6 婚約したくないよね……?
「……まあ、呼び方のことは、おいおい相談するとして」
「私は何があっても、王子と呼ぶわ」
「僕も諦めないからね」
諦めの悪い二人が会話をすると、なかなか話が進まない。
王子が諦めてくれれば、全て解決なんだけど。あ、私は絶対譲る気さらさらないからね。
「ステラは、僕と婚約したいの?」
「はい?」
今、この王子様、とんでもないことを聞いてきた気がするんだが?
「家の話うんぬんは抜きにしてさ、ステラ自身、僕と婚約したいの? それともしたくないの?」
「しなくていいならしたくない」
「それは、ゲームの悪役令嬢ってこと気にして言ってるの?」
ゲームでのステラ・ラウントリーの役割を知っている王子は、心配するように尋ねてきた。
今思ったけど、私のことを破滅させる原因となる王子が、前世の記憶持ちって強くない? 普通にありがたくない?
「それもあるけど、ただ単にめんどくさいから」
王子の答えに対して、私はばっさりと言い放つ。
「まだ五歳なのに、結婚相手が決まってるとか、怖くない? 交流の輪も狭いし、まともに友達もいないのに、どうして結婚相手だけは決まるわけ? それに婚約者なんていたら、恋愛も自由にできないじゃん」
この国で貴族様が恋愛結婚を認められているのかどうかはよく知らない。でも、恋愛結婚した貴族様がいるって聞いたこともあるし、そこまで厳しくはないのかな。
そんな事情を置いておいても、結婚以外のことも含めて、私は私の生きたいように生きたい。
それ以前に、五歳で結婚のこと考えなきゃいけないとか、普通に考えておかしい。この頃の恋って皆、ノーカンにしてるでしょ。初恋に数えてない人がほとんどでしょ。
「……僕もそう思うよ、ステラ」
お、意外。王子から同意を貰えるとは思えなかった。
さっきの「婚約なんてしたくない」っていうの聞かれたから、意思確認した上で、やんわりと否定されるんだと思ってた。
「この時期に婚約なんかしちゃったら、カップリングの可能性がひとつ減ってしまうんだよ」
……ん? 今、変なワードが聞こえてきたけど、気のせいだよね?
カップリング、なんていうそんな言葉、王子の口から、出てないよね……?
「今、なんて言った?」
「……ステラ、僕はね、百合より尊いものなんて、この世に存在しないと思うんだ」
「百合……?」
今まで見たことのない王子の真剣な顔つきに、思わず唾を飲んでしまう。
そんなに大事なことなの……?
百合って、あれだよね? この場合、植物の百合を指してるんじゃないよね? 女性同士の同性愛を指す方の百合だよね?
それにしたって、なんなんだ、この気迫。絶対使うところ間違えている。
「女の子同士がいちゃいちゃしてることこそ、この世の最大の幸福だと思わない?」
「……はあ?」
「それはステラ、君も例外じゃないんだ。こんなに幼いのに、僕と婚約してしまって、カップリングの種類を減らすことなんて、僕にはできないんだっ!」
「……良いこと言ってる風に、言わないで貰えます? あと、普通にキモい」
「酷いっ! 僕はこんなにも百合を愛しているというのに」
私の容赦ないツッコミにも王子は負けず、百合の素晴らしさを語り始める。
うん、私はそう言う話を聞きたかったわけじゃ、ないんだよね。それに私は、百合とかBLとかも嫌いじゃないけど、男女の普通の恋愛が一番好きなんだ。
というか、王子ってなんか典型的なオタクなんだなぁ。
自分の好きなジャンルとかキャラとかになると、早口でとことん話し尽くすタイプのあれ。
外見にだまされちゃだめだね。こいつは間違いなく、筋金入りのオタクだ。この語り口調だと、出費を惜しまないむしろそのためにお金を稼いでる系のオタクだ。
ロイドの長話に日頃から付き合ってるせいか、王子の長ったらしい話を難なく聞き流すことに成功した。
要するにあれでしょ? 百合は尊いんでしょ? そう言いたいんでしょ?
「わかってもらえたかな」
「あ、うん。なんとなくは」
「なんとなくはわかってるとは言わない。もう一度、よく説明してあげようか?」
「結構です」
「遠慮しなくて良いんだよ?」
「遠慮なんてしてないです。もうお腹いっぱいです。というか、私は男女の恋愛話のが好きなんです」
そんな私の言葉に、“ありえない”という顔をする王子。顔一面に絶望が浮かんでいた。
そこまで?! そこまでショック受けるの?!
「嘘だろう?!」
「嘘じゃないわ。私は、恋愛系の漫画全般が好きだったし、百合もBLも嗜む程度には好きだったけど、やっぱり男女の組み合わせが好き」
「そんな……!」
「……人の好みを聞いて、いかにも“ショック受けてます”って顔、しないでくれます?」
あまりに反応がウザかったので、ちょっと棘のある声で言う。
それを聞いて、王子は反省した顔はしなかったが、ショックを受けたという顔はしなくなった。
…………中々神経図太いな、この王子。
「ステラの好みはよくわかったよ。否定はしない。けど」
「けど?」
「たまには僕の百合トークにも付き合ってくれるかい?」
「まあ、たまになら」
この世界で、大っぴらにオタトークなんてできないし、話相手もいないもんね。王子なら尚更。
「本当かい?!」
「勿論。その代わり、私の話も聞いてね」
「喜んで!」
そんな感じで、私と王子は話相手になることになった。
婚約者ってよりは、お友達って感じの距離感になりそう。
ていうか、あれ? だいぶ本題からずれてるよね? いけないけない。
こほん、と私は咳払いをして、話を仕切り直す。
「話を戻すけど、結局王子も婚約に反対ってことなんだよね?」
その言葉に、迷いなく王子は頷く。
ふたり揃って婚約したくないって……。しかも理由が結構やましいし……。
まあ、そんなことはどうでもいいんだ!
ふたりの意見が揃ったんだから、やることはどう考えてもひとつだろう。
「じゃあ、作戦会議だね」
私の言葉に、王子は「へ?」とまぬけな顔をする。
いやいや、そこでまぬけな顔してどうするの! 私たちの未来がかかってるんだよ?
「いや、だから。婚約したくないってお父様たちを説得するために、どんな手段を用いるか相談しようって話」
「でも、婚約の話はほぼ確定してるんだよ?」
「そこは交渉次第じゃん?」
「……それもそうだな!」
そんなこんなで、第一回婚約回避会議開催が決定!
参加者は、私、ステラ・ラウントリーと王子! 少ない!
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