第七話 首長の屋敷
この店員、もしかして王都の人間か!?
「ごめんごめん、そんなに身構えなくていいよ。 僕はもう政治の道から離れた人間だから」
「離れた? 前は政治家だったんですか?」
「兄がこの都の首長をしていてね、僕もその手伝いをしていたのさ」
「お兄さんが首長!?」
シエラはこの事を知っていて俺にこの店を勧めたのかもしれない。
これがシエラが言っていた"良いこと"か。
「そうそう、この
店員は笑顔だが、この
しかしおそらく首長はもっと強力な
「あ、自己紹介がまだだったね。 僕はエリス、よろしくね」
「俺はレンです、さっきの話なんですけど」
「王都に連れて行かれた人がどうなったかだよね。 僕も立ち話をチラッと聞いただけだし、兄に直接話を聞いてみた方がいいかもしれないね」
「でも首長ですよね、俺なんかの話聞いてくれないんじゃ」
「僕の友人ってことでディナーに招待すれば話す機会はあると思うよ。 大丈夫、僕たち一族は昔から王に不信感を抱いているから、捕まったりはしないさ」
これは願ってもない展開だ。
首長から直接話を聞けるかもしれない。
「でも何で出会ったばかりの俺にこんなに良くしてくれるんですか?」
「何故だろう、初めて会った気がしないからかな」
エリスはニコニコ笑っている。
「閉店後にまた来てくれよ、そしたら家まで案内するから」
「家、ですか?」
「うちの一族は同じ家に住んでるからね、僕の友人として招待するよ」
「あ、ありがとうございます! また来ます!」
そう言って俺は店を後にした。
早くこの事をセリカに伝えなければ。
市場の方に向かうと満遍の笑みで両手のアイスを頬張るセリカがいた。
「れ、レンさん! 違うんです! 買ったんです! 盗んでません!」
「お金なんて持ってたのか?」
「はい! お父さんお母さんの仕送りがまだあるので!」
「なるほど。 あ、そんな事より色々あって都の首長に会うことができるかもしれない」
「本当ですか!? 私もいきます!」
「いや、話が本当かわからないし、首長にも王の息がかかってるかもしれない。 そんなところに
「確かに……」
セリカが下を見つめる。
自分の父親母親探しに俺を付き合わせてる事に負い目を感じているんだろう。
「大丈夫、俺も故郷のことを聞きたかったしな。 とりあえず今回は俺が行ってみるからセリカは宿に戻っておいてくれ、今晩の宿代はあるか?」
「はい、まだ仕送りは結構残ってるので大丈夫です。 レンさん、危険な匂いがしたらすぐに逃げて来てくださいね」
「もう
セリカとは市場で別れ、美容室の閉店時間まで付近で時間を潰す。
この間に衣服店に行き、またおまかせでみすぼらしく見えない服を見繕ってもらった。
美容室に戻ると、エリスが笑顔で出迎えてくれた。
「よし、仕事も終わったしじゃあ行こうか」
「お願いします、エリスさん」
「エリスでいいよ、今日は友人ということで我が家に来るんだから」
「あ、そっか。 よろしくエリス」
エリスの年齢はで20代半ばといったところか。
年上の人間にタメ口というのは違和感がある。
「そういえばレン君はどこの出身なんだい?」
「あ、えっと…….すごい遠いところで多分エリスは知らないと思う」
「ならすごい距離を移動して来たんだね、羨ましいな。 僕は生まれてから一回もこの都を出たことがないから」
「何か理由があって出られないのか?」
「僕は生まれつき身体が弱くてね。 おまけに
由緒ある一族ってのも大変だな、いつでも外に出られるのに家に篭ってアニメを見てる自分が少し恥ずかしくなった。
「あ、そういえばエリスは世界と世界を繋ぐ
「世界を繋ぐ? まるでここ以外にも違う世界があるみたいだね。 残念だけど僕は聞いた事ないな」
「そっか、やっぱそんな異次元の
「まあまあ、僕が知らないだけで他の人は知ってるかもしれないから。 あ、着いたよ、あそこが僕たち一族の家だ」
そう言うとエリスは街の中心の大きな風車を指さした。
よく見ると風車の下部は大きな屋敷になっている。
世界史の教科書に掲載されていた様な、洋風の屋敷だ。
窓からは暖色の光が漏れ出しており、その隙間からキラキラと輝くシャンデリアが見える。
そして屋敷の前には大きな庭が広がっており、様々な植物が色鮮やかに咲き乱れている。
「さあ入って」
エリスが屋敷の扉を開ける。
すると目の前で2人のメイドがお辞儀しているのが見えた。
これくらいの良家だとそりゃメイドくらいいるか。
メイド達が顔を上げると一人は知り合いに似た顔をしていた。
——いや似ているどころじゃない、俺が知っている顔と全く同じだ。
「玲奈!?」
俺は異世界で玲奈と全く同じ顔をした少女に遭遇した。
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