第二十二話 レナの過去

「セリカちゃんのご両親もそうだけど、レナの母親もおそらく王都に幽閉されているから」

「レナの母親?」


 玲奈の表情が暗くなる。

 それは同時にレナの表情でもある様に見える。


「不思議だと思わない? 現実世界に空間転移テレポートだなんて。 私にはできないから分からないけど、それって転移先をイメージできなきゃ転移できないんでしょ?」

「ああ、少なくとも一度行った場所じゃないと転移できないな」

「なのになぜこの世界の人間が現実世界に転移できるのかしら」


 それは俺も疑問に思っていた。

 確か唯斗に話を聞いた時、それっぽい事を言っていた。


「"座標"……?」

「そう、空間転移テレポート持ちにその座標を認識させて現実世界に転移してるんだと私は思う」

「その座標ってまさか……」

「恐らく生きた人間ね。 どんな方法かは分からないけど」


 そんな非人道的な事をするなんて、この王国は狂っている。

 いや、この王国に限ったことではないのかもしれない。

 現実世界においても過去に目を向ければ人体実験を平気で行っていた国もある。

 これが人間の本質なのか。


「レナの母親が座標になっている可能性があるってことか」

「そういうこと。 レナの母親も能力スキル次元超越ディメンションシフトだから現実世界の事もイメージできるはず」

「王は次元超越ディメンションシフト持ちも探しているとゼラートが言っていたな。 そう考えると全ての辻褄が合う」

「途中からは推測だけど、私は間違い無いと思うわ。 この世界の人間が現実世界を侵略したら、多くの人が死ぬ。 それに、別世界の自分の母親がこんな目に遭っているんだもの。 何か手はないかと考えてあんたをこの世界に呼び出した」

「状況は分かった。 俺の能力スキルがそこまで役に立つかは分からないけど、できるだけの事はしてみる」

「お願い。 じゃあ私はそろそろ現実世界に帰るわね、あんたはいつも通り寝て帰ってきて」

「分かった」


 レナの顔がまたいつもの平然とした顔に戻る。


「玲奈がペラペラと喋っていましたが、私の母のことに関してはお気になさらず。 あくまで推測の話なんで」

「でも信憑性のある推測だと思うぞ」

「そうですね、でも私は母親の顔すらまともに覚えていないんです。 そんな他人の様な人がどんな事になってるのかなんて正直知ったこっちゃありません」


 珍しくレナが不機嫌そうだ。

 母親の事が憎いのだろうか。

 今はそっとしておこおう。


「まあ、セリカの両親が王都に捕らえられているのは確実だし、今後の方針に変更はないな。 ここで修行して力をつけて王都に乗り込む」

「私も修行して強くなります!!」


 セリカはガッツポーズして見せる。

 正直現段階では戦力にはならなそうだ。


「じゃあハウエルって人に会いにいくか……」

「レン様、1日絶対安静です」

「そうだった……」

「今日はもう夜になりますので、失礼になるかもしれません。 また明日の朝訪問してみましょう」

「そうだな」

「私とレナさんはどこかで宿をとって寝ますので、レンさんはここで安静にしていてくださいね!」

「ああ、明日に備えておく」

「じゃあ、おやすみなさい!」


 レナとセリカは荷物を持ち部屋を出て行った。

 病室のベッドで一人、特にする事もないので俺は眠りについた。



 ****************************



 俺は現実世界に戻った。

 今日は自宅学習期間も明け、登校日だ。


 最近は行方不明者も出なくなった物だから、ニュースはすっかり別の話題になっている。

 政治家が失言しただの、芸能人が不倫しただの、どうでもいい内容ばかりだ。

 行方不明者はまだ見つかっておらず、生死すら不明なんだ。

 そんな中で人の揚げ足をとる様なニュースばかりで何とも言えない気持ちになる


「じゃあ、行ってきます」

「はい、気をつけてね」


 俺は重い扉を開き、玄関を家でた。

 相変わらずこの物騒な世の中だ。

 空間転移テレポート通学はせず、普通に公共交通機関で通学する事にしている。


 相変わらず、遅刻ギリギリで教室に着く。

 そこには唯斗の姿があった。


「唯斗、もう腕大丈夫なのか?」

「お、ウィース! 折れたって言っても真っ二つってわけじゃないし、思ったより早くギブスも外れるらしい」

「それは良かったな」

「ああ、今となってはあまり現実感ないぜ、人に腕を掴まれて骨折だなんてな」

「犯人、捕まるといいな」

「な。 でも今時鎧を着て誘拐だなんて、異世界からの来訪者とかだったりしてな!」


 唯斗はあくまで冗談っぽく言っているが、それが真実だ。


「異世界なんて、アニメの見過ぎだぞ」

「それはお前にだけは言われたくない」


 始業のチャイムが鳴る。

 俺たちは席につき、退屈な授業を受けた。


 そういえばそろそろ進路を決めないといけない。

 現実世界では俺はただのバカ学生だ。

 それに加えて特にやりたい事もない。

 異世界からの侵略を阻止しようと奔走している訳だし、仕事としてお国からお給料をいただきたいくらいだ。

 そんな非現実的な事を考えているうちに学校が終わった。


「レン、一緒に帰るわよ」

「へえへえ」

「ちなみに大丈夫だとは思うけど、異世界のことは周りには言ってないわよね?」

「勿論、言っちゃまずいのか?」

「そりゃ頭おかしいと思われるだろうし、今以上にクラスで浮いちゃうわよ」

「そこに関してはあんま気にしてないけどな、まあ言わないでおくよ」

「そうして」

「なあ、玲奈は進路決めたのか?」

「私は成績優秀だからね、勿論大学進学よ」

「そりゃ大したこった、俺なんて本当に何も取り柄ないからなぁ」

「……ないなんて事ないわよ」

「え?」

「何でもない!! じゃあまた明日!!」


 レナが早歩きになる。


「あ、私と同じく可愛いからってレナに手出したりしたらダメだからね! レナの中で見てるから!」

「自分で可愛いって言ってる…… 言われなくてもガチ陰キャにそんな勇気はありません」


 どうせ家は隣なんだからそんなに急いで帰る必要もないのに。

 それは置いといて、次は異世界で修行だ。

 効果があるのかは分からないが早めに寝て体力を温存しておかないとだ。


 俺はそのまま家に直帰し、ルーティーンを終えた後就寝した。

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