第九話 王の企て

 鼻が痛い…… あれ、あの後俺はどうなったんだ?

 死んではない……よな?

 それはそうと何か頭の下に柔らかい感触が……

 目を開けるとそこには赤髪の女の子がいた。


「れ、玲奈!?」

「お目覚めですか。 お客様にも関わらず、先ほどはゼラート様が失礼しました」

「あ、そうか。 君は俺が知っている玲奈じゃないのか」

「どうやらその様です、私はあなたにお会いした事はありません」

「だよな。 それより、もしかしてだけど俺の頭の下にあるのって膝?」

「はい、ゼラート様が男なんて膝枕でもしとけばすぐに意識が戻るとおっしゃっていたものですから」


 俺は女の子の膝枕童貞を捨てた。 

 これが膝枕か、悪くない。

 悪くないけど…… これは俺には刺激が強すぎる!

 頭の下には女の子の膝、視線の先には女の子の胸!

 心拍数が上がっているのが自分でもわかる。


「も、もう意識戻ったから大丈夫!」

「まだ目覚められたばかりですので、暫く安静にしてください。 頭を強く打った様ですので」

「ほ、ほら元気元気!」


 俺は立ち上がり、レナの目の前で渾身の腕立て伏せを披露した。

 筋トレなんてしたこともないものだから、涼しい顔をしているが身体中が悲鳴を上げている。


「む、無理なさらないでくださいね。」


 レナがあわあわと慌てている。

 こう見ると現実世界の玲奈にはない奥ゆかしさを感じる。

 俺の前以外では玲奈もこんな感じなんだろうな、モテるのが少し分かった気がする。


「それで、俺はこの後どうすればいいんだ?」

「意識が戻られたらもう一度話をしたいとゼラート様がおっしゃっておりました」

「もう一度……か。 また殺されかけるのかな?」

「ゼラート様は目つきこそ悪いですがそんな事はされないはずです。 何より、ゼラート様が本気で能力スキルを使われていたら、レン様はとっくに死んでいます」


 首長の能力スキルはあんなもんじゃないってか。

 そういえば、首長の能力スキルも見たんだから、同じ技が使えるんだろうか。

 先程見た巨大な風の刃をイメージする。

 一応それらしいのは出現するものの、圧倒的に小さい。 エリスの散髪の時と変わらない。

 首長クラスの能力スキルとなると吸収ができないという事か?


「もう体調が戻られたという事であれば、ゼラート様の元へご案内しても宜しいですか?」

「気乗りはしないけど、行くしかないか」


 医務室の様な部屋を出て、広い廊下に出る。

 部屋を出るとそこにはエリスが立っていた。

 あんなことがあったって言うのにいつものニコニコスタイルだ。

 この人は笑顔以外の表情はできないんだろうか。


「やあレン君、気分はどうだい?」

「まだ鼻は痛いけど、貴重な体験ができたから気分は悪くはない」

「貴重な体験? あ、兄の能力スキルのことかい?」

「違うけどそれも気になる。 というよりなんでゼラートは俺を襲ってきたんだ?」

「これから兄のところに行くのならそれは直接聞いてくれ」

「はいはい。 ゼラートの能力スキルはエリスと同じ能力スキルなのか?」

「そうだよ。 うちの一族は殆どが風を操る能力スキルを持っていて、ただその中でも能力スキルの強弱は人それぞれなんだ。 兄は才能があるし、何より能力スキル進化のために幼い時から鍛錬を積んでたからね。 同じ能力スキルでも別の能力スキルみたいに見えるんだよ」


 つまりは能力スキル自体は吸収出来たけど、鍛錬の部分までは吸収出来ないって事か。

 同じ技を使うのは難しそうだ。 

 映画で見た様な豪華絢爛な廊下を進むと、突き当たりに大きな扉が見えた。


「あれが兄の部屋だよ。 僕はオマケみたいなもんだからレン君が先に入って」

「なんかさっきの事もあるし緊張するなあ。 入った瞬間また風がビュンビュン吹き荒れてたりして」

「大丈夫、兄が君に危害を加える事はないよ。 それだけは保証する」

「覚悟を決めるか…… 失礼します」


 俺はドアをノックした後、ゼラートの部屋に入った。

 ゼラートは執務机に腰掛け俺を迎え入れてくれた。


「さっきは突然すまなかったね」

「本当ですよ、こっちは死ぬかと思いましたから」

「生半可な気持ちでこの件に関わろうとすると後悔することになるだろうからな。 私の忠告に対して君は正面から向かってきた、相応の覚悟がないとあんな事はできない。 それに複数の能力スキルを使うなんて面白いじゃないか。 君ならこの狂った王政を変えられるかもしれない」

「王政を変えるなんてそんな大袈裟な。 俺は知り合いの両親を見つけ出したいだけで……」

「ふっ、そういう事情だったのか、だから情報を集めていると。 私に答えられることであればなんでも答えよう」


 聞きたい事はたくさんある。


「王都のどこに空間転移テレポート持ちが幽閉されているのかご存知ですか?」

「我々には空間転移テレポート持ちを捉え次第、王都の主宮下にある地下牢獄に連行する様通達が来ている。 そこから彼らがどの様な仕打ちを受けているのかは私も分からない。 ただ連行された後、音信不通になるのは間違いない様だな」

「勝手に色んな人を連れ去って、国民から不満が出たりしないんですか?」

「不満を言うのは勝手だ。 ただ不満を言って無事で居られるかが分からないから誰も声を上げないんだ。 首長である私もこの都に住む人々の事を考えると強くは出れない」


 ゼラートの顔が少し引きつる。


「王は空間転移テレポート持ちを集めて何をしようとしているんですか?」

「直接何かを聞いた訳ではないが、国家予算における軍事費の割合がここ数年で膨れ上がっていて、どこかに軍事的侵略をしようとしているのではないかと思う。 それに空間転移テレポート持ちが関係しているのではないかな」


 ゼラート、エリス、シエラから聞いた情報を纏めると、王は空間転移テレポート持ちを集め転移穴ポートホールを開き、他国を侵略をしようとしているという事になる。 

 こんなの現実世界で言う戦争と何ら変わりない。

 きっと多くの人が死に、悲しい思いをする。


セリカを両親に会わせる。

その目的を果たすには、立ちはだかる壁が思っていたよりも厚く、高い。


「他にも何か聞きたい事はあるかな?」

「なぜ俺が空間転移持ちと分かっているのに俺を捕まえないんですか?」

「確かにな、私は今すぐ君を捕まえて王都に連行することもできる。 だがエリスから聞いたかもしれないが我々一族と王族の間には昔から確執があってな」

「確執…… なぜそんな確執が?」

「——話はこの王国が建国された時代に遡る」

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