第十二話 不死鳥

 俺はまず目覚めると自分のベッドの中を確認した。

 良かった、今日は俺のベッドにセリカはいない。

 服を着替えようとベッドから出ると、シエラが部屋に入ってきた。


「おはよ〜! 毎度のことながら朝食です!」

「いつもの事だけどノックくらいしろよ!」

「いいじゃんいいじゃん! 私たちの仲なんだし!」

「いつからそんなにお近づきになったんだよ!」

「え〜〜ウチはもう友達以上だと思ってるけど一方的だったのかな……?」


 そう言ってシエラは俺のほうに近づいてきた。


「お着替えするんでしょ、服を脱がしてあげる」


 そんな台詞を耳元で囁かれたものだから身体がゾワゾワする。

 ふと隣を見るとさっきまで寝ていたはずのセリカが頬を膨らませてこちらを凝視していた。


「せ、セリカ! これはだな……」

「ハレンチ!!」


 枕が俺の顔面にジャストミートする。

 少女が投げたとは思えない、重い、いい球だった。


「あら、これからお楽しみだっていうのに〜」

「普通に着替えるだけだ!」

「途中から見てましたけど、レンさん満更でもないんですよね!」

「いやいや、俺はシエラの手なんて借りずにお着替えができる」

「嘘! 鏡で自分の顔を見てくださいよ!」

「俺は至って冷静……何っ!?」


 鏡を見て驚いた。

 俺の鼻の下はその可動域を大きく越える伸び方をしている。

 自分で言うのも何だが、サルみたいな顔だ。

 俺の陰キャプライドがこのハレンチな展開を受け入れていなかったが、身体は正直らしい。


「うん、これはシエラのせいだ」

「他人のせいにした!!」

「ふふ、朝食食べたら食器下に持ってきてくれると助かる! じゃあね〜」


 今日もまたシエラは嵐のように去って行った。

 置いていかれた二人の気持ちになってほしい。


「その件は置いといて、昨日の首長との話だ」

「はい」


 心なしかまだセリカの頬が膨らんでいるように見える。

 見て見ぬふりをして、昨日ゼラートとした話をセリカに伝えた。


「なるほど、王都に行く前に南の都に行って修行をされると!」

「そうだ、正直首長の能力スキルは圧巻だった。 あんなのが何人もいるとしたら、この先全く太刀打ちできない」

「そんなに……  私は南の都に行った事がないので空間転移テレポートはできませんが、ついていってもいいですか……?」

「ああ、いざとなればここにすぐ空間転移テレポートして帰ってこれるしな」

「はい。 今更ながら、私個人の問題に付き合っていただいて申し訳ないです……」


 セリカは俯きながら呟くように言った。


「そんなこと気にするな! 俺も故郷に完全に帰らなきゃいけないしな」

「レンさん……」


 セリカは顔を上げまたいつもの笑顔に戻った。


「ありがとうございます! それはそうと住んでる街に完全に帰るとはどう言う意味ですか?」

「あ、あーっ、こっちの話! 気にしないでくれ」


 話がややこしくなるだろうし、俺が異世界からこの世界に来ている話はまだしなくていいだろう。


「さて、南の都まで1週間はかかるそうだし今日は必要なものの買い出しに行こう」

「はい!」


 支度を済ませ、西の都の中心部に向かう。

 馬車と食料はゼラートが手配してくれるらしいから、用意するものは衣類と日用品だけでいい。

 順調に必要なものを買い進めていくと、街角に古びた怪しい店を見つけた。


「あのお店、何の店だ?」

「さぁ、見てみますか?」

「せっかくだし行ってみよう」


 店のドアを開け、店内に入る。

 店内に入ると、大きなカゴが置いてあり、その中にカラフルなタマゴの様なものが置いてあった。

 客が来たことに気づいたのか、店主であろう老人が店の奥から出てきた。


「いらっしゃい」

「すみません、ここは何のお店なんですか?」

「知らずに入ってきたんか、ペットショップじゃよ」


 ペットショップ……

 俺のイメージでは犬や猫を取り扱ってるお店だが、ここにはカラフルなタマゴしかない。


「このタマゴから何が生まれるんですか?」

「不死鳥じゃよ」

「不死鳥!?」


 俺の中二心が熱く揺れ動く。


「いくらなんですか?」

「1個金貨2枚で販売しとる」


 財布を覗き込む。

 最初にポケットに入っていたお金から諸々の費用が差し引かれて、残っているのは銀貨数枚だ。


「も、もう少し安くなったりしませんかね? 銀貨1枚とか……」

「レンさん不死鳥を飼うんですか!?」

「流石にそんなんじゃワシも飢え死にしてしまうわい。 あ、待てよ……」


 店主は店の奥に戻り、一つの小さなタマゴを持ってきた。


「これも不死鳥のタマゴなんじゃが、えらく小さくて孵るかが分からん。 賭けにはなるじゃろうが、これなら銀貨1枚でいいぞ」

「なるほど…… いただきます!」

「えっ、本当に買っちゃったこの人!」

「毎度あり、結構前に店に入荷したタマゴじゃから、生まれるとしたらもうすぐじゃな。 待っても生まれなかったら自然に還してやってくれ」

「分かりました!!」


 店主から青白い小さな卵を受け取り店を後にした。


「まさか買っちゃうなんて思いませんでしたよ!」

「不死鳥なんて男の子のロマンが詰まってるじゃないか……」

「私女の子なので…… でも不死鳥なんて珍しいですね、私も見たことないですよ!」

「名前何にしようかな……」

「聞いてないし!!」


 俺たちは長旅に必要な(?)物資を買い揃え、宿に戻り、次の日に備え早めに就寝した。

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