第二十七話 支配人の厚意

 街で出会った少女、フェラルに連れられたどり着いたのは話で聞いていたのとはまた少し様子が違う宿だった。

 宿と聞くと少し薄汚れていて、寝れればいいくらいの場所をイメージしていた。

 シェフと言われて若干嫌な予感はしていたが、予感は的中してしまった。


「これが…… 宿?」

「さあ、早速支配人に挨拶だ!」

「ちょっと待ってえぇぇぇぇ」


 俺はフェラルに手を引かれ、俺は建物の中に入った。

 内装はとても綺麗で、受付にはなかなかお目にかかれないレベルの美人が立っていた。

 ダークブラウンカラーのロングヘアーが大人の色気を感じさせる。


「ダリルさん、シェフの代わり見つけて来たぜ!!」

「あら、ホント? 助かるわぁ、これでまた通常通り営業できるわね!」


 受付のダリルという女性は俺のことを見た。


「あなたがシェフね、歓迎するわ」

「いや、連れてこられただけで料理なんて一度も………」

「じゃあ次は支配人な、こっちに来てくれ!」


 フェラルは俺が言葉を言い終わる前に俺の手を掴んで別方向に走り始めた。

 レナとセリカはなんともいえない顔でこっちを見ている。


「ちょっと話だけ済ませたら行くからチェックインしといてくれ!」

「わ、分かりました」


 フェラルに連れられ、建物二階の一番奥の部屋にたどり着いた。


「ここが支配人の部屋だ、挨拶だけしてくれ」

「ちょっと待て、俺の話を聞いてくれ!」


 俺の言葉はまるで聞こえていないかのように、フェラルは容赦無く扉を開いた。

 部屋には白髪のよく整えられた髭がどことなくダンディーな男性が立っていた。


「これこれフェラル、そんなに急いでどうしたのかね?」

「支配人! 見つけて来たよ、シェフ!」

「この青年がかね? 初めまして、支配人のターナーです」

「初めまして俺はレンです。 こんなことになって申し訳ないんですが、俺料理なんてした事ないんです」

「はて、料理をした事がない。 ならなぜシェフに?」

「とりあえずお試しでってお願いしたんだよ! レンが仕事ないかな〜なんてぼやきながら歩いてたもんだから」

「なるほどねぇ、でもフェラル、料理ってのはそんな簡単にはできないんだよ」

「で、でもシェフの指示通りにレンが動けば、料理くらいできるだろ?」

「それがそうもいかないんだよ……」

「く、くそ! じゃあ次は料理した事ある人を連れてくるぜ!」


 そう言ってフェラルは俺の存在なんてもう忘れてしまったかの様に扉の外に駆け出していった。


「フェラルが突然失礼したね、悪い子じゃないんだ、許してやってくれ」

「いえ、それに俺も今日の宿を探してるところだったので丁度いいです、ここに泊まらせていただきます」

「なら今日はお代は要らないからくつろいでいかれるといい、せめてものお詫びだ」

「あ、ありがとうございます! 助かります!」

「そういえば仕事を探しているとか言っていたね?」

「はい、このボルグランに滞在してる間だけでも働ければと思っているんですが……」

「ならシェフは無理だが客室清掃なんて仕事はどうかな? 給料は1日銅貨80枚だが」

「本当ですか! それなら俺にもできると思います!」

「よし、じゃあ早速明日のお昼から頼むよ。 今はフェラルが全部の部屋を一人で清掃しているから、要領を教えてもらいつつ手分けしてくれ」

「分かりました」

「じゃあそういう事で、今日の部屋は受付のダリルに言って鍵をもらってくれ」

「ありがとうございます」


 俺は部屋を出て受付に向かった。


「あら新米シェフさん、支配人には会った?」

「はい、結局俺は客室清掃をすることになりました」

「そうなの、今はフェラルちゃんが一人でやってるからね、それでも助かるわ」

「これからよろしくお願いします、あと支配人が今日はここに泊まっていけと、ダリルさんに鍵をもらう様言われました」

「あらそうなの、じゃあどの部屋にしようかしら、さっきの子達と近い方がいいわよね」

「できればお願いします」

「じゃあこれ、202号室! 201号室にさっきの子達がいるわよ」

「すみません、有難うございます!」


 俺は鍵を受け取り自分の部屋に向かった。

 鍵を開け部屋にはいると、そこには見るからにふわふわなベッドとソファが置いてあり、窓からはボルグランの美しい街並みが見えた。

 正直、現実世界でもこんなにいい部屋に泊まった事はない。

 これは今日の模擬戦の疲れが取れそうだ。

 そんなことより、突然の状況に困惑しているレナとセリカに事情を話さないと。


 俺は部屋を出て201号室のドアを数回ノックした。

 ドアが開き、中からひょこっとセリカが顔を出す。


「さっきは置いていってごめんな、あの後どうなったのか話したいんだけど」

「はい、じゃあ中にどうぞ」


 セリカの態度が若干冷たい様な気がするのは俺だけだろうか。

 とりあえず、あの後の出来事をレナとセリカに伝えた。


「じゃあ、結局ここで働けるんですね?」

「ああ、この部屋も明日俺がガッツリ清掃してやるぜ!」

「清掃の必要もないくらいに綺麗に使いますよ!」


 やっぱりセリカはツンツンしている。


「まあそういうことだから、明日の夕方まで俺はお仕事みたいだ、レナとセリカはどうする?」

「特に行く宛もないですし、連泊ということでこの部屋にいましょうか」

「そうしましょう! 動物園に行ってみたいですけど、レナさんは興味ないんですもんね?」

「はい、できれば行きたくないです」

「ですよねぇ〜」


 多分セリカは動物園に行きたいんだろう。

 どこか合間を見て一緒に行くか。


「じゃあ今日はこの快適空間でのびのびとするか!」

「そうですね、レンさんの部屋はどこなんですか?」

「隣の部屋だぞ、ここと殆ど同じ間取りだ!」

「ちょっと見てもいいですか?」

「ああ、特に面白いこともないと思うけどな!」


 俺はセリカに自分の部屋を紹介した。

 違いは家具の配置くらいなので、セリカはさっと見てすぐ部屋に帰っていった。


 俺は部屋備え付けの風呂に入り、ふかふかのソファとベッドをこれでもかと言わんばかりに堪能した。

 ただ疲労から眠気が襲ってくる。

 俺は明かりを消して、寝る態勢に入った。

 現実世界は特に事件も起きてないし、学校に行くだけだから気楽なもんだ。


 まぶたが重くなる、もう眠りにつく、その瞬間だった。

 ベッドに誰かが入ってきた。

 無意識に寝たふりをしてしまう。

 一体誰なんだ。


「レンさん起きてますか?」


 声の主はセリカだった。



〜〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜〜



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