30 脳筋騎士カップル、爆誕!
アストリー伯爵の息子はそのまま身柄を拘束された。
身柄を拘束するためにやってきた騎士たちは、戦意喪失した息子とそれを睨んでいる私を見て、大体の状況は察したようだ。「マジか。怖いな……」とつぶやいていたのを聞き逃すことはなかった。
何も言わなかったけど。怖いことをしたのは事実だし。
「さて、オリヴィアたちのところに行くか」
騎士たちが去って行くのを見届けると、私たちも次の行動に移す。
思いもよらぬ乱入があったことで、決闘はうやむやになってしまった。
せっかく盛り上がってたのに。本当、いらんことをしたものだ。許せん。
「一応聞いておきますけど、心配だから行くんですよね?」
「それもある」
「別に目的があるみたいに言わないでください」
階段を降りながら、ロイドは疑うような瞳を向けてくる。
「だってさ、このまま何もしなかったら、決闘仕切り直しでしょ?」
「それはそうですね」
「内容は本物だけど、茶番みたいな決闘、二回もやらせてたまるもんか!」
実力のあるふたりだからこそ、決闘は面白かった。
だが、決闘する理由がダメだ。告白するための決闘なんて、二度もやらせるものか!
しかも、両思い確定のふたりの決闘を!
もういい加減、先に進んでほしい。進めたい。
「つまり、乱入しに行くのですか?」
「乱入って言い方は正しくないわね。手伝いにいくのよ、手伝いに」
「物は言いようですね」
はあ、とロイドはため息を吐いた。
失礼だな、こいつ。
乱入って言うと、アストリー伯爵のバカ息子がしたことと同じように聞こえるじゃないか。
そんなこと、許すなんてできるものか!
そんなこんなで、オリヴィアたちに合流できたのだが、彼らは彼らで何かを言い合っていた。
「この勝負、どう考えてもメレディスの勝ちだろう」
「技術的にはオリヴィアの方が上だった。オリヴィアの勝ちに決まってる」
あ。仕切り直しの話じゃなくて、今の状況でどっちが勝っていたか話しているんだ。
彼らも、あまり長引かせたくないんだろうし、早く告白したいんだろう。
……断じて、ひとつひとつの決闘に決着をつけないと気がすまないとか、自分はまだまだだから勝ったことにしたくないとか、そういう脳筋的な考えはないよね? そうだよね?!
「どうしたの?」
不毛な争いを終わらせるべく、とりあえず声をかける。
「メレディスが勝ちを認めないんだ!」
「オリヴィアが勝ちを認めないんだ!」
声を揃えて言うふたり。
はいはい。仲が良いのは、わかっているのでそんなことでアピらなくて大丈夫です。
「仕切り直しをするつもりはないの?」
そんなこと、私が許さないけど。
「仕切り直すにしても、今回は今回で勝敗をつけるべきだ」
「オリヴィアの言うとおりだ。そうじゃなきゃ、何のために決闘をやっていたかわからない」
……告白するためだよね?
間違っても、勝敗をつけて、実力を測るためじゃないよね?
この脳筋カップル、いい加減にしてほしい。
「引き分けでいいんじゃないの? ダメなの?」
「私はメレディスに助けられた。それなのに、引き分けなんて自分が許せない」
「あれは想定外のことだろ。あのまま戦っていたら、俺が負けてたよ」
引き分けじゃダメなの? なんで?
ふたりともいい勝負をしていたし、実力なんてたいした差があったわけでもないのに。
どうしてそこまで、相手に勝ちを譲ろうとするんだろう?
今更、告白に怖じ気づいたわけではあるまいし。
……本当にそうだったらどうしよう?
「そういえば、この決闘、勝ったら負けた方にいうことを聞いてもらえるって話あったじゃない? 引き分けの場合どうするの?」
めんどくさいから、引き分け前提で話しちゃえ。
というか、引き分けってことにしちゃえ。
「あ、そうだわ。同時に言えばいいんじゃない? それならフェアでしょ! そうだ、それがいいよ」
「「は?!」」
突拍子もない提案に、ふたりとも声を合わせて驚き、私の方を見てくる。
「騎士団長、どう思いますか?」
「それは良い考えです」
にやりと聞こえてきそうな笑みを浮かべる騎士団長。
決闘の立会人は彼。よって、彼の采配で勝敗が決まる。
私にも、オリヴィアにも、メレディスにも、勝ち負けを決める権利はないのだ。
「この勝負、引き分けとする。よって、双方の願いを叶えることとする」
そう騎士団長が言うと、わああと歓声が上がる。
騎士たちノリがいいな。こんなイチャイチャしてることと大差ない喧嘩を見せつけられてたのに、よくもまあそんな反応ができるな。すごい。
「ようやくくっつくのか」っていう意味合いもこもっていそうだけど。
「ステラ嬢、合図を頼めるか?」
「任せてください」
私の気合いの入った返事を聞いて、オリヴィアとメレディスはあたふたし始める。
今までに見たことがないくらい混乱してるねぇ。
そんなことはおかまいしなしに、私は声を上げる。
「せーのに合わせてお願いしますね。それではいきます。せーの!」
「「ずっと、好きでした! お付き合いしてください!」」
あたふたしてたことが信じられないくらい、綺麗にハモった。
流石はバカップル。
「え?」
「は?」
しばらくすると、相手が言ったことを理解したのか、ふたりともきょとんとした顔をして、それぞれの顔を見つめている。
そして、かああああと顔を赤く染めた。
「え、嘘……?」
「本当に……?」
視線を合わせたり逸らしたりしながら、夢か現実か判断しているようだった。
この状況だと、夢って判断しそうだな、こいつら。
そんなふたりの会話がないので、呆れた騎士たちは、
「おめでとう」
「やっと気づいたのかよ~」
「最後まで気がつかないって、ある意味すごいよね~」
「お似合いだな」
ノリノリで言葉を飛ばした。
その言葉にさらに顔を赤くするふたり。
「え? 気がついてなかったの、私たちだけなの?」
「みんな知ってたってことなのか?」
両思いだという事実は受け止められたものの、また信じがたい事実が浮かび上がってきたので、さらに混乱しているようだ。
「その通り。ふたりとも鈍感だし、ヘタレだし、いつ付き合うのかなってみんな思ってたんだよ」
代表してその疑問に答えると、ふたりは頭を抱えた。
「私の相談乗ってたときも……?」
「俺に発破かけたときも……?」
「勿論」
にっこりと笑みを浮かべて答えてあげると、そろってふたりはしゃがみこんだ。
「どうして教えてくれなかった?」
「言っても信じないでしょ」
「だったらまわりくどい真似をしなくても良かっただろ」
「まわりくどいことし始めたのはあなたたちでしょ」
ため息を吐くと、「確かに……」とふたりは納得し始めた。
お前たちがややこしいことしなきゃ、こんなに大がかりなことにはなってなかったんだよね。
そのことを良く自覚して、次にいかしてほしい。
まあ、これはこれで面白かったし、最高だったけど。
「それでどうするの? 付き合うことなんて、私たちには予想通りなんだよね。もう一個先を見せてくれないと」
その言葉にふたりは視線を交わす。
照れくさそうに口を開いたのはメレディスで。
「デートでも、行くか?」
「わかった」
初デートの約束の場面を私はしっかりと目に焼き付けるのだった。
ステラ・ラウントリー、大満足です。
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