第八話 首長、ゼラート
「玲奈!?」
「あれ、知り合いなのかい?」
エリスは驚いた様子だ。
この反応から見るに、少なくとも名前はレナという事なんだろう。
「お前、何でこんなところに!」
「初めましてお客様、ようこそウィンダム邸へ」
レナは初めましてと言った。
あなたなんて知りませんよと柔らかく拒絶された気がする。
人違いなのか? でも外見は現実世界の玲奈と何も変わらない。
「あれ、人違いだったのかな。 でも名前まで一緒って凄いね、世界は広いんだなぁ」
「人違い……みたいですね、すみません」
レナは軽く会釈をして立ち去った。
「じゃあ早速食事にしようか、こっちに来て」
案内された部屋は歴史の教科書に出てくる様な豪華な部屋だった。
長細いテーブルの上に燭台が3本立っており、上品に部屋を灯している。
並んでいる椅子は背もたれ部分が高く、いかにも貴族といった様な感じだ。
「どうぞ座って。 あ、レナ、食事の時間と兄に伝えてきてくれないかな?」
「かしこまりました」
これまで会った人が話しやすかったから良かったが、俺は若干人見知りだ。
全く喋ったことがない人といきなり食事なんてあまり経験したことがない。
しかも相手はこの都を治めるお偉いさんだ。 緊張してしまう。
そんな俺の緊張をよそに、首長が入ってきた。
「王はこれ以上税を増やして何をしようとしているのだかな……」
そう言って入ってきた首長はエリスと殆ど同じ顔をしていた。
首長といいレナといい同じ顔のバーゲンセールかよ。
「あ、言い忘れてたね。 僕と兄は双子だよ、兄の名はゼラート」
同じ顔をしているのに納得がいった。
よく顔を見るとゼラートの方が目つきが鋭く、エリスの方が優しく目をしている。
ゼラートはそのまま席につくと、俺の存在に気づいた。
「おいエリス、そこの客人は誰なんだ?」
「今日は友人をディナーに招待したんだ。 彼の名はレン」
「は、初めまして。 レンです」
「エリスが友人を連れてくるなんて初めてじゃないか。 レンと言ったか、エリスと仲良くしてやってくれ」
良かった。 首長ということで緊張していたが、どうやら悪い人じゃなさそうだ。
目の前に食事が運ばれてくる。
見るからに高級そうな料理だ。
高級料理店なんて行ったことがないものだから、作法が分からない。
分からないながらもなるべく上品な装いで食事をいただいた。
一通り食事が終わった後、ゼラートが話しかけてきた。
「エリスとレンはいつから知り合いなんだ?」
「今日僕の店に髪を切りに来てくれたんだよ。」
「今日知り合ったのか、打ち解けるのが随分と早いな」
「レン君が面白そうな話をしていてね、どうやら
エリスがそう言った瞬間、これまでの和やかな食事会の空気は一変した。
ゼラートの俺を見る目が明らかに変わっている。
エリスはこんな状況でもまだニコニコしている。
「なるほどな、何故そんな事を探っているんだ?」
「いや、噂で聞いて……」
「嘘は通用すると思うな、身の回りに
「……」
ここにセリカを連れて来なくて良かった。
この空気感、セリカは捕まって王都に送還されていたかもしれない。
もしかしてエリスは俺を騙したのか?
「この件に首を突っ込むという事は相応の覚悟と
そうゼラートが言うと、密閉された室内にいるにも関わらず強い風が吹き始めた。
目の前の食器がカタカタと音を立て始め、何かが壁や棚から落ちる音がする。
首長とだけあって、エリスに髪を切って貰った時とは風の重みが違う。
まるで空気で出来たバットで身体中を殴られているかの様だ。
だがせっかく首長に会えたんだ、俺はここで引くわけには行かない。
「用事があるんです。 王都に行って
「王都の人間は厄介な
吹いていた強い風がピタリと収まったと思ったのも束の間、ゼラートの前に轟音を伴った大きな風の刃が出現した。長さは2m程だろうか、あんなものが飛んできたら俺の体は真っ二つだ。
想像を絶する轟音と光景に死が頭を過ぎる。
「君は怖いもの知らずすぎる、死をもって学べ」
ゼラートがそう言うと、風の刃がこちらに向かって飛んできた。
迫りくる死への恐怖から時間の進みが遅くなる。
どうすればいいんだ、避けるにももう間に合わない。
かと言って俺が出せる
何かないのか、できる事は!
——そうだ、これなら!
「
俺は目の前に大きな転移穴を出現させた。
風の刃は転移穴に吸い込まれる。
よし、うまく行った! あとは距離を詰めてエリスの
ゼラートは油断していたのか、風の刃は出していない。
後少しで
鼻に激痛が走る。 俺の体は後ろに倒れ意識が朦朧とする。
「意外とやるじゃないか、良いものを見せて貰ったよ。 それにしても我々一族の
「僕も驚いたよ、
二人の会話を聞いた後、俺は意識を失った。
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