第二十三話 ボルグラン散策

 病院のベッドで目が覚める。

 体調は悪くないどころかすこぶる良い。

 昨日まで氷漬けになって死にかけていたとは思えない。


 身体の調子を確かめていると、部屋のドアが開いた。


「あ、レンさんもう起きてる! お身体の調子はいかがですか?」


 セリカとレナが迎えに来てくれた様だ。


「びっくりするくらい良いよ、良いお医者さんがいたもんだ」

「お医者さまは手を当てていただけなんですけどね!」

「何それ、ハンドパワーってやつか?」

「ワシの能力じゃよ」


 あまりの存在感の無さに、老人が部屋に入ってきたのに気づかなかった。


「あ、治療してくださってありがとうございます」

「なになに、代金はこのお嬢ちゃんから貰っとるし、気にせんでくれ」

「立替えてくれたのか、あとで払うな」

「え、いえいえ大丈夫です! 私の用事に付き合わせてこんな危険な目に遭ってるので気にしないでください!」

「それと治療費とは話が別だろ? 女の子にお金出してもらうってのもちょっとカッコ悪いしな」

「えっと…… 実はですね」

「実は?」

「治療費、レンさんの所持金じゃ払えないと思います……」

「え」


 もしかして俺、今すごいダサい事になってないか?


「ワシの治療は気力を使うからの、相応の代金はもらっておるぞ」

「ち、ちなみにおいくらで……?」

「金貨3枚じゃ」


 金貨3枚!?

 価値を日本円で表すと30万円とかするんじゃないか?

 そんな大金現実でも持った事ない。


「セリカ……」

「はい?」

「出世払いで!!」

「わ、わかりました!!」


 俺はこの世界で金貨3枚分の借金を負った。

 ただでさえ働いていなくてお金がないんだ。

 修行の合間にどうにかしてお金を稼ぐ手段を見つけなければ。


「じゃあ、お世話になりました、行ってきます」

「また瀕死の怪我をしたらここに来るんじゃぞ」

「なるべく来る事がないよう頑張ります!」


 俺たちは荷物をまとめ、不思議な老人がいる病院を後にした。


「さて、いよいよハウエルさんにご対面か」

「はい、私がご案内します」

「頼む」


 レナに連れられ、南の都を歩く。

 南の都は気温が高く、住民は薄着の人が多い。

 都の中心には大きな湖があり、湖を泳いでいる人も見える。

 ここにも人間の姿しか見当たらないが、人種は現実世界で言うラテン系の人が多いように見える。


「西の都とは全然雰囲気が違うんだな」

「それぞれの都はもともと違う集落から成り立っていますからね、文化も違えば人種も違います」

「なるほどね、それにしても暑いな…… こんな場所だと思わなかったから涼しい服なんて持ってきてないぞ……」

「私もです、このまま溶けちゃいそう……」


 セリカの顔がどんどんシワシワになっていく。

 後1時間もすれば完全に溶けてしまいそうだ。


「ちょっとあの洋服屋で何かないか見てくる」

「あ、あの店は」


 俺とセリカは近くの洋服屋に向かい、店の扉を開いた。


「ハァァイ、バーニーズ衣服店へようこそォ!!」


 俺たちは開けた扉をサッと閉じた。


「ちょっと待って!! 何ですぐ帰っちゃうのよォ!!」

「ただでさえ暑いのにキャラが猛暑すぎて入れませんでした」

「大丈夫大丈夫!いずれ慣れるわ!!」

「慣れたくないです」

「そんな事言わずにぃ!!」


 俺たちは無理やり店内に戻された。

 店員はオネエ感あふれるゴリゴリマッチョだ。

 それに加えてこのキャラである、熱中症になりそうだ。


「この店に来たってことは服を探してるって事でしょ??」

「ああ、涼しい服を探してて」

「ならこれがおすすめよ!! 新発売のスーパークゥゥゥル!!」


 店員はマネキンが来ている半袖のTシャツを指さした。

 騙されたと思って生地を触ってみる。


「何だこれ、濡れタオルみたいに涼しいのに濡れていない!」

「これさえあれば、ここボルグランでも快適に過ごせるわよォ」

「うーむ、いくらですか?」

「一着銅貨50枚よ!」

「安い! 買った!」


 俺はこのスーパークゥゥゥルってやつを買った。


「これってレディースもありますか?」

「あら、お嬢ちゃんもスーパークゥゥゥルが欲しいのね!! レディースはこれよ!!」


 店員は店の奥のマネキンを指さした。

 メンズと比べて、布の面積が少ない気がする。

 というかヘソ出しスタイルだ。


「え、あれしかないんですか!?」

「前までTシャツスタイルのもあったんだけどね、売り切れちゃったのォ」

「じゃあメンズで……」

「良いの? ダボダボで膝くらいまで丈が来ちゃうかもしれないけど……」


 セリカは悩んでいる。

 確かに小柄なセリカが普通のメンズサイズを着たらダボダボだ。

 今後過酷な修行が待ち変えているかもしれない。

 そんな中ダボダボな服では成長の妨げになる。

 ……そんなのは建前でセリカがヘソ出し服を着ている姿を見てみたい。


「セリカ、レディースにしよう」

「でもおヘソが見えちゃいます……」

「大丈夫だ、俺は見たい」

「え……?」


 ——自分の本心をストレートに口に出してしまった!!

 セリカの目線が痛い、俺の顔に目線が刺さっている。

 いやまて、セリカは分かる。 何で店員までそんな目で見るんだ。


「セリカが涼しい服を着て喜んでる様子がって意味だ!!」

「お嬢ちゃん、気をつけなね。 こいつ涼しい顔して猛獣よ」

「はい、今後はなるべく距離を取って歩くようにします」


 俺に対するセリカとオネエ店員の評価が大幅に下がった。


「そんな事より、早くハウエルさんに会いに行くぞ!」

「え、ハウエル? 私に何か用?」

「え!?」


 当初のイメージとは異なり、ハウエルはガチムチオネエだった。

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