第二十六話 脱無職
「も、もう勘弁してください……」
「何言ってんの、まだまだよ!!」
俺はハウエルにしごかれ続けた。
もう模擬戦を何試合しただろうか。
手加減してもらっているとはいえ、こう何回も殴られたり放り投げられていたりすれば身体中ボロボロだ。
「もう立てないってカンジ? 仕方ないわねぇ、今日はここまでにしましょうか」
「お願いします……」
「レンさんお疲れ様です、大丈夫ですか……?」
遠くで見ていたセリカが近寄って来た。
「命に別状はないっていう表現が今は一番適切かな……」
「大丈夫って事ですね!」
「死にゃしないけど死にそうって意味だ!」
「体の疲労はワタシ特製のヒーリングドリンクを飲めば解決よ!」
ハウエルは大きなリュックからボトルに入った飲み物を差し出した。
「ありがとうございます、でもこれ多分疲労じゃなくて怪我ですよ……」
「効くと思って飲めば効くもんよ、さあ飲んでみて!」
俺はボトルの飲み口を開け、体に流し込んだ。
味はフルーティーだがどこか苦い、現実世界のグレープフルーツに近い。
飲んでいると疲労と体の痛みが和らいでいる気がする。
「だいぶ楽になりました」
「でしょ? じゃあ今日は解散としましょうか、また明日の夕方にお店に来てくれる?」
「夕方ですか?」
「趣味でやってる店とはいえ、何日もお店を閉めるわけにはいかないのよねェ」
「確かにそうですね、また夕方にお伺いします!」
「じゃあ皆また明日〜〜!」
ハウエルは大きな荷物を抱え帰っていった。
「さて、俺たちも今日の宿を探すか」
「そうですね、できれば安いところにしましょう。 レン様の所持金がなくなりそうとの事ですので」
「あ、そうだった! 何か仕事を探さないと!」
「まだ日も暮れてませんし、一度街に出てみますか」
「そうしようか」
「わーい、散策です〜!」
俺たちは荷物を纏め、養成所を後にした。
相変わらず外は暑い、真夏のようだ。
——待てよ、あの能力を使えばひんやりできるんじゃないか?
俺は
あくまで凍らせるのではなくて気温を下げる。
すると瞬く間に周囲の気温は下がり、涼しくなった。
まさか隻眼の魔女の能力がこんな形で活きるとは。
「なんかいきなり涼しくなりましたね!」
「レン様、能力を使われてます?」
「ああ、自分が殺されかけた能力をこんな使い方してるのは複雑な気持ちになるな」
俺たちは町の中心部に移動し、買い物(俺は職探し)をした。
いろいろな店に尋ねたが、一時滞在者が出来るような仕事は無いようだ。
このままだと俺は無一文になり、路上生活を強いられてしまう。
セリカとレナにお金を借りるってのはもう無しだ。
もう二人には結構な額の借金をしている。
「あ〜どこかに俺でも出来る仕事ないかな〜」
「兄ちゃん、仕事を探してるのかい?」
ん、どうやら俺のぼやきに対して誰かが反応しているようだ。
声の主は金髪ショートヘアーの女の子で、ボーイッシュな服装と八重歯が特徴的だ。
「今俺に話しかけてる?」
「おうよ! 仕事が欲しいんだろ、兄ちゃん!」
「ああ、ここに住んでるわけじゃなくて一時的に滞在してるだけなんだけど、そんな俺でも出来る仕事はある?」
「ああ、うちの宿のシェフをやってくれねえか?」
「え、シェフ!?」
「うちの専属シェフが腕をケガしちまって、誰も料理できる人がいないんだよ」
「でも俺今まで一回も料理なんてした事ないぞ! ……いや待てよ、家庭科の授業で味噌汁とご飯は作ったか…… でもそんなの料理した事あるに入らない!」
「大丈夫! ケガしてるから手を使えないだけで、シェフはいるから、そいつの指示に合わせて従ってれば大丈夫だ!」
「な、なるほど…… それならできる…… のか?」
「そんなら最初はお試しでいいぜ!」
「なら一回試してみようかな!」
「よっしゃ決まり!」
突然俺は無職を脱した。
「あ、あそこに居た! おーい! レンさん!」
セリカの声が聞こえる、どうやら買い物が終わったようだ。
「セリカ、仕事見つけた!」
「本当ですか!?」
レナとセリカが駆け寄ってくる。
「ついに脱無職ですね! 私が一時的に養ってあげても良かったんですが!」
「それは流石に気が引ける!」
「この人たちは兄ちゃんのツレかい?」
「そうだ、自己紹介が遅れたな、俺はレン」
「アタイはフェラル、宜しくな!」
俺はフェラルと握手をした。
さて、早速職場に向かうかい?
「あ、ちなみに俺ら3人その宿に泊まることはできるか?」
「もちろん大歓迎さ!」
「レナとセリカはそれでいいか?」
レナとセリカは頷いている。
「よし、そうと決まればレッツゴー!」
俺たちはフェラルに続いて宿に向かった。
——歩く事数分、フェラルの足が止まった。
「よし、あれがうちの宿だ!」
「あれが…… 宿?」
フェラルが指さした建物は、宿と呼ぶには綺麗な洋風の建物で、どちらかというとこれはホテルだ。
宿の飯くらいな作れそうだと思ったが、ホテルは高級なフレンチとかが出てくるイメージだ。
料理経験がない人間がシェフなんて勤めていい場所じゃない。
「なあフェラル、やっぱり……」
「さあ、早速支配人に挨拶だ!」
「ちょっと待ってえぇぇぇぇ」
俺はフェラルに手をひかれ、ホテルの門をくぐった。
〜〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜〜
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