第十話 身体透過

 

「確執ですか、何故そんな確執が生まれたんですか?」

「話はこの王国が建国された時代まで遡る。初代の王がこの地に来たときに初めて友人とも呼べる存在になったのが我々の祖先なんだ」

「初代の王……」

「彼らは共に理想の世界を語り合い、当時複数の集落からなっていたこの地域を纏め上げ、王国を建国するに至った。 だが建国後、王の考え方は次第に変化していき、最終的には仲違いして今に至った。 不仲にも関わらずこの都の統治を任されているのはそういう背景だ」


 なるほど、そういうことだったのか。


「なるほど、ちなみに今の王は何代目なんですか?」

「今の王は5代目だ。 この国が建国されてから200年ほど王族がこの国を統治している」


 200年か、現代で置き換えると江戸時代の話か。


「あと最後に質問なんですが、世界と世界を繋ぐ能力スキルっていうのをご存知ですか?」

「君はとことん危ない案件に手を出そうとするな。 つい一昨日王都から指令が来たよ、”次元超越ディメンションシフト”というの能力スキルを持つ者を探せとね。 世界を繋ぐっていうのはこのスキルの事なんじゃないか?」

「本当ですか! という事は本当にそういう能力スキルが存在するって事なんですね」


 これは朗報であると同時に悲報だ。

 俺の日常を取り戻すためにも、王よりも早く見つけ出して話を聞かねば。

 この昼夜フル稼働生活も一生続けるのは厳しいものがある。


「色々と有難うございます、これからどうするかは考えてみます」

「その方がいい、無闇に王都に突っ込んでもすぐに捕まるだけだ。 どうしても知り合いの両親を探す様ならそれだけの実力と計画が必要だ」

「実力ですか…… 確かに今のままじゃこの先が思いやられます」

「そこでだ、まずは私の知り合いの下で実力を磨くっていうのはどうだ。 南の都にそれはそれは強い男がいてな。 強いと言っても私のおな……少し下くらいだが」


 ゼラートはプライドが高い様で、自分と同じ強さと言いたくないらしい。

 これから先、ゼラート級の能力スキルを持った敵が現れたときに対処ができない。

 俺はせっかくこんなチート能力スキルを持っているんだから、吸収するのも含めて行ってみた方がいいか。


「その友人がどこにいるか教えてもらえますか」

「ふふ、やる気だな。 いいだろう、レナ!」

「え、レナ?」

「彼女のスキルは旅路において役立つぞ。 そして何より同い年くらいの女の子と一緒に旅…… 何かドキドキしないか?」

「しますけど! めちゃめちゃにドキドキしますけど! メイドいなくなって大丈夫なんですか!」

「大丈夫、家にはメイドが二人いるからね、一人外出していたって問題はない」


 ゼラートは真面目そうに見えて時々突拍子もない事を言う。

 実は結構やんちゃな人なのかもしれない

 そんな話をしている内に、扉の向こうからレナが現れた。


「お呼びでしょうか」

「彼がハウエルの所に行くそうだ、道案内をしてきてもらえるか?」

「私が、ですか。 承知しました」

「いいの!?」

「ゼラート様の命ですので、お断りはできません」

「よし決まりだ、出発はいつにするんだ? 南の都までは馬車で7日ほどかかるが」

「じゃあ準備もあるんで明後日でいいですか」

「分かった。 レナ、馬車と食糧の手配をしておいてくれ」

「承知しました」


 とんとん拍子で話が決まっていく。

 帰ってセリカにも話をしないと。


「じゃあ今日はもう夜も遅いから解散としよう。 レン、強くなってこいよ」

「はい、頑張ります」


 俺は話を終え、ゼラートの部屋を後にした。


「では出口までご案内します」

「ああ大丈夫、俺これで帰れるから」


 俺は転移穴ポートホールを開いた。


