第二十八話 意識
「レンさん起きてますか?」
俺のベッドに潜り込んできたのはセリカだった。
突然どうしたんだ、前ベッドに入ってきた時は寝ぼけてたなんて言ってたが、今回は話しかけてきている。
そして女の子とベッドに入っているという事実が俺を極限の緊張状態にしている。
心臓がバクバクと強く脈打っており、セリカに音が聞こえているんじゃないかと心配になってしまう。
だが、俺は寝たふりを続ける。
「もう寝てますか?」
「……」
「よし、寝てますね」
セリカは俺の手を握った。
柔らかくて暖かい。
「レンさん、普段恥ずかしくて言えないけど、伝えたい事があるんです」
「……」
セリカはいつもの元気な声ではなく、小さく優しい声で話している。
「突然レンさんが私の前に現れるまで、家で一人お父さんとお母さんの事を考えていました、不安に押しつぶされそうになりながら。」
「……」
「もちろん今も不安です。 だけどレンさんが私を連れ出してくれて、色んな人に会って、いろんな場所に行って、私の心が少しづつ晴れてきてるんです」
「……」
「レンさんといると、心が暖かくなるんです」
「……」
「私にとってレンさんは……」
これ、もしかして告白される流れじゃないか?
告白されるのなんて人生初めてだ。
こんな時どう回答すればいいんだ。
ラブコメもののアニメはよく見るが、いざこの様な状況になると頭が混乱する。
そもそも、告白されたとして、どう回答するんだ?
YESか? NOか?
うーむ、セリカは可愛いと思うし性格もいい。
だが恋人という感じは……
「お兄ちゃんです!」
ん? お兄ちゃん?
という事は告白では……ない?
そう考えてるのも束の間、セリカは俺に抱きついてきた。
セリカの柔らかい感触に俺の心拍数はBPM200に到達しそうだった。
「セリカちゃん、何してるんですか?」
「あ、え!? レナさん!?」
「部屋に転移穴があったから覗いてみたらこんな事に……」
「えーっとこれは、寝るには肌寒くて!!」
「ここはボルグランですよ? むしろムシムシして暑くないですか?」
どうしよう、これが修羅場ってやつか?
とりあえず俺に罪はないと思う。
ここは寝たふり継続でも問題ないだろう。
「レン、あんたまだ寝てないわね?」
まずい、目は開けていないが玲奈の視線を感じる。
いや、口調といい性格といい、玲奈なのかもしれない。
俺がまだ寝ていない事は、
大人しく目を開けるしかないか……。
「あーあ、あれどうしたんだお前ら」
俺はあまりにもわざとらしい
「れ、レンさん本当に起きてたんですか!?」
「いや起きてたっていうか寝てたっていうか
セリカの顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「レンさんのバカーー!!」
セリカは転移穴を通って自分の部屋に帰っていった。
玲奈が部屋に残っている、俺は彼女にお叱りを受けるのだろうか。
「レンはセリカちゃんの事が好きなの?」
想定外の質問が飛んできた。
「な、仲間として好きだぞ!」
「ふーん?」
玲奈は
「まあいい、おやすみ」
玲奈はドアを開け、自分の部屋に帰っていった。
なんだってんだ一体。
俺はそのまま深い眠りについた。
****************************
目が覚めた。
遅刻ギリギリだったので急いで家を出たものの、玲奈と会うのがなんとなく気まずい。
教室に入ると、もう玲奈は自分の席についている。
そこから学校が終わるまで玲奈と目が合う事はなかった。
ここはいっそこっちから話しかけてみるか。
案外ケロっとしてるかもしれない。
「な、なあ玲奈」
「何?」
また爪楊枝の様な細い目で俺をみる。
「やっぱり昨日の夜って玲奈だよな?」
「私じゃないわ、あっちのレナよ」
それは無理があると思う。
この雰囲気、完全に昨日の晩と同じだ。
「じゃ」
レナは俺を置いてスタスタと歩いていった。
「お? ケンカか?」
俺と玲奈の様子を見ていたであろう唯斗が後ろから声をかけてくる。
「ケンカではないぞ、少なくとも俺はそう思ってない」
「という事はお前が何かやらかしちまったんだな」
「何かあったかといえばあったけど、玲奈には関係ない事だぞ」
「そう思ってるのはお前だけって事だよ」
唯斗が何かを察した様に笑っている。
「ま、俺としてはケンカしてもらってた方がライバルが減っていいんだけどな!!」
「ライバルって、俺と玲奈はそんなんじゃねえよ!!」
「まあまあ、仲良くしようぜ! そういえば昨日の夜とか言ってたけどなんかあったのか?」
「ま、まあちょっとな!」
「ふーん?」
唯斗は俺を疑いの目で見てくる。
何となく感が鋭そうな男だ、異世界のこともいつか隠し通せなくなる気がする。
「じゃあまた明日な!」
「おう」
俺は暫し唯斗と話をした後、家路についた。
向こうの世界に行ったらついに仕事が始まる。
人生で一回も仕事なんてした事がないもんだから、不安と同時に少しのワクワク感もある。
俺は寝る支度を終え、現実世界で眠りについた。
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