第十一話 セリカの年齢

身体透過インビジブル!? 誰だ!!」

「え、何で分かるの!?」

「その声はシエラだな!」


 部屋の隅に陽炎のようなゆらめきが生じた後、シエラが現れた。


「へへ、レン君のお風呂シーン覗きたくなっちゃって……」

「この変態! 王都の奴らかと思ったぞ!」

「でも何で分かったんだよ! ウチの身体透過インビジブルはまだ誰にも見破られたことないのに!」

「それだけ俺が特殊な能力スキル持ってるって事だよ」

「どんな能力スキルなのか気になる…… そういえば身体隠さないんだね!」

「え!?」


 シエラの視点が徐々に下がる。

 まさに風呂に入ろうとしていた俺のボディーが見事にさらけ出されていた。


「ちょ、早く出て行け!!」

「はいは〜い、いいもの見させてもらったよ〜!」


 全く調子が狂う。

 年が近い女の子に裸体を見られたのなんて初めてだ。

 いや、小さい頃に玲奈にも見られたことあるか。

 気を取り直して俺は風呂に入り、脱衣所に置いてあった寝間着に着替えた。

 そういえば、この世界は文明の進みが少し遅いらしく、家電なんてものはない。

 なので当然、風呂上がりのドライヤーもない。


「そういえばエリスは風刀ウインドブレードで髪を乾かしてたな」


 見た光景を再現するイメージで、一度試してみる。

 能力スキルの発動と同時に強い風が頭を覆う。

 ものの数秒でびしょ濡れだった髪が乾いた。

 これは便利だ。


 階段を上がり二階の部屋に戻る。


「お先お風呂いただきました」

「あ、お帰りなさい! じゃあ次私が行ってきますぅ」

「行ってらっしゃいませ」


 まだ若干酔っているのか、いつもと違う口調だ。

 セリカは小さなポーチを持って浴場に向かった。

 これまで幼女だと思っていたが、ああいう様子を見ると年頃の女の子らしさを感じる。

 そういえばセリカは何歳なんだろう、帰ってきたら聞いてみよう。


 今のうちに長旅に必要なものをリストアップしておこう。

 食料と着替えと…… 

 そうこう考えているうちに30分ほど経った。


「あ、上がりました……」

「お帰りって、え!?」


 振り返ると明らかにサイズ違いのパジャマを着たセリカが立っていた。

 男性用なのだろうか、体の小さいセリカには大きすぎてブカブカだ。


「脱衣所にこれしか置いてなくて……」

「俺が入った時は小さいサイズも置いてあったぞ! もしかして……」


 これはきっとシエラの仕業だ。

 俺が脱衣所を出てセリカが来るまでの間に小さいサイズを隠したんだろう。

 けしからん、けしからんが…… なんか良い。

 彼シャツが根強い人気を誇る理由が分かる。


「子供みたいですよねこんな……」

「た、確かに小さい子供みたいだ」

「私あまり身長が伸びなくて…… それが悩みなんですよ…… 」

「つ、つかぬことを聞くけどセリカは今何歳なんだ……?」

「今年16歳です……」

「1つ下!?」


 てっきり6歳くらい下なのかと思っていた。

 いや、もっと下に見えるかもしれない。

 確かに、セリカが悩む気持ちも分かる。


「セリカ、大丈夫だ。 世の中にはロリコンという人種がいてだな」

「なんですかロリコンって……」

「幼女趣味っていうのかな。 俺の故郷には一定数のロリコンがいたし、需要は大いにあると思うぞ」

「レンさん幼女って言った! やっぱりそういう目で見てたんですね!!」

「せ、セリカ待ってくれ、俺は……」

「もう知りません! 寝ます!!」

「ま、待て! せめて髪を乾かしてから!」


 ベッドに向かうセリカを強い風が包む。

 突然の出来事にセリカは驚いている。

 風が止むと。濡れていたセリカの髪はすっかり乾き、いつもの髪型に戻った。


「髪を濡らしたまま寝ると翌朝寝癖が酷くなるし、髪にも良くないんだぞ」

「は、はい……」


 セリカの頬が少し赤い。

 やっぱりまだ酔っているのだろうか。


「さて、風呂にも入ったし今日は寝るか。 首長とした話は明日起きたら話すよ」

「分かりました!」


 そう言って部屋の灯りを消し、眠りについた。



 *****************************



 目を覚ますと俺はまた現実世界に戻っていた。

 もはや驚かない、俺は睡眠を契機に現実と異世界を行き来している。

 こんな生活をしているからもはや曜日感覚がない。

 ないけれども母親が俺を起こすために大声を出しているあたり、平日なんだろう。


 ベッドを出てリビングに向かう。

 今日の朝ごはんは白米と味噌汁と焼き鮭だ。

 相変わらずテレビにはニュースが映っている。


「行方不明者は増加の一途を辿り、未だ犯人は見つかっておりません。 警察は……」


 まだ犯人が見つかっていないのか。

 毎日これだけの人が行方不明になっているんだ、張り込みでもしていれば捕まりそうなもんだ。


 朝食を食べ終え、いつも通り学校に向かう。

 いつも通りと言っても、昨日から俺は空間転移テレポート通学だ。

 電車に乗る時間がないだけ、ストレスフリーな生活を得た。


 そこからはまたいつも通り、学校でのルーティーンをこなした。

 いつもと違う点といえば、昨日友達になった同級生の唯斗がちょくちょく話しかけてきたくらいだ。

 最初は鬱陶しかったが、慣れてくるとそこまで悪い気持ちはしない。


 帰り道、今日は玲奈が絡んでこなかった。

 忙しいんだろうか。 


 家で食事、風呂、アニメ鑑賞を済ませ、またベッドに入る。

 早くあっちの世界に行き長旅の準備をしなくては。

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