第六十四話 大事なお話

 俺は彩に背中を押され、見るからに高級そうなレストランに入店した。

 普段外食をする時とは明らかに異なる店の雰囲気に圧倒され、そこら中を見渡してしまう。

 席に案内されると、ウェイターらしき人が椅子を引いてくれた。 よくこういうところで食事をする人からすると些細な気遣いかもしれないが、一般庶民代表の俺からすると感動ものだ。

 メニュー表を見ると、やたら料理の名前が長い上に見たこともない料理名が並んでいる。 そしてその横に書かれている値段を見ると、俺が想像していた金額よりも1ケタ多い金額が書かれていた。


「さあ、今日は好きなもの頼んで!」

「え、でもこんなの好きなだけ食べたらお会計が……」

「大丈夫、今日はお父さんからカードを借りてきてるから!」

「彩の家って家ってお金持ちなの……?」

「よくあるサラリーマンの家庭だよ! お金持ちだったらあんな公立高校じゃなくて今頃有名私立のエスカレーターコースかな!」


 彩の認識では金持ち=有名私立に通っている人のことらしい。 あながち間違いでもないのかもしれない。

 それにしても親のカードなんて借りて何でこんなところに。


「今日はこの前私を助けてくれたときのお礼! お父さんに蓮くんの話をしたら良いところでご飯でもいってお礼してきなさいって!」


 そういえば数日前、俺はアウゼスから彩を助けたんだった。 異世界と現実を行き来しているともっと前のことに感じる。


「そうだったのか、でもこんな良い店じゃなくても良かったのに!」

「私が来てみたかったてのもあるの! 感謝の気持ちだから遠慮しないで頼んで!」

「それじゃあ遠慮なく……」


 俺は再度メニューを開き、気になっていたメニューを注文した。

 その料理はバカ舌の俺でも分かるような美味しさで、世にグルメ通なる人が出没するのも少し分かる気がした。 

 美味しい料理を堪能し、俺と彩は店を出て駅前に向かう。


「今日はありがとう、こんな美味しいもの今まで食べたことなかったよ」

「なら良かった! こんなお店はなかなか来れないけど、またご飯食べに行こ!」

「俺とで良ければ……」

「蓮くんとが良いんだよ。 じゃあまた今度ね!」

「えっ? ああまた今度」


 俺の聞き間違えなのかは分からないが、俺とが良いなんて言われた気がする。

 一体何が起こっているんだ、彼女なし童貞の俺に春が訪れつつあるんだろうか。

 ——いや、そんな事はないか、期待はしないでおいた方がいい、何事も。


 俺は電車に乗り家に帰った。

 ふと携帯を見ると母親からの着信が数件溜まっていた。 いけない、突然の出来事すぎて夕食を外で食べることを母親に伝え忘れていた。

 ビクビクしながら自宅マンションに戻ると、俺の家の前の廊下に立っている人のづがたが見えた。 あれは玲奈だな、何をしているんだろうか。


「玲奈?」

「か、帰ってきたのね! 今星を見てたの!!」

「星? こんな明るいのに星なんて見えるか?」

「わ、私はあんたと違って視力がいいから見えるのよ! そんな事より、今日は何してきたの?」


 玲奈がチラチラと俺の顔を見ながら聞いてくる。


「ああ、この前のお礼で彩がご飯奢ってくれたから食べてきた」

「な、なるほどね〜〜! あんたについに彼女が……!なんて思っちゃったわよ! そんな事ありえないわよね!!」

「俺は永遠の非モテ族だと思います」

「そうよね! あ、もう遅いし部屋に戻るわ!」

「お、おう。 じゃあな」


 玲奈は満遍の笑みを浮かべたまま自分の家に帰っていった。

 幼馴染の俺には分かる、最近玲奈の挙動がおかしい。


 俺も家に入ると、リビングの前で仁王立ちしている母親の姿が目に入った。

 経験上、この顔をした母親はかなりブチギレている。 こういう時は屈服の姿勢で挑まなければならない。


「こんな時間までどこ行ってたの」

「帰りが遅くなり申し訳ございません。 友人とご飯に……」

「だったら連絡しなさい! 物騒な事件が起きてるっていうのに連絡もなしだなんて信じられません!」

「も、申し訳ないです」


 俺が謝ると暫く間が空いた。 俺の申し訳なさそうな表情を見て今後の処遇をどうするか検討しているんだろう。


「分かればよろしい、早くお風呂に入っちゃいな」

「お風呂を準備いただき有り難うございます」


 危なかった、上手く乗り切れた。

 以前家の貯金箱からお金を抜き出してソシャゲに課金した時は、1週間ほどずっとブチギレられていた。 今回はそれは回避できたようだ。


 俺はすぐに風呂に入り、自分の部屋に戻った。

 四聖剣のうち3人はもう戦わなくてもいい、残るは四聖剣1人と王だけだ。

 ソラスの様に話が通じる相手ならいいが、それは無理だろう。 となると戦って俺が勝たないといけない。

 少し緊張をしつつも、俺はベッドに入り異世界に向かった。


 ********************


 何だか首が痛い……

 そうか、俺はソファの上で寝たんだった。 手すり部分を枕代わりにして寝たが、高さが合わず寝違えてしまった様だ。

 ふと周りを見るとセリカは机で突っ伏して寝ており、レナはもう起きて小屋の片付けをしている様だった。

 レナは俺が起きた事に気づくと神妙な面持ちで俺に話しかけてきた。


「レン様、大事なお話があります」

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