第四話 シエラの情報

 情報屋のシエラに連れられ、街の外れにある看板にサイモンズと書かれたバーに着いた。

「ここが事務所か?」

「そりゃ情報屋って大きな看板を出すわけにもいかないでしょ!」


 まあ、確かに。


「さあ、入った入った!」


 シエラに背中を押され扉を開ける。

 カウンターが4席、ボックス席が3席のこじんまりとした店だ。

 既に結構な客が入っており、カウンターでは吊り目でオールバックヘアーのバーテンダーがシャカシャカと何かを振っている。


「いらっしゃいませ」


 冷たい声でバーテンダーは俺たちを迎え入れた。


「ゴメンな! あいつ誰の前でもあんな感じなんだよ。 あ、飲み物は一杯奢るよ! オススメでいいよな!」

「未成年だからノンアルで頼む」

「ノンアルってなんだ? まあここは任せてくれよ!」


 シエラの反応から察するにこの世界にはアルコールという概念がないらしい。

 最もここは異世界、法律を気にする必要もないが、それでも気にしてしまう。


 ボックス席に腰掛け数分待つと、シエラがグラスを3杯抱えてやってきた。


「お待ちどうさま! 特製のマコモサワーだよ!」


 シエラが持ってきた飲み物の見た目は現実世界で言うビールそのものだった。

 飲んではいけない気もするが、アルコールという概念がない以上きっと大丈夫だろう。


「それじゃカンパイしよう、これからよろしくな! カンパイ!」


 シエラの掛け声に合わせ、グラスをぶつけ合う。

 勇気を出して一口飲んでみる。

 美味い、ビールは苦いと父親から聞いていたが、このマコモサワーという飲み物はフルーティーでスッキリとした甘味がある。そしてこの泡部分が濃厚で、スッキリとした液体部分と絶妙にマッチする。


「これは美味いな! 俺でも飲める!」


 セリカも気に入った様で、隣でグビグビいっている。


「そうなんだよ、サイモンが作るマコモサワーは格別なんだ! あ、紹介が遅れたけどあの冷たいバーテンダーがサイモンな!」


 サイモンはシャカシャカを続ける。


「さて本題に戻ろう、先に代金をいただいても良いかい?」

「そう言う契約だからな、ほら」


 銀貨を二枚シエラに手渡した。


「ぐへへ、毎度あり! じゃあウチが入手している情報を言うぜ」

「頼む」

「まず能力スキル空間転移テレポートについて。 半年前くらいから王は空間転移テレポートできる奴を王都に集めていて、一度王都に連れてかれた奴はもれなく王都で消息を絶っている。」

「半年前から……」


 セリカの表情が暗くなる。

 セリカの父親、母親から急に手紙が来なくなった時期と丁度被る。


「そしてこれは噂なんだが、王は空間転移テレポート持ちの能力スキルを応用してバカでかい転移穴ポートホールを作ろうとしてるらしい」


 王は自分の目的のために王都に人を集め、監禁してるって事なのか。

 だがそんなに大きい転移穴ポートホールを出して王は何をする気なのだろうか、想像がつかない。


「あんたら空間転移テレポートについて探ってるってことは身近に空間転移テレポート持ちがいるんだろ? こんな怪しい状況だ、空間転移テレポートは人前でしないほうがいい。 もし見つかったら王都の兵士にすぐに捕まっちまうからな。 兵士の中でも色付きの鎧を着てるやつには注意だ。 四聖剣っていう王都の騎士で、バケモンみたいな能力スキルと身体能力スキルの持ち主らしい」


 ん? 四聖剣?

 今日俺を襲ってきた奴がそんな事を言っていた様な。

 紅い鎧も着ていたし間違い無いだろう。

 あいつそんなにヤバい奴だったのか、逃げきれてよかった。


 シエラは話を続ける。


「あとレン君がこっそり街で聞いて回ってたことの件だけど、世界と世界を繋ぐ能力スキルってのは存在したみたいだ。 この王国が建国された時くらいの話だからすっごい昔だけどな! 今そんな能力スキルを持ってる奴が居るかまでは分からない!」


 なるほど、世界と世界をつなぐ能力スキル、俺はその能力スキルによってこの世界に来たのか……?