「突然こんな話になっちゃってごめんな、何かで埋め合わせはするから」

「大丈夫です、ずっと屋敷にいるのも退屈ですし」

「そっか、じゃあまた明後日の朝にこの屋敷に来る」

「はい、お待ちしています」



 転移穴ポートホールを通り、サイモンズバーに帰ってくる。

 扉を開けて店内に入ると、またセリカがマコモサワーで仕上がっていた。


「レンさん、帰りが遅いです! 心配しましたよぉぉ」


 俺に気づいたセリカが飛びついてくる。


「ごめんごめん、首長と話し込んじゃって」

「てっきり罠にハマっちゃったのかと思いましたぁぁ」

「確かに一回殺されかけたな、でも結果良くしてもらったよ。 いろんな話も聞けたし」

「どどどどんな話だったんですか」


 セリカを殆ど目が開いていない。

 多分この様子じゃ今話しても明日の朝には忘れてるだろう。


「また明日の朝話すよ、そんなことよりお前飲み過ぎだ! 飲んだくれだ!」

「レンさんが心配で心配でなんでないとやってられなかったんですよぉぉ、私のせいで何回も危険な目に遭ってますしぃぃ」


 セリカの様子をみたシエラが笑いながら近寄ってくる。


「まあまあ、そんなこと言ってやるなよ。 セリカちゃん本当に心配してたんだから」

「それは有難いけど、でも泥酔してるのは違うだろ! もう少し量を抑えろよ!」

「ちょっとサービスしすぎちゃったかな? そんなことより、あの美容室いい腕だね、さっぱりしてかっこよくなってるよ!」

「あ、そういえば髪切ったんだった。 その後が濃密すぎて忘れてた」

「ふふ、やっぱりタイプだ。 どう? ウチと一緒にあっちで飲まない?」


 シエラが上目遣いをしながら体を密着させてくる。


「お、俺は……」

「だぁぁぁぁぁめですぅぅぅぅぅ」


 セリカが俺とシエラの体の間に入ってくる。


「レンさんはちょろいんですからぁ、そんなゆーわくダメです! 私の前でそんなハレンチな事!」

「じゃあセリカちゃんがいない時にするね?」

「それもダメです! そんな大きい胸してずるいです!」

「あれあれ? セリカちゃんもレン君の事誘惑したいのかな〜?」

「そ、そんな事ぉ!」


 セリカの顔は真っ赤だ。

 シエラはそれをみてクスクスと笑っている。


「そんな事より今日もここに泊まっていいか?」

「もちろんさ、この前と同じ部屋でいいかい?」

「できれば別の方が……」

「それだと部屋の料金倍になるよ?」


 うっ、無収入には厳しい一言だ。


「私は同じ部屋でいいですよ!」

「じゃあそうするか」

「はい毎度あり〜、この前言い忘れたけど奥にお風呂もあるからご利用くださいませ!」

「ご案内遅すぎるだろ!! じゃあ、お風呂いただくかな」

「はいどうぞ、着替えがないなら脱衣所の棚に置いてあるから使ってね〜」


 案内された浴場に向かう。

 男湯女湯は別れていない。


「セリカ、俺は後でいいから先に入っていいぞ」

「いえ、私お風呂セットを持ってくるのでレンさん先に入っといて下さい!」

「お風呂セットなんて持って来てたのか、ひょっとして家に戻ったのか?」

「流石にそれは難しいので今日散策してる時に便利屋さんでお泊まりセットを買いました! お肌のケアは大事ですからね!」


 便利屋…… 俺の世界でいうコンビニか。


「なら遠慮なく」

「上がったら声をかけて下さいね!」


 扉を開け脱衣所に入る。

 あまり広くはないものの、思ったより綺麗だ。

 服を脱ぎ浴室に入ろうとしたところで視界に文字が映った。


 “能力吸収スキルドレイン発動 身体透過インビジブルを会得しました”


「身体透過!? 誰だ!!」

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