第二十五話 模擬戦

 俺はハウエルと模擬戦をすることになった。

 模擬戦と言えどもハウエルからは尋常じゃない殺気を感じる。

 殺らなきゃ殺られる、そう本能が俺に告げている。


「じゃあ遠慮なく……!」

「そう来なくっちゃ」


 ハウエルが笑みをこぼす。


 あの自信、恐らく正面から攻撃してもいななされるだろう。

 となるとまずは背後を取るべきだな。


 俺は地面を強く踏み締める。

 高速移動ファストムーブ


 猛烈なスピードでハウエルの右手を周り背後を取る。

 よし、ハウエルは俺のことを見ていない。

 あとは高速振動バイブレーションで脳震盪を……


「なかなかのスピードじゃない」


 ついさっきまで目の前にいたハウエルが消えている。

 そしてこの声は背後から聞こえる、一体何が起きた?

 ——俺の背中に鈍い痛みが走る。

 俺の体は予期せぬ方向からの衝撃を受け、前方に投げ出された。


「アナタ相当速いわね、それが能力スキルなのかしら? でも残念、ワタシはもっともっと速いわよ」

「ハウエルさんこそ、そのスピードは能力スキルなんですか?」


 俺は体勢を立て直しながらハウエルに尋ねた。


能力スキルなんて関係ない、純粋な身体能力よ」

「身体能力で能力スキルを超えるなんて、さすがは元四聖剣……」

「あら、知ってたの?」

「さっきレナに聞きました」

「まあ隠してるワケでもないし良いんだけどね、それよりワタシが剣を持ってたら今の攻撃でアナタ死んでるわよォ」


 ハウエルがまたニタニタと笑う。


「これで終わり? だとしたらワタシに教えを乞うにはまだ早いわね」

「まだまだですよ……!」


 単純にスピードで背後を取るのは無理だ。

 だとすれば他の能力スキルで動揺させてからにしてみるか。


 風刀ウィンドブレード……!


 無数の風の刀がハウエルの周囲を覆う。

 その直後俺は高速移動ファストムーブでハウエルの上空に飛び立った。

 背後がダメなら上だ、

 これなら……!

 ——足を掴まれている!?


 俺はそのまま地面に叩きつけられた。

 全身に強い痛みが走る。


「ちょっとびっくりしちゃった、これゼラートちゃんの能力スキルじゃない? どれがアナタの本当の能力スキルなの?」

「くっ…… まあ見ててくださいよ……」


 俺はかろうじて立ち上がった。

 ハウエル的には手加減しているんだろうが、それでも俺の体はハウエルの2回の攻撃でガタが来ている。


「おいで、人間っていうのはピンチの時に一番力を発揮できるのよ」


 こうなったら俺が使える能力スキルをフル動員するしかないか。

 この能力スキルは何が起きるか分からなかったからまだ使っていなかった。

 何が起きてもハウエルなら大丈夫だろう、本気でいく。


 ——絶対零度アブソリュートゼロ……!!


 俺の体から放たれた冷気は地面を伝ってハウエルを包み込む。

 ハウエルの周囲を薄い氷が覆い始める。

 よし、そのまま凍ってくれ、頼む。


「これはあの女の能力スキル…… アンタ一体何者っ?」

「まだまだ!!」


 これでハウエルはもう動けないはずだ。

 次元超越ディメンションシフトを試してみるか、いやこれはうまく制御できる自信がない。

 やっぱり高速振動ファストムーブで脳震盪を狙うか。


 その時だった、ハウエルを包んでいた氷がポタポタと溶け始めた。

 一体何なんだ、俺がまだ絶対零度アブソリュートゼロを使いこなせていないのか、それともハウエルが氷を溶かすだけの熱を発しているのか。


「ゼラートちゃんがアンタ達を寄越した理由が分かったわ」


 もうハウエルの周りの氷は全て溶け、ハウエルからは湯気が出ている。

 湯気は次第に陽炎かげろうに変わり、ついには真っ赤な炎となった。

 これが、ハウエルの能力スキルか……


 "能力スキル吸収発動、地獄業火インフェルノを会得しました"


 ゼラートは風、ハウエルは炎か。

 あんな炎に包まれたら骨も残らなそうだ。


「さて、もう良いわ。 アンタがどれくらいのレベルかっていうのは分かった」

「まだまだですよね、すみません……」

「良いのよ、変わった能力スキル持ちとはいえワタシに勝てるワケないじゃない! 気を落とさないで! それにしても、どういう能力スキルなの?」

「俺の能力スキル能力吸収スキルドレインで、どうやら他人が能力スキルを発動する瞬間を見ると俺も使えるみたいです」

「なるほどねぇ、そんな便利な能力スキル初めて聞いたわ。 でも、どの能力スキルもキレがイマイチねぇ……」

「そうなんです、能力スキル自体は使えるけど全く鍛錬たんれんできていないので初歩的なことしかできないというか……」

「アンタ、今ワタシの地獄業火インフェルノを使えるワケ?」

「はい、一応」

「ちょっとやってみせてくれる?」

「分かりました」


 俺は立ち上がり自分の周囲に炎を出すイメージをする。

 すると、俺の体はうっすらとした炎に包まれた。


「本当なのねぇ、確かにワタシも能力スキルが発現したときはこんな感じだった気がするわ」

「やっぱりそこから鍛錬たんれんされたんですか?」

「そんなキツイ事をした記憶はないわね。 ワタシ田舎育ちでヒマだったから常に炎で遊んでたのよ、そしたらいつの間にか能力スキルがレベルアップしてたわ」

「それは特殊な事例な気も……」

「ワタシは自分で言うのもなんだけど天才タイプだからねぇ…… でも大丈夫、能力スキルっていうのは使えば使うほど威力も規模も増していくから、ワタシと模擬戦を繰り返してるだけで相当なものになると思うわよ」

「これを何回も……ですか…… 今日のところは身体中が悲鳴をあげてるので終わりにしても……」

「ダメよ!! ワタシも楽しくなって来ちゃったわ、これからが本番よ?」

「え!?」


 セリカ達は遠くから俺を見つめている。

 できれば代わって欲しい。

 俺は必死でアイコンタクトを送る。

 何やらセリカが手を差し出している。

 なんだ?

 ——あれはグッジョブポーズだ。

 違う、代わって欲しいんだ、応援を求めたワケじゃない。


「さあ始めるわよ!!」

「む、無理です!! た、助けてぇぇぇぇ!!」


 俺はそこから数時間ハウエルにしごかれ続けた。





〜〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜〜



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