 でもこれは朗報だ。

 世界を繋ぐ能力スキルとやらを持つ人を探し出せば、俺も能力スキル吸収で帰れる様になるかもしれない。

 明日以降はその話も街で聞いてみ……


 グラっ。頭が揺れる。

 あれ、少しずつ思考力が鈍り始める。


「あれ、レン君もう酔っちゃったの? このマコモサワーの泡の部分はマコモっていう木の実から作った泡で酩酊効果があるんだよ」

「それ、先に言ってくれない?」


 なんだか猛烈に眠くなってきた。

 仕事終わりの父親が風呂にはも入らずソファーで寝てた時はこんな状態だったんだろうなあ。


「セリカ、大丈夫……」


 目を向けるとセリカは完全に仕上がっていた。

 いつもの愛嬌は無く、目が座っている。


「おっ、お代わり!!」

「やめとけセリカ、これ以上キャラが崩壊するお前を見たくない!!」

「私って一体どんなキャラなんですか!! ちびっ子ですか!! 私だって好きでちびっ子やってる訳じゃないんですよ!! いつかはシエラさんみたいなレディーに成長するんですよ!! レンさん後悔しますよ!!」


 セリカの口が止まらない、こいつ飲んだら説教しだすタイプだ。


「あとさっきから全然シエラさんの顔見てないじゃないですか!! 何なんですか!!」

「うるさい、女耐性がゼロなんだよ!! 察せよ!!」


 異世界に来ても陰キャは陰キャだ、そう簡単に女性に慣れるものではない。

 セリカをなだめ、シエラに目線を戻すと衝撃の光景が目に入った。

 こちらを見つめながらシエラがシュルシュルと服の紐をほどき始める。

 徐々にシエラの柔らかそうな肌があらわになるのを俺は直視できなかった。


「もっとウチのこと見て?」

「や、やめろーーー!!」


 俺は大きな声で叫んでしまった。


「ははっ、冗談冗談、からかっただけだよ! 大丈夫いつか慣れるさ!」


 この調子でからかわれてるといつか緊張で意識を失ってしまいそうだ。


「でもレン君顔自体はそこまで悪くないよね、そのボサボサで長い髪切ったらウチのタイプかも! 美容院紹介してあげるから明日行ってきちゃいなよ! 能力スキルを使って一瞬で仕上げてくれるよ!」


 新しい能力スキルか、できれば間近で見て吸収させてもらいたい。

 シエラのタイプかどうかは関係ない、別に気にしてなんかいない。


「明日行ってみるか」

「その意気だ! 人が変わるのはまず見た目からってね! とりあえず今日はもう日も暮れてしまったし、ここに泊まっていけば? 2階は宿になってるし!」

「当然宿泊は別料金なんだろ?」

「ご名答! 1部屋銅貨15枚で〜す!」


 誘導の仕方がプロだ。

 ただ寝る場所はないのも事実、セリカも家に帰るわけにはいかないだろうし。


「じゃあ2人泊まっていく」

「ありがとうございま〜す! じゃあ鍵持ってくるね!」


 シエラは上機嫌だ。

 隣を見るとセリカは机に突っ伏して寝ている。


「はい! じゃあこれ!」


 シエラは1つの鍵を手渡す。

「お、同じ部屋なのか?」

「今日はあいにく1部屋しか空いてないんだよ! 大丈夫だろ?」

「それは社会的に問題ないか?」

「ツインベッドの部屋だし大丈夫でしょ! セリカちゃんを襲ったりしたらダメだぞ〜」

「言われなくてもな! 俺に幼女趣味はない!」

「ふふっ、あ、今回のことで新しい情報が入ったらすぐに伝えるよ! その分の代金はもういただいてるしな! じゃあおやすみ〜」


 シエラは席を離れカウンターの奥に向かっていった。


「よし、じゃあ部屋に行くか」


 寝てるセリカを小脇に抱えて階段を上がる。

 部屋に入るとシングルベッドが2台置いてある。

 お世辞にも綺麗とは言えないが、まあこんなもんだろう。


 セリカをベッドに入れ、俺はもう一方のベッドに入る。


「お父さん、お母さん……」


 セリカの悲しい寝言が部屋に響く。

 早く父親と母親に再会できる様、王の企みを暴かなくては。


 そう考えているうちに1日の疲れから俺はすぐに深い眠りについてしまった。


  **********************


 朝日が眩しい。

 あまり寝た気がしないが目が覚める。


「さて、今日も情報収集するか」


 周りを見渡すと、見慣れた光景が目に入る。

 見慣れた照明、見慣れた机、見慣れた推しキャラのポスター。

 そこは紛れもなく現実世界の俺の部屋だった。

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