2 ヒロインとご対面~!
その後、メイド頭にとある一室に案内された。
その部屋には、リネットを除く王城勤めのメイドさんたちが揃っていた。
うわ~、流石王城。数が異常だわ。
公爵家である我が家も相当な数の使用人がいるけど、それを優に超えている。しかも、これに加えて執事さんもいるんだよね?
呆気にとられていると、ロイドに肩を軽く叩かれる。
全部お見通しってわけですか。そうですか。
ロイドは着実に、エスパーを身につけつつあると思う。
そんなロイドを見返すべく、私は公爵令嬢の仮面をかぶり直した。
これでどうだ、完璧だろう!
「……ドヤ顔はしなくていいんですよ」
耳元で、ロイドがぼそり。
「してないもん」
「してましたよ。少なくとも、心の中では完全にドヤってしてましたよね?」
「うぐっ……」
なんだこいつ。本当に心が読めるのか?!
私の執事怖い。
「第一印象は大事です。しっかりやってください」
「……わかってますよーだ」
心の中であっかんべーをお見舞いして、私は今度こそ、心の底から、公爵令嬢ステラ・ラウントリーになった。
「皆さん、初めまして。このたび責任者となりました、ステラ・ラウントリーと申します。皆さんの働きに期待してますわ」
自分の紹介を終えると、今度はロイドの紹介をする。
「隣にいるのは、わたくしの執事、ロイド・バズウェルです。共に行動することが多いと思うので、よろしくお願いしますね」
よし、完璧じゃない?
鍛えられた甲斐があるってもんよ。
うひひひ、と心の中で自画自賛していると、漫画なら、『ばあああああん』という文字と集中線と共に描写されそうな勢いで扉が開いた。
「すみません! 遅れましたっ!」
扉を開けたのは、赤い髪をふたつのお団子にまとめた可愛らしい少女だった。
はあはあ、と息を切らしていて、急いで来ました感が満載だ。服や前髪乱れている。
いやいや、それにしても、今の扉の開け方はない。
王城云々の前に、一応貴女も貴族令嬢だろうが。
いや、貴族令嬢関係なく、普通に扉を開けろよ。
もう少し、品のある開け方――というよりは、常識的な開け方をしようよ。普通でいいんだよ、普通で!
「お嬢様、彼女がリネット・エイデンです」
ロイドが耳元でそう教えてくれる。
そうか、彼女がリネット・エイデン。乙女ゲームのヒロインか。
そうして、私に近づいてくるリネットを見る。
りんごの皮のような真っ赤な赤髪。 目は黒い。身長は低めだし、胸は大きくないけど、スタイルはそこそこいい。
アイドルとかモデルとかになるほど可愛くはないが、平凡より少し可愛いっていう感じだ。うーむ、なかなかいいキャラデザだ。
「遅れて申し訳ありませんでしたっ!」
私の前に来て、勢いよく頭を下げるリネット。
おいおい、声も可愛いじゃねーか。これはヒロインだわ……。
――――あんな扉の開け方をしなければ、完璧だったのにっ!
中身で、ビジュアルや顔の良さを台無しにしている。
ロイドの話を聞く限り、貴女は残念系ヒロインじゃないんでしょ?! ちゃんとやりなさいっ!
と、少女漫画好きの血が騒ぐ。
「顔を上げなさい」
お説教をするにも、頭を下げられたままじゃ、やりにくい。
顔を見ないと、反省してるかしてないかわからないしね。
あんまり厳しく叱ると、よくないかな。第一印象って大事だし。
それにロイドからの圧が告げている。『厳しくするな厳しくするな厳しくするな。いじめるな』
悪役令嬢云々に関係することなんだろうけど、必死すぎない?
私、酷いことする人に見えますかねぇ?
慈悲も感情もない、非道な人に見えますかねぇ?
そんなことを考えていると――、
ごんっ!!!
リネットの頭が私の顎に衝突する。完璧な攻撃だった。
お陰でこちとら、ふらつきましたよ。ふらついただけで済むって、私結構すごいのかもしれない。
はい、これも全部ロイドのお陰です。勉強以外にも、体術とか剣術とか仕込まれました。結構強いです。
ロイドって、私のこと、どうしたいんだろうねぇ……。世界でも征服するつもりなのかな?
「す、すみません。大丈夫ですか?!」
「大丈夫よ」
別のこと考える余裕あったし。痛いけど、傷はできてないだろうし。
「リネット・エイデン。元気なのは良いことだけれど、もっと品を持ちなさい」
「は、はい」
「それで、どうして遅れたの?」
軽く注意してから、私は遅刻の理由を聞く。
まあ、ロイドから聞いてるから、わかるんだけど。確か、馬車の故障が原因だったはず。
「馬車の車輪が故障してまして……。まあ、そんなのがなくても、普通に寝坊してたので、どっちみち遅刻してましたけどね」
あはは、と頭をかきながら、リネットは言う。
……馬鹿なのか、この子は?
「リネット・エイデン。正直なことはよろしいのだけれど、わざわざ寝坊のことは言わなくても良いのよ」
くすくす、と周りから笑い声が聞こえてくる。
どうして、リネットは自分が不利になるようなことをぽろりと言ってしまうのだろう。
そんなことでは、貴族社会は生きていけないぞ。
今の話題ひとつでも、お茶会の話題になってしまうんだよ。
「それもそうですねぇ」
笑われている当の本人は、呑気に頷いていた。
本当に大丈夫か、この子。
「それで、リネット・エイデン。今日は大事にはならなかったけれど、約束の時間を一秒でも過ぎてしまうことで、取り返しのつかないことになることもあるわ。もう自分で判断できない子供じゃないのだから、これくらいは理解してるわよね?」
「はい、勿論です」
「貴女になんの問題もない不慮の事故だとしても、相手は知ったことではないわ。それに貴女がこれから務めるのは、王城。時間や規則は厳しいわ。肝に銘じなさい。そして、この反省を活かして、二度とこのようなことを起こさないようにしなさい。それが、今回貴女が遅刻してきたことに対する処分です。わかったのなら、列に並びなさい」
リネットは静かに返事をして、列の端の一番後ろに並ぶ。
我ながら良いお説教だったのではないか、と自画自賛してたら、ロイドがにっこりと笑ってきた。多分、気をぬくなってことだろう。
流石、完璧執事・ロイド。油断も隙もない。
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