が鋭い眼差しで、私を見つめてくる。なんだか、銃口向けられた気分。
そんな表情で、言い出したのは、まさかの『キラ☆メモ』の話。
王子が言っている、『キラ☆メモ』ってあれだよね? この世界の元となっている乙女ゲームのことだよね?!
そんな“貴女をこれから断罪します”みたいな雰囲気を醸し出しながら言わないでくれますかね?
「……殿下がおっしゃているのは、乙女ゲームの『キラ☆メモ』のことでしょうか?」
「他に何があると思う?」
ですよねー。こんないかにも“そう言う系のゲームです”って主張しているタイトル、他に存在しないよなー。
こんなゲームのない世界ならなおさら。
「ということは、殿下も前世の記憶をお持ちで?」
「実はそうなんだ。
……ところでステラ、“殿下”って呼ぶのやめてくれない?」
「どうしてですか?」
“殿下”という呼び方は、なんの問題もないはずだ。
少々型苦しい気もするが、相手はこの国の王子様。砕けた言い方は良くない。
と、ロイドなら言う気がする。
「今は王子でも、前世は日本の一庶民だったからね。いまいち慣れないんだよ」
「仕方ないです。それが宿命です」
「だからせめて、婚約者候補の君の前では楽にしたいんだけど、駄目かい?」
王子の気持ちもわからなくもない、むしろ激しく共感してしまう私は、王子の申し出を無下にすることはできない。
いくら一国の王子や公爵令嬢であるとはいえ、息抜きだってしたいよね?!
別にそんなに堅くならなくてもいいよね?!
「公式の場でやらないのであれば、よろしいかと」
「本当かい!」
キラキラした瞳で、私を見つめてくる王子。
五歳児にそれをやられると、可愛くて抱きしめたくなってしまう。
断じてショタコンじゃないが、小さい子を見ると、『可愛い』となってしまうのは、仕方がない。仕方がないんだ……!(お前も五歳児だろってツッコミは置いといてください)
「ええ。私も他言はしませんわ」
「ありがとう、ステラ。代わりと言ったら変だが、君も楽にしていいよ」
「ですが」
「もう、君の本性は見てしまったんだ。問題ないだろう?」
それもそっか。ロイドと言い争ってる姿見られちゃったもんね。
今更誤魔化せるとは、正直思っていない。
「だね」
なんだかとっても気が抜けてしまった私は、テキトーな返事を王子に返した。
「じゃあ、僕も砕けるから。これからよろしく、ステラ」
「よろしくね、王子」
喋り方は優しい口調のままだが、纏う雰囲気は威厳など堅苦しいものは消え、一気に柔らかくなった。
ふ~ん、一応雰囲気を使い分けていたのか。
違和感を感じさせないあたり、かなり慣れている。
流石王子様ってわけか。
「……ねえ、ステラ」
「何、王子」
「その王子って呼び方、何?」
「王子は王子なんだから、よくない?」
殿下っていうのは堅苦しいから駄目ってなったし。本名はちょっと長くて呼びにくいし。
王子ってのが、言いやすいし、愛称っぽいし、丁度いいなぁって思っただけなんだけど。
「名前で呼んでほしいんだけど」
「長いから却下」
「愛称の“セオ”でいいんだけど」
「う~ん、短くなったけど、私的に“王子”ってのがしっくりくるのよね」
「嫌なんだけど?! 砕けた口調で話せる友達に、“王子”って呼ばれるの。課長って呼んだり、社長って呼んだりするのと一緒じゃない?」
「でも、イケメンを“王子”ってあだ名で呼ぶことあるじゃん。それと一緒」
「僕の場合は一緒じゃないからね? 正真正銘の王子だからね?」
「細かいなぁ」
「細かくないっ!」
いいじゃん、別に王子って呼んでも。
私的にあだ名と何も変わらないし。公式の場では、“殿下”って呼ぶし。
「ぶっちゃけ、呼び方なんてどうでもよくない? こういう砕けた感じが大事なんじゃないの?」
「それは、そうだけど……」
「じゃあ何も問題ないね。遠慮なく王子って呼ばせてもらうわ」
「でもなぁ……」
「いい加減諦めてくださいな。往生際が悪いですよ? 一国の王子がみっともない」
「それ、君が言う?! 言っちゃう?!」
まあ、こんな感じで、王子とは仲良くなりましたとさ。
これで破滅は遠くなったんじゃない? というか、なくなった気がするなぁ。
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