7 婚約を回避する方法

「やっぱり、泣き落としが一番だと思うのよね」


 開始早々、私はそんなことを言う。


「ほら、男親って愛娘に甘いじゃん?」

「……どこからツッコミを入れればいい?」

「好きなところからどうぞ」


 さっきから、王子は困惑してばっかりだ。情けない。

 こんな時こそ男を見せないでどうする!


「じゃあ、根本的な問題から……。泣き落としで解決すると思うか?」

「やり方によっては」

「国の未来がかかってる問題だぞ?」

「それはそうだけど、でも王子が国のために活躍するのってまだまだ先じゃない? 婚約を回避するのは今しか! 役立たずな今しかないと思うの!」

「……一理あるけど、役立たず言うな」

「事実でしょ?」


 反論してみろと、へへん、と笑って挑発してやる。

 想像どおり、言い返すだけのことはしてないようで(当たり前だ。私たちまだ五歳)、少しだけ悔しそうな顔をした。


「……それで、だ」

「あ、話逸らしたわね」

「いいだろう、別に! それで、だ。泣き落としを使うにしても、最終手段にしておくべきじゃないか? ある程度、納得させられる理由を考えておくべきだと思うんだ」

「まあ、そうだろうね」


 泣き落としだけに頼るなんて、そんなことは考えてない。私も馬鹿じゃないし。


 う~んとうなりながら、私と王子は大人を納得させられるだけの理由を考える。

 前世の記憶があるとは言え、それは貴族社会の記憶じゃないし、そもそも私たちはまだ五歳。理論で押し切って論破することは難しいだろう。


「一番使いやすいのは、ラウントリー家に私以外の子供がいないってことだよね」


 私の婚約話を聞くまでは、てっきり私が婿を取って、その人が跡を継ぐんだと思ってた。それか、私が女公爵として継ぐか。それがありなのかどうかはよくわからないけど、前例がないなら作っちゃえばいいんだよね!

 めんどくさいから、夫となる人に押しつけようとも思ってるけど。


「そうだな。でもこうして婚約が動いているんだ。跡取りのことは何か考えているんじゃないのか?」

「それはそうだけど、『正式に跡取りが決定するまで、ちょっと待って~』って言えそうじゃない?」

「確かに。でもそれだけだと、期間を延ばしてるだけで、いつかは婚約をすることになりそうだ。もうひとつ理由を加えるのが良いな」

「もうそこは、『私たちがもっと交流する時間を頂戴』的な感じでいいんじゃないの?」

「テキトー過ぎるが、それはそれで使えるかもしれない」


 と、私がテキトーに言ったことを、王子が真剣に考慮し始める。

 あの~、私、冗談のつもりで言ったんですけど? そんなに考え込まないで?


 すると考え込んでた王子が、何かを思いついたようにはっとして、不敵な笑みを浮べた。


「……つまり、『互いが互いを認めることができたら、婚約する』と言えばいいんじゃないか?」

「なるほど、君は天才なんだね?!」


 これなら、婚約が嫌じゃないことも、早すぎて混乱していることも、アピールできる。満更ではない感が醸し出せるだろう。

 恋愛感情を持たなくても、生涯のパートナーとして、国のために、慎重に婚約を選ぶことを決めているように聞こえる。


 この作戦の最大の良いところは、自分たちで婚約する時期を選べると言うことだ。つまり、ずるずると引き延ばせる! 本当の思い人を見つけるまで、キープ状態を続けられる!

 控えめに言って、最高じゃない?


「これでいこう、王子」

「少々詰めが甘いと思うけど」

「このくらいで丁度良いと思うわ。『子供が必死に考えました!』って感じが大事だと思わない?」


 今の私たちの容姿を活かそうぜ、と私は悪い笑みを浮べた。

 子供には、子供の戦い方があるんだよ!

 おぼつかない口調で、それでも一生懸命考えたこと話すのは、大人の心を打つはずだ。相手が人間の心を失ってなければね。

 私の父母は大丈夫だし、王様だってそんなに冷たい印象はなかった気がする。


 いける、いけるぞ、これは!!


「それもそうだね。実感はないけど、僕たちはまだ五歳なんだ。子供なんだ」

「そうそう。子供らしく可愛く攻めよう」

「中身は可愛げないけどね」

「それは言わないお約束」


 なんだか必死に話していたことが可笑しくなってしまって、私たちは大声で笑い出した。

 こうして気軽に話せるって楽しい。ロイドはなんだかんだで、主従関係は守るから、線引きされてるんだよね。


「それにしても、ステラ・ラウントリーがこんなに愉快な人だと思わなかったな。頭が良いとも思わなかった」

「失礼ね。まあ私も、王子もこんなに気さくな人だったとは思わなかったわ」


 頭が良いのはロイドのおかげなんだけどね。私だけだったら、もっと馬鹿だったと思う。


 ふたりで気が済むまで笑ったあと、家族が待つ場所へ向かった。

 さあて、決戦の始まりだ。

